ファミリア

矢引シン

1日目:観察日記

 今日から家族の観察日記をつける事にした。理由は、同僚につけてみろと言われたからだ。安直かもしれないが、確かにこのまま私の記憶だけに留めておくのも勿体無い。

 私の家族はなにぶん癖が強いので、自分の振り回され加減を笑ってくれる人がいるならば本望である。


 日記1回目であるし、今日の出来事を早速記録しようと思う。




2021年9月17日:父


 父は真面目だ。本をよく読むし、政治にも関心があって討論番組は毎週必ず観ている。そんな父を尊敬しているが、一つどうしても許せないことがある。


 夜中の3時に、必ず大きな「屁」をこくのだ。毎日、必ず、大音量で。


 特に夏場は冷房のある部屋も限られているため、私と父は座敷で雑魚寝する。そうすると私だけが被害者となるのだ。夏バテの原因が睡眠不足から来るのならば、元凶は確実にこの男である。家族といえど、人権侵害は由々しき事態だ。

 というか、姉と母は別室で、私を犠牲に安眠を得ているのだ。同罪ではなかろうか? 

 ちなみに弟は座敷と扉一枚をへだてたリビングで寝ている。時たまリビングから大声が聞こえるので、これも最善の選択だと思う。弟の奇声についてはまた別の機会に書こう。


 父の屁に痺れを切らした私は昨日、ちょっとした仕返しを考えた。騒音には騒音である。具体的には、動画サイトからいびき音を引っ張ってみた。

 そして勝負の午前3時、私は彼の放屁とともにいびき音を流した。

 この世のものとは思えない和音が奏でられる。今ならこの音楽で世界中の戦争を止められるのではなかろうかと錯覚したほどだ。どんな屈強な兵士もこれを聞けば小首を傾げるに違いない。そのくらい意味不明な空間が出来上がっていた。

 

 しかし、父は起きなかった。むしろ私の目が冴えた。その後、目を擦りながら姉が部屋にやってきて、父の鼻をつまむ。


ーーフゴッ。


 切ない声と共に、父はまた夢の中へ入っていった。


 私は敗北したのだ。それだけははっきりしている。

 早く冷房がなくても寝られる日が来ますようにと、祈りながらこの日々を過ごすこととしよう。9月も半ば、もう少しの辛抱だ。

 

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