第79話世界の歴史
※7月21日に更新したものが短かったので、追記したものをあらためて更新します。
内容を変更した箇所は特にないので、前回更新時に読んでいただいた方は続きから、初めての方はこのままお進みください。
話は変わりますが、Twitterのアカウント作りました。連携しているので更新時はツイートされるかと思います。
【@hikamori_book】
大して面白くもないので気が向いたら覗いてみてください。
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時刻は数十分前に遡る。
砂漠地帯に転送されたナギやグレイル一行は、ロイ達と同じくS級のモンスターと対峙していた。
モンスターの名前は『ウロボロスオオカブト』。紺色の外殻はLiberalOnline内でも上位の硬度を持つ自動車サイズのカブトムシ、戦闘能力が皆無のこのモンスターがS級たる所以は、〔魔法反射〕と〔無限増殖〕という厄介な特性を持っているからだ。
〔魔法反射〕は文字通り、自身へ向けられた魔法攻撃を術者へ反射する。〔無限増殖〕は対象モンスターが自らの外敵を視認した瞬間から効果が発揮され、20秒経過ごとに分体が100体増殖する。
この分体はウロボロスオオカブトを手のひらサイズまで縮小した『ウロボロスミニカブト』。本体と同様の硬度を誇る外殻をもち、〔魔法軽減〕の特性を持つ単体でC級のモンスターだ。本体と比べたら簡単に倒せるモンスターだが、〔魔法軽減〕を持っているため半端な魔法は意味をなさない。
グレイルが敵に向かって放った〔水槍〕がナギに跳ね返ってきたのを見て、二人は瞬時に理解した。
グレイルは自身の大剣を縦横無尽に振り回し敵本体へ絶え間なく攻撃を与え、その合間を縫って〔龍鱗腕〕で威力の上がった拳で攻撃を繰り出す。
グレイルの動きを読んで完璧なサポートを行うナギの動きにグレイルは思わず笑みを浮かべる。
この完璧な連携によって敵は攻撃する暇もなく、戦闘は10分で決着がついたのだった。
「嬢ちゃんなかなかやるじゃねえか。ただもんじゃねぇとは思っていたが。」
「グレイルさんの方がすごいですよ!カブトムシもグレイルさんの方がたくさん倒してるじゃないですか。」
「ナギの嬢ちゃんの動きはキレがあったぞ。しかもあの身のこなし、どちらかといえば対人戦闘向きだろう?虫相手によくやったもんだ。」
お互いに褒め合い、意気投合したグレイルとナギは固い握手を交わす。その後足元の魔法陣が光を放ったかと思えばいたのは数十秒前まで見ていた景色。
「みんないないなぁ..どこではぐれたんだろ」
「強制転移されたんだよ。ゲームならよくあることだ。ナギの嬢ちゃんはゲームはそんなにやらないのか?」
「このゲームが初めてですね。フレイヤたちのゴリ押しで始めましたが、結構楽しんでます。」
「そりゃあよかった。」
ナギの呟きにグレイルが答え、周囲の確認をしながら今後の動きを考える。
「ロイやフレイヤなら問題ないだろう。俺よりもゲーム廃人なんだし、どうにかするだろ。あの筋肉女漢もいるしな。」
「確かにそうですね。プリちゃんもいるなら大丈夫そうですね。」
「であれば俺らは先に行くべきだと思うが?」
「同意見です。」
「よし行くか」
そう言うが早いか、グレイルが開けたドアにナギや他のプレイヤーが連れて入っていくと、目の前に広がるのは雲の上に広がるあたり一面真っ白の世界。
雲の上に大理石の建物が建ち並ぶという理解できない光景が目に入るが、それよりも理解できないのは扉からすこし離れた位置でこちらに向かって跪く天使達の姿だ。
『貴方様のお帰りを心よりお待ちしておりました。創造神様より命じられて仕掛けた天使のトラップを突破したその実力、そして親しみ深いその魔力、神々しいその容姿。まだ完全ではないようですが、それも時間の問題でしょう。』
最前列に跪く天使の老人が前置きもなく話し始めた内容にプレイヤー一行は頭上に?を浮かべる。
「...えー...」
ナギはチラッとグレイルに視線を向けると、グレイルはそっと目を逸らす。
「一体何のことだか...?」
『理解できないのも無理はない。貴方様はこの場所のことも覚えていないのですから。』
「????」
『立ち話もなんです、お茶でも飲みながらお話ししましょうか。こちらへどうぞ』
そう言って先導して歩く彼について若干の不安を抱きながらもナギたちは歩いていった。
プレイヤー全員が大聖堂内にあしらわれたテーブルで紅茶を飲んでいると、彼はゆっくりと話し始めた。
『世界にはかつて『精霊女王』『魔王』『龍王』という3体の管理者がいました。この3体がそれぞれ統べる精霊、魔族、龍が世界各地に散らばることで世界は平穏が保たれていました。』
彼はチラッとこちらに視線をむけ、話を続ける。
『人間の国の宗教が【魔族】を絶対悪だと決めつけた時から全てが変わりました。』
『宗教というものの伝播率は凄まじいもので、他種族よりも高い身体能力と魔力を持つ魔族を人類の敵と決めつけ、魔族以外の種族全てを巻き込んで無抵抗の魔族に対して殺戮を始めました。』
『魔族の長である魔王は人間の行いに憤りを見せるが、管理者である自分が人間に対して直接的な対応をすることはできなかった。精霊女王、龍王と相談し、魔族の種族能力値を上昇させ調律を取ろうとした。』
『世界のバランスは魔族の能力上昇によって保たれたが、人類VS魔族という長い戦争の歴史が幕を開けたのでした。』
『この世界の不都合を全て魔族に責任転嫁することで人類の共通の敵として認定された魔族、魔物の発生原因ですらも魔族の仕業とされてしまい、魔族に対する悪感情は膨らむばかりでした。』
『単純な実力差で魔族に敵わない人類は精霊、龍に助力を求めた。』
『しかし精霊を視認できるのは一部の自然を愛する種族のみのため戦争の道具には使われることはなく、龍族は人類のくだらない嫉妬による諍いには関わりを持とうとしなかった。』
『そこで人類は、別世界の人間に助けを求めることにした。』
『別世界からの召喚は誘拐と変わらないという一部の意見があったため強行はされなかったが、強化された魔族の中でも特に力をつけた数人が自らを魔王と名乗り、独自の軍隊を率いて人類に戦争を仕掛けたことで“召喚“に異議を唱えるものはいなくなった。』
『別世界から召喚された人々は世界の【歪み】を通る際に大量の魔素に晒され、それぞれ特別なスキルを授かる。彼らは魔族、魔王に対抗する“勇者“として世界各地の戦争に駆り出された。』
『そして魔王の一人が別世界の勇者によって討伐され、自らの力を過信した人類は間違った選択をした。人類からの助力を取り合わなかった龍を人類の敵と定め、討伐対象と認定したのだ。』
『龍王は配下の龍を多く生み出さなかったので精霊や魔族と比べても龍の個体数は圧倒的に少なく、龍に出会うこと自体が稀であった。そのため国の上層部は龍の目撃情報を冒険者から高く買い、その討伐に異世界の勇者を派遣した。』
『しかし龍の持つ力はまさに自然災害そのものであり、召喚時にただスキルを与えられただけの異世界の勇者といえど龍を討伐するには至らなかった。』
『しかし世界中で巻き起こる戦争や無差別な殺害、この風潮の大元が人間の国で興った宗教だと気がついた龍王は、宗教の大元である聖国、教皇に話をつけに行ったのですが...』
そう言って彼は苦しそうに話を切る。ここから先はどうやら苦しい話になるようだ。
『教皇が...』
そう話し始めた瞬間、大聖堂の扉が開け放たれ、天使の一人が駆け込んできた。
『悪魔が天界に侵入しました!!天界の門正面にて天使長が交戦しています!!』
突然の報告に話途中だった天使の老人は立ち上がり、状況把握に努める。
『熾天使様を呼びなさい!天使の軍勢でその悪魔達を滅するのです!敵の数は!?』
『それが、一体なのです...』
『は...?』
状況が理解できない天使の老人を目の前にしてナギはこそっとグレイルに話しかける。
「これってイベントなんでしょうか?」
「設定は手が込んでいると思うが、戦闘に入るまでが雑じゃないか?」
状況が理解できていないのはこの場にいる全プレイヤー達も同じ。むしろ先ほどの話の続きの内容も理解できていない者がほとんどだった。
とりあえず...
「参戦しますか」
「そうだな、そういうイベントなんだろ」
こうしてナギやグレイルといったプレイヤーは大聖堂の扉を出て外に出ると、
『おぉ!?そっちから出てきてくれんのなら天使どもを皆殺しにする手間が省けるぜ!!』
短パンにタンクトップ姿で筋骨隆々、片目に大きな傷を負い背中に悪魔の翼を生やした大男が天使の一人を引き摺って歩いてきた。
『前にお前さんにやられた目の傷が疼いてしょうがなかったんだ!あの後死んだと聞いてたが...ここでリベンジできるとはな!長生きっていいものだな!!』
ガハハ!!と大きく笑う大悪魔にナギはさらに混乱する。
「なぁ、嬢ちゃんはあいつと戦ったことがあるのか?」
「まさか、今日が初対面ですよ?」
「にしてはあいつ、嬢ちゃんを目の敵にしてるみたいだぞ?」
グレイルの言葉にナギはさらに思考を巡らせるが、どんなに考えてもこの大悪魔とは初対面だ。というか悪魔と面識がある時点でおかしいのだが。
大きく笑っていた大悪魔がふと真顔に戻ると、少し落ち込んだように話し始める。
『だがジジイからの命令はお前さんを連れていくことだ。できれば傷をつけないようにと言われてるんだが...きてくれるよな?お前さん自分からきてくれるっていうなら悪いようにはしない。俺にとっては残念なことにな。』
さぁどうする?、というこの大悪魔にナギは一つ問いかけた。
「僕が素直について行ったらここにいるみんなは助かるんでしょうね?」
ナギの質問に大悪魔はキョトンとした後、盛大に笑い始めた。
『そんなわけねえだろ?天使なんて害悪は皆殺しって決まってんだ。お前さん以外の輩は生かしておく価値すらないからな!!!』
そう言って高笑いするこの大悪魔はそのまま話を続けた。
『まぁこう言えばお前さんは素直に俺についてくることはないだろうが、こうすれば俺はお前さんとも戦うことができる。喜ばしいことに痛めつけることは禁止されてねえからな!お前さんを殺しはしねえから安心しろ!!他の奴らは知らん!!』
肩慣らしと言わんばかりに腕を回す大悪魔。最初から戦う以外の選択肢がないことに気がついたプレイヤーたちは途端に殺気立ち、それぞれの武器を構える。
臨戦体制に入ったことを確認した大悪魔はニヤリとした。
『俺は魔界大罪魔将、ガルディア・サタン!精々俺を楽しませてくれ!!!』
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