新学期×ギルド結成

第45話初登校





「はあぁぁぁぁぁ....」


「どうしたんだ渚、そんな深いため息ついて。」


渚のため息に反応した達也が声をかける。


「いや...わかるでしょ?この姿を見れば」


「まぁわかるが...」


「学校が始まるんだよ....!!」


渚の一番懸念していた日、新学期の登校日である。


真新しい女子用制服に身を包み、その上からエプロンをつけた渚は肩を落としながら朝ごはんを作っていた。


今日の朝ごはんはベーコンエッグにコーンポタージュ。サラダ、ヨーグルトにバターロールだ。それらが全てテーブルに並んでいる。


「制服の女子高生が朝ごはん作ってるって光景がなんか...新妻感があるな...」


「女子高生の新妻って...そういえばそんな本を香織が持ってた気がするな...」


渚がエプロンを外しながら席に着くと、達也が話し始める。


「母さんから聞いてると思うんだけど、追加で仕事が入ったらしく帰る日が伸びたらしいから、よろしく伝えておいてって言ってたぞ。」


「うん、しのママから連絡きたから知ってるよ。」


「あぁ、月末には戻れるかもって言ってたから。それまでよろしくな。」


「うん。」


達也も席につき、朝食を食べ始めた。渚はそこで周囲を見渡し何か足りないことに気がついた。


「そういえば香織は?まだ起きてないのかな?」


「ん?香織はいつも準備に時間がかかるからこんなもんだぞ?」


「へぇ、やっぱり女の子って準備に時間かかるんだね。でも紗良はいつも早いよ?」


「そりゃそうだろ。香織のやつは渚にかわいいって思ってもらえるようにいつも...」


「たつやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???なに言ってくれちゃってんの!!!??」


「ブフォ!!!!」


達也の話の途中で香織がドアを勢いよく開けてリビングへ入ってきた。そしてそのまま達也にツカツカと歩み寄ると思い切り頬を張った。


達也はコーンポタージュを口に運ぶ途中でビンタされたため、スープカップと共に吹き飛ばされた。


「あぁ!?コーンポタージュがぁ!!?」


「え?...あぁ!?ごめん渚ちゃん!!」


渚の悲鳴に反応した香織が床に散乱するコーンポタージュに気付き、渚に謝罪する。


幸いなことにスープカップがプラスチック製であったため割れることはなく、怪我人はいなかった。


少なくともコーンポタージュによる被害は。


「香織、お前はまず俺に謝れ。そして渚、カップよりもまず俺の心配をしてほしい。」


「え?達也はビンタくらい慣れてるかと...」


「ビンタに慣れるってなんだよ...」


年末のバラエティ番組じゃあるまいし...と呟く達也に、ちょうど部屋に入ってきた皐月と紗良が話しかける。


「今のはお兄ちゃんが悪いよ。」


「そうだよ!香織ちゃんのプライバシーなんだから!!」


「うーん、よくわからないけど、僕はいつでも香織は可愛いと思ってるよ?そんなに気にしなくてもいいんじゃないかなぁ...」


渚の唐突のかわいい発言に全員が絶句する。当の香織に至っては顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「「「...はぁ...」」」


「..え?なに?」


達也、皐月、紗良のため息に渚は首を傾げる。


「無意識にこんなこと言うなよなマジで...」


「朝からこんな桃色空間になるなんて...」


「待って?まさかしのママとしのパパが帰ってくるまで毎日こうなんじゃ....?」


「「「......」」」


絶句。そして


「「「糖分過多で死ぬ。」」」


「安心して!みんなの健康は僕が守るから!!」


3人の言葉に渚は的外れな言葉で答えたのであった。




***********************************************************************************




「じゃあ行ってきまーす。」


「達兄、香織ちゃん、渚姉ちゃんを守ってね!」


「任せろ!」「任せて!」


皐月と紗良と別れると、渚たち3人は学校に向けて歩き始めた。


渚たちの家から徒歩で通える距離にある高校は他にも数校あり、偏差値上から下まで大きく差が出ている。


渚たちが通うのはその中でも一番近い距離にあり、偏差値が一番高い高校である。


私立叡賢大学附属叡賢高校。国内でもトップレベルの偏差値で有名な高校だ。


私立でありながら入学金やらが効率と大差なく、規則に縛られない自由な校風で人気があり、卒業生の中には数多くの著名人が存在する。


名前のブランド力もあって進学先や就職先も選び放題、卒業後は生きていくには困らないと言われるほど有名な高校である。


そんな宿命高校の校長も卒業生であり、噂では総理大臣とも知り合いだという。


そしてごく稀に変態に豹変するという噂が教師の間でたっているそうだ。



「ねえ、あの子すごく綺麗じゃない?」


「スタイルがもうモデルさんだよ....」


「あんなにかわいい子いなかったよね?」


「でもどこかで見たことあるような...?」


「転校生かな?一学期はいなかったよね?」


「篠原さんと一緒ってことは一年生かな!?」


「うわ!一緒のクラスがいいね!!」


「そういえば数日前に篠原さんと学校に来てたような...」





「...なんかすごく見られてない?」


校門をくぐりにつれ増える視線に渚は眉を顰める。


敵意は感じないが、ここまであからさまに視線を向けられると嫌でも気になってしまう。


「安心しろ。全員お前に見惚れてるだけだ。」


「そんなわけないでしょ?僕みたいな人に見惚れるのは余程の物好きだけだよ。」


渚の返答に達也はニヤニヤと笑うと後ろを振り向いた。


「余程の物好きだってさ?香織?」


「達也、今日のあなたのご飯は私が作ってあげるわね?真心込めて作るから完食してくれるわよね?」


「悪かった!!謝るからお前の料理だけは勘弁してくれ!!」


香織の言葉に達也が顔面蒼白にして頭を下げた。


「達也、次余計なこと言ったら頬に手の跡がつくくらいビンタするからね?」


「すまん」


そんなことを話している間に靴を履き替え、教室に入った。


「篠原さんおはよー」


「篠原さん久しぶり!」


「香織ちゃん、一つ聞きたいんだけど...」


「達也!宿題見せてくれ!!」


教室に入った瞬間、他のクラスメイトから話しかけられる篠原兄弟。


渚がその様子を横目に自分の席につくと、周囲の視線が渚に集中する。


「なんだあの美少女....」


「ヤベェ、超絶タイプだわ...」


「性別の垣根を越えてもいい気がするわ...ぐふ」


「黒髪ショートか...良きかな」


「あれ?そこは久里山くんの席だけど...」


「転校生?」


「あれ?でもあの顔妙に見覚えが....」


登校中と同じ視線が渚を襲い、渚がビクッと体を揺らした。


「香織ちゃん!彼女知り合いでしょ?紹介してよ!」


クラスの女子生徒が香織に話しかけると香織が笑顔で答える。


「後で自己紹介の時間があるからその時まで待ってて?」


「えー!!?今でいいじゃん!!」


なぜか焦らす香織。達也は後ろで机に顔を伏せ、プルプルと震えている。


「おい達也ぁ!!お前いつの間にあんな美少女と仲良くなってたなんて!!!」


「まさか彼女じゃねえだろうな!?違うよな俺に紹介しろ!?」


肩をガクガクと揺らされながら、達也は笑いを堪えていた。


「ねえ君?よかったら僕と友達にならない?」


一人の男子生徒が渚に話しかけてくる。周囲の生徒が固唾をのんで見守る中、渚は普通に答えた。


「久しぶり南波くん、夏休みはどうだった?」


「へあ?」


南波くんのポカンとした反応に僕は首を傾げる。


「どうしたの?もしかして、僕のこと忘れちゃった?」


「へ?へ?」


南波くんが戸惑う中、周囲の男子生徒の空気が冷めていく。


「「「「「「おい、南波....」」」」」」


「ひっ!?」


かけられる冷め切った声に声を漏らす南波くん。渚が周囲の空気に気が付いた途端、男子生徒が南波くんに襲いかかった。


「テメェ!!?一人だけこんな美少女と知り合いになりやがってぇぇ!!!」


「てめえなんか処刑だこのやろう誰かダンボール持ってコォい!!」


「ちょっ待て!?知らねえよ初対面だっつの!?」


「んなわけあるかぁ!!『南波くん、久しぶり』って言ってたじゃねえか!?」


「ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


「ギャアァァァァ!!!!!」


教室内に野太い悲鳴が響き渡ると、そのタイミングで美田先生が入ってきた。


「おし、全員席につけー」


その声で全員が席についた。南波くんはネクタイがおかしな方向に曲がっていた。


「あれ?久里山くんきてないね...」


「珍しいね...」


生徒たちが珍しがっているところで美田先生が出欠確認を始める。


「よし!全員いるな!」


「「「「「え?」」」」」


先生の言葉に全員が反応した。


「それじゃあ改めて自己紹介してもらおうかな?ほれ、頼むぞ久里山。」






「「「「「...え?」」」」」



「.....先生、そのパスはひどいと思います。」


「やかましい。時間が押してるからはよ」


「はぁ、わかりました。」


全員の視線が渚に集まった。渚は意を決して話し始める。


「えー、久しぶり。久里山です。訳あって女の子になっちゃいました。これからよろしくお願いします。」


そう言って渚は席についた。


クラスメイトは篠原兄弟を除いた全員が固まり、ピクリとも動かない。



「はい、と言うわけで今後久里山は女子として対応すること、以上。さて連絡事項だが...」


「「「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇい!!!!!」」」」」



教室内に轟音が響き渡ったのは言うまでもない。








***********************************************************************************



「ねぇ?...女の子になったって本当?」


「うん、ホントだよ?」


「ってことはその...お、おっぱいも本物?」


「うん、そうだけど...」


「おい久里山!ちょっと触らせてくれよ!!」


「えぇ!?いやだよ!!」


「ちょっと男子!なに言ってるのよ!!」


「サイッテー!!見損なったわ!!」


「ちょっ!!冗談に決まってんだろ!?」


そんな会話が繰り広げられる渚の机の周りを見ながら、達也と香織も二人で話していた。


「...受け入れられてよかったな。」


「そうね...。」


「にしてはあんまり嬉しそうじゃないな?」


「だって、これを機にライバルが増えると思うと...」


「あぁ、無自覚にファンを増やしていくからな渚は.....」


「でも決めたの。これからは全面に押し出していくんだって。」


「でも今はもう女同士だぞ?」


「性別なんて関係ない。渚くんであることは変わりはないから。」


香織の決心した顔を見て、達也もはぁ、と息を吐いた。


「渚は手強いからな。俺は全面的に協力するぞ。」


「うん、ありがとう。」


そんな二人の会話は誰にも聞かれることはなかった。


















「....見つけた。」








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