第63話おさまり




窓から差し込む朝日で目を覚ました渚は、ゆっくりと起き上がる。


いつの間に移動していたのか、渚は自室のベッドで横になっていた。


生理痛は治まっている様子はないが、痛みは昨晩よりは幾分かマシだ。


渚がゆっくりと起き上がると、なにやら首に違和感を感じる。


首あたりに手を当てると、なにやらベルトのようなものが首に巻き付いていた。


巻きついていたと言うよりかは、装着していたと言うべきか。


全身鏡の前に移動し確認すると、赤いチョーカーがちょうど喉仏のところにつけられていた。


「...なにこれ?」


身に覚えのない装飾品に渚の頭は?でいっぱいになり、チョーカーを外そうと指を滑らせる。


「...取れない?」


首の周りを一周してみても、接続部分がわからない。鏡越しでもそれらしきところが見当たらなかった。


取れないなら引きちぎるか、と考えた渚は両手でチョーカーを掴み、左右反対方向に引っ張る。


「んぐぐぐぐぐ....苦..し...」


一向にちぎれる気配のないチョーカーのせいで自身の首が絞まる。


冗談抜きで死にそうになった渚はチョーカーを外すことを諦めた。


「誰が付けたんだろう...?」


首を捻りながら立ち上がると、タイミングよくグゥとお腹が鳴る。


そういえば、昨晩はなにも食べていなかった。お腹がすいた。


何か軽いものでも食べようと思い、渚はキッチンへ向かった。


「お!渚おはよう!」


「お姉ちゃん?なんでいるの?」


コンロの前で豪快にフライパンを振る亜紀に思わず声をかける渚。


「なんでって...渚がぶっ倒れたって紗良から連絡もらってね。看病のために私がきたわけよ。病院にも連れて行った方がいいかもしれないしね。」


みんなはもう学校に行ったよ、と言われたところでようやく時計を見た。もうすぐ昼食の時間になる。


亜紀がフライパンを振りながらそう言うと、フライパンの中身が宙を飛ぶ。


中華料理店でチャーハンを作っている時のような火力とフライパンで部屋の中も暑くなる。


渚はその様子を見ながらも亜紀に話しかける。


「きてくれたのはすごく嬉しいけど、病院くらいなら自分で行けたよ?」


「強がらないの。貧血で気絶してたって聞いたよ?こういう時くらい姉を頼りなさい。」


「...うん、ありがと。」


そう言って渚はソファに腰掛けると、起きてから気になっていたことを聞いてみた。


「ねえ、僕の首についてるこれは何かしってる?」


「ん?あぁ、うちに来る前に師匠のところに寄って渚の容態を話したら渡されたんだよ。付けておけば慣れるまでは大丈夫ってね。」


「...慣れる?」


慣れるって...何に?


生理痛に慣れるってことかな?薬に頼らずに日常生活を送れるようになれ、的な修行なのかな?


渚の表情をみて察した亜紀は「違うよ」と言った。


「慣れるのは力の扱いってこと。弱っていたのもあるだろうけど、中途半端に向こうの世界の者と関わったせいで種族的な特徴が表に出ちゃったんだろうね。半覚醒状態で表に出ちゃうと力の加減ができなくなるから。それを付けておけば角や翼も消えるから今まで通り生活できるよ。」


「...どゆこと?」


「え?」


亜紀の説明に全くピンとこない渚がそう聞き返すと、亜紀もポカンとした顔で声を上げる。


数秒見つめ合うと、亜紀が額に汗を浮かべながら渚に確認する。


「渚、気づいてなかったの?」


「何に?」


「いや額とか、背中とか...」


「なんのこと?」


「...いや、気づいていないならいいや。今はもうないし」


「?」


渚の疑問が解消されることはなかった。




「はい、消化にいいものと思ってお粥作ったよ。」


「フライパンあんな豪快に振ってたのに作ってたのはお粥なの!?」


「意外となんとかなるもんよね」


やっぱり姉ってすごいわ。






*************************************************************************************



亜紀のお粥のおかげかは知らないが渚の生理痛もすぐに良くなり、次の日には学校に行けるようになった。


学校にチョーカーを付けていくのはいかがなものかと思ったが、姉曰く


「師匠がつけるように言ってるんだから付けておきなさい。学校には話付けておくから。」


とのことだ。


卒業生とはいえいまだに影響力があるってすごいな...


そんなわけでチョーカーを付けたまま学校に向かった渚。


「渚ちゃん、注目されてるね。」


「100%チョーカーのせいだろうね...」


香織の言葉に渚ははぁ、とため息をつく。



校舎内に入る時も、廊下を歩いている時も、教室に入った時もたくさんの視線を感じた。


気にしてもしょうがないので渚は机に座って授業の復習をしていた。


なんと本日は定期テスト当日なのだ。


昨日は日課の勉強ができなかったので、定期テストがとても不安だ。


「渚、テスト点数で勝負しようぜ。負けた方が勝った方の言う事を聞くっていうルールで。」


「いいけど...今回テスト問題すごく難しいらしいよ?達也自信あるの?」


「おう!今回こそはお前に勝つ!!」


目をギラギラさせてテストに臨もうとする達也に香織は少し困った顔をする。


「渚ちゃんに勝負を仕掛けるのはまだ早いんじゃないかな...?渚ちゃんに全教科で満点を取られるからって先生たちがテスト難易度を爆上げしてるらしいんだけど...」



ーーテスト終了後ーー




「いやぁ、学年1位取っちゃったかもしれんな...」


テスト終了後、帰宅の準備をしながら自信満々に呟く達也を横目に香織は渚に話しかける。


「渚ちゃんはどうだった?」


「ん、いつも通りかな。8割は取れてると思うよ。」


「いつもそう言って満点とるからなぁ...」


渚の相変わらずの化け物具合に香織は戦慄する。


「文化祭の準備は明日からだよな!?今日は帰って早くログインしようぜ!渚がこの前言ってたやつやってみたいんだよ!」


渚がプリティガールと話したことを試してみたいらしく、テストが終わった高揚感からはしゃぎ回る達也の姿に少し苦笑いをする。


「じゃあ今日は少しログインしてその場所に向かおうか。話を聞く限りではお姉ちゃんいないと出来なさそうだし。」


「そうだな!早く帰ろうぜ!ゲームが俺を待ってる!!」


そう言っていち早く帰ろうとする達也の姿を追って香織と渚は走り出すのだった。





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