第37話乱狩り





森の中をしばらく歩いたナギたちは、とても見覚えのあるひらけた場所にたどり着いた。


「ここって前にナギ兄ちゃんが話してたところ?」


「うん、ここならレベル上げにも最適だし。」


今回は1人じゃないから、僕がやったような鬼畜クエストにはならないだろう。


「でも、当時のロイやフレイヤが結構苦戦したみたいだし、僕も結構苦戦したからそれなりに強いんだよ?」


「ナギ兄ちゃんが苦戦したって聞くだけで勝ち目が激減したんだけど..」


シルががくしと頭を下げてうなだれた。


「大丈夫!いざとなれば僕がヘルプに入るから安心して当たって砕けてきな。」


「はぁ...ま、レベル上げにちょうどいいっていうのはそういうことだよね。いずれにせよ頑張らないと...」


メイとシルは大きく息を吐いて気持ちを入れ替える。


「師匠!逝ってきます!」


「いや砕けてきなってそう言う意味じゃないから!!逝く前に助けに入るからね!?」


カエデはテンションが上がっているようで、少しおかしくなっている。




4人で広場に入っていくと、奥から赤い熊がどすどすと出現する。


お久しぶりのブラッドベア(B)さん。相変わらずお元気そうで何より。


「ガアァァァァ!!!!!!!」


赤熊が咆哮を上げると、周囲の木がざわざわと波打つ。


「あれがブラッドベア...強そうだなぁ...」


シルが少し怯えたように声を漏らす。


「いってきます!!うおぉぉぉぉ!」


「あ!私も!!」


カエデが勢いよく駆け出し、それを追うメイ。


赤熊もカエデたちに気がつくと雄叫びをあげて駆け出し、その大きな腕を横薙ぎに振るった。



目の前に迫った赤熊の腕をカエデは棍棒で跳ね返すと、赤熊はもう片方の腕をカエデに向けて振り下ろす。


カエデは目視でその腕をかわし赤熊の顔の近くに飛び上がると、


「ふおらぁぁぁぁ!!」


赤熊の顔目掛けて棍棒を振り抜き、赤熊を遠くへ吹き飛ばした。


吹き飛ばされた赤熊は頭部が消えており、その後地面につくことのないまま光となって消えていった。


「...なんかあっという間に消えていきましたよ師匠。」


「うん...これは予想外...」


まぁ当時の僕よりSTRが高いわけだし、そうなるわな。


呆然としている間にもう一体の赤熊が飛び出してくる。


「「私も負けてられない!」」


シルとメイも負けじと赤熊に突っ込んでいった。




「〔火炎槍〕!」


「〔辻斬り〕!」


シルが正面から放った火属性魔法が赤熊の腹部にヒットし、赤熊がのけぞる。


その隙にメイが背後に忍び寄り手元の短剣で赤熊のうなじを切り裂いた。



はずだった。


「グオォォォォ!!!」



「っっっっっ!?効いてない!??」


切り裂いたはずの赤熊の首はある程度は切り裂いたものの、命までは削り切れなかったようだ。


赤熊は2人を視界に入れた瞬間攻撃を始める。


おもむろに地面に爪を突っ込むと地面を抉り出し土塊を放り投げてくる。


放り投げられた土塊は真っ直ぐメイに向かって飛んでいく。


「!!まずい!!」


咄嗟に左側へ跳躍し土塊を回避するが、跳んだ先に赤熊が迫る。


赤熊の鋭い爪がメイに肉薄するが、空中にいるメイは体勢を変えることができない。


「メイさん!!」


「メイ!!」


カエデとシルの声が響き、メイが目を閉じたその時、


「!?」


赤熊とメイの間にナギが滑り込み、赤熊の爪を“穿血刃“で斬りあげて弾く。


「ふっ!!」


そのままナギが“穿血刃“を振り下ろし、赤熊の腕を切り離した。


「グアァァァァァァ!!?」


赤熊は突如滑り込んできたナギと切り離された腕の痛みに戸惑っているようだが、ナギは気にせず赤熊を蹴り飛ばすとメイを抱えて後ろへ跳んだ。


「シル!もう一回魔法を!!」


「あ、うん!〔風刃〕!!」


シルの放った風魔法が赤熊の首にあたり、残りのHPを削りきる。


赤熊が光となって消えていくのを見ながら、ナギはメイに振り返る。


ナギは笑顔だ。


「ひっ!」


「メイ。空中で攻撃を仕掛けられた時は身をよじってかわすか、自分も攻撃を仕掛けるんだよ?前にも師匠が言ってなかった?」


「は、はい!言ってましたぁ!!」


「覚えてたなら次はできるよね?」


「できます!!!!!」


メイはナギと視線を合わせないまま声を張り上げる。


「なら大丈夫!頑張って!!」


「はい!」


メイはナギの激励を受け取ると新たに出現した赤熊に向かって駆け出していった。







「あれが強さの秘訣ですか...!さすが師匠!!」


「まぁ、メイの身体能力があってこそだよね。ロイくんやフレイヤちゃんでもできないと思う。」


カエデが感動しているところにシルがそう答え、2人はメイを眺めていた。


メイは単独で赤熊に襲いかかり、某人類最強の兵士長のような動きで赤熊を斬り裂いていく。


「私らも行きますか。」


「ですね!!」


メイの戦っていた赤熊が消えていったところでシルとカエデは再度戦いに参加していくのだった。







*************************************************************************************





「はぁ、はぁ、はぁ...」


「もう、疲れた...」


「もう勘弁して....」


カエデ、シル、メイが地べたに転がっていた。


そばにはビッグブラッドベアと対峙するナギ。


「最後のこいつはどうする?3人で相手にする?」


ナギは3人に呼びかけた。


シル達3人はここに至るまで、赤熊50体、大赤熊14体を連続で倒し続けていた。


ナギが次から次へと回復薬をくれるのでHPを気にする必要はなかったが、それでもやはり疲れるものは疲れるのだ。


「ナギ兄ちゃん、頼んだ...」


「もうクタクタ...」


「私ももう動けそうにないです...」


弱々しい3人の声を聞いたナギは軽く伸びをすると、



「ーーーでもレベルも結構上がったでしょ?3人ともよく頑張ったよ。」


ナギは大赤熊の背後に立ち、“穿血刃“を鞘に収めた。


ナギの背後では大赤熊が腕を振り上げた体勢で止まっていた。


その数秒後、大赤熊の身体は斜めにずれた。


そのまま胴体が両断され、光となって消えていった。



「...やっぱりレベルってあんまり関係ないよね?」



メイとシルがそう呟いているのが聞こえた。



「それでレベルはどう?」



ナギが尋ねると、3人は自分のステータス画面を開いた。


「あ!私は20になりました!」


カエデが嬉しそうに声を上げると、メイとシルも


「お!私37になった!」


「私も36まで上がったよ!」


それは良かった。


「それじゃあそろそろ切り上げようか!」


「「「はーい」」」


レベル上げっていう課題もとりあえず終わったことだし、ここら辺で終わりにしておくか...





「はっ、やはりお前はいいな」



突如現れた気配にナギは警戒を最大限引き上げる。


視線を向けると、そこには黒い外套に身を包んだ初老の男性。



ナギはその男を正面から見据えると、鞘に収まった穿血刃に静かに手を伸ばす。


「ーー私に勝てると思っているのか?」


「ーー!!」


目の前に迫った黒い刃を咄嗟に穿血刃で受け止める。


受け止めた刃先から火花が散り、ナギの顔は険しくなる。


「ほう?これを防ぐか。」


そう呟くと男は一度跳躍し、華美な装飾のついた黒い剣を再度ナギに向けて振り下ろす。


ナギは剣の側面を叩き軌道をずらすと、左足に〔龍鱗脚〕を発動し男の脇腹へ蹴りを繰り出す。


「...」


男は後ろに跳躍しナギと距離をとった。


「ナギ兄ちゃん、奴は...?」


「わからない。ただ相当強いよ。」


メイの質問にナギは答えを返せないので、感想のみ答える。





「半覚醒で助かった。この器が覚醒してしまうと私では手に負えんが、現在のこやつになら負けることはない」


「器...?」


聞き慣れない言葉が聞こえた、器?


「足手纏いが3人もいる状態であれば、隙も生まれるものだ。奴を殺した後はついでにその3人も依代になってもらおう」



何を言っているんだこいつは?



「なんだかこのまま終わる雰囲気ではなさそうだね..」


シルが杖で身体を支えながら立ち上がる。


「私もまだ頑張りますよぉ...」


カエデも棍棒で身体を支えて立ち上がった。


ナギは自身のアイテムの中から中級回復薬を3本取り出し、メイ達に放り投げる。


「3人は自分の守りに徹して。私は奴を抑えるから。」


ナギは神経を研ぎ澄ませ、目の前に男に集中する。


「ほほう、やる気だな。ならばせめて名前を覚えてから死んでもらおうか」



男はそういうと外套を放り投げ、自らの姿を露にする。


男の頭部から生えた角に蝙蝠のような黒い翼、燕尾服を着て宙に浮かんでおり黒い剣をナギに向け、声高に言った。


「魔界大罪魔将の一柱、マグモリド・アモン。貴様らの身体ごとその命貰い受ける!!」



『EXTRAクエスト

【魔界大罪魔将から生き延びろ】が開始されました。

 制限時間:30分

 クリア条件:敵のHPを半分以下にすること。

      :死なないこと

 上記2項目のいずれかを達成することでクリア  』   



こうして戦いの火蓋が切って落とされた。

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