第32話周囲の反応





女性用下着売り場から出た渚たち一向はそのままショッピングモール内を見て回っていた。



そして渚を含め容姿が整った女の子がぞろぞろしていると、それはもう人目を引いていた。




「なにあの子達、めっちゃかわいい...!」


「何かの撮影かな?」


「みんなスタイル良すぎでしょ...」


「どこかのモデルさんかな?すごくおしゃれだよね...」


「お前、声かけてこいよ!」


「無理に決まってんだろ!?」


「これは逸材だ!ぜひともスカウトを...」



こんな感じで周囲の視線を集める5人。


そんな中、新しい女性用衣服に身を包む渚は困惑している。


「ねぇ、僕もズボンが良かったんだけど...」


「ダメに決まってるでしょ。今は渚くん...じゃなかった。渚ちゃんの全力女の子の初公開なんだから。」


「全力女の子ってなに!?というか何度も言ってるけどわざわざ“くん“から“ちゃん“に言い直さなくていいから!!!」


香織の回答に対して何度目かわからないツッコミを入れる渚。


香織や亜紀たち女性陣が全員パンツスタイルなのにも関わらず、渚だけは違った。


膝丈の白いハイウエストのフレアスカートにノースリーブの黒いトップス、踵の高い白サンダルに加え、白い生地の小さいショルダーバックというコーデとなった。



化粧については亜紀いわく、


「化粧は必要とは思えない」


ということなので、メイクはなしとなった。



「もう...なんで僕だけこんな格好なの...?」



渚は涙目になりながら、風が吹くたびにひらひらと揺れるスカートを手で押さえる。



「いいじゃん別に。ゲームの中ではもっと派手な衣装でしょ?それに比べたら安いもんだよ。」


「ゲームの衣装とは違うでしょ...?」



紗良の呆れたような呟きに渚は


スカートの防御力がここまで低いとは思わなかった。


こんなにも簡単に捲れてしまうなんて、襲われた時の対処が難しいじゃないか。


咄嗟に蹴りを入れようとした時に下着が見えてしまったらどうするんだ。


まぁ襲われた時に下着を気にする余裕があるとは思わないが。


「うぅぅ...今すぐに着替えたい...」



そう言ってスカートを握って俯く渚。


「それじゃあ渚ちゃんはこの空気になれるためにしばらく別行動ってことで!それじゃあ!」


「え!?ちょっ!!...........逃げられた....」


香織たち4人がそれぞれ別方向に人混みの中を歩いていき、初動が遅れた渚は4人を見失ってしまった。



「...しょうがない。適当にぶらつこうかな。」



渚は元から、目的もなくぶらぶらするのは好きな方だ。視界に入った雑貨をよく見るために店に入ることも多い。



ショッピングモール内はそういった雑貨のお店も多く並んでいるから、暇つぶしにはもってこいだ。


自分の時間ができたと思って楽しませてもらうことにしよう。



そう考えた渚は軽い足取りで歩き始めた。



    











「渚の様子はどんな感じ?」


渚の様子が気になって香織は皐月に声をかけた。



「楽しそうだよ。女の子の服に慣れたっぽいね。」


皐月がニコニコしながら状況を報告する。


「それは良かった。これから毎日着ることになるから慣れちゃうのが一番だね。」


亜紀もニッコリと微笑みながら嬉しそうにそう言った。


女の子に変わってしまった時はどうなることかと思ったけど、今日の様子を見る限りだと問題なさそうだね。


今は夏だし、本人のメンタルの関係で水着の購入はやめておいたが、近いうちに水着も一緒に買いに来よう。絶対に着させたら可愛いに決まっている。



元から変な人やモノを引き寄せる体質ではあるから、私と同程度自己防衛ができるように鍛えてある。


そのおかげなのか、渚のスタイルは完璧だ。


テレビに出るどんなモデルも、渚の引き締まった身体には敵わないだろう。



武道を習っていたからどんな悪漢や変態が襲ってきても、渚なら返り討ちにできるし。


扱いに困らなければ大丈夫だろう。






「.....でも流石にあれは助けてあげようか。」



目の前で複数人の男に絡まれ出した渚を見て亜紀が助けに走り出したのだった。















「いやぁ、助かった!!ありがとうお姉ちゃん!」


「いいのよ、この姿になってから初だもんね。」


ショッピングモール内のカフェにて、コーヒーで一息つきながら亜紀は言った。





渚が一人で雑貨を見て回っていたところ、


「お姉さん1人?良かったら俺と一緒にお茶しない?」


そう語りかけてきた男性2人がいた。



まだ男だった時からナンパを受けることも多かったため、以前は「僕、男なので」という断り方ができた。


しかし、今は男ではない。


れっきとした女の子になってしまっているのだ。


この手は使えない。



しかし思い出したのだ。


僕、ゲームの中でも最初にナンパされたじゃんって。あの時と同じ方法ならいけるって。



というわけで「人と待ち合わせしてるので大丈夫です」を発動。



「じゃあ、その約束の時間まででいいからさ、ね?」



うまく効かなかったようだ。


そのまま渚は腕を掴まれ、どこかに連れてかれそうになる。


そこらの男性に連れていかれるほど力が弱いわけじゃないのでその場から足が動くことはなかったが、女性の扱いがなっていないと思った。


対応に困っていると、その男性の方に手が置かれた。


「私の妹になんかよう?」


男の肩に置かれた手に徐々に力が入っていき、ミシミシ音が鳴り始めたところで男はギャッと声をあげて渚から手を離した。


後ろには背後に鬼が見えそうな笑顔で圧をかけていた亜紀の姿。


亜紀はそのまま渚の手首を掴み、連れていく。


後ろでなにやら喚く声が聞こえたが、亜紀が振り返って睨みつけたら声も聞こえなくなった。



「渚は前以上に自分の容姿に気を遣ったほうがいいわね。渚に限って物理的な危険はないけど、狙われることに変わりはないから警戒しておきなさい?」



「そうだね、次からはもう少し注意する。」



そう言って渚はカフェオレを口に含んだ。



「さ、キリもいいしそろそろ帰ろうか。」




香織の言葉とともに全員が荷物をもち、建物を後にしたのだった。



背後の欲に塗れた視線に気がつかないまま。
















*************************************************************************************










俺の名前は乙倉 海人(おつくら かいと)。



高校1年生だ。



突然だが俺は今、恋をしている。



相手は同じクラスの篠崎 香織さん。



彼女との出会いは中学の入学式の日だ。



教卓の前で自己紹介をしている彼女を見て一目で恋に落ちた。



一目惚れだ。


俺はこの出会いに運命を感じた。



俺は今まで、自分の思い通りに生きてきた。



俺のパパは社長だから、俺の欲しいものはなんでも手に入る。



運動や勉強も誰よりもできたし、クラス全員が俺の下っ端だった。



俺こそがこの世界の中心で、この世界の王なんだ。



そう思っていたところで彼女に出会った。



どこが可愛いなんてない、彼女の存在全てが愛おしい。


彼女こそ、この世界に舞い降りた天使だ。




僕の人生という物語の中のヒロインこそ、彼女だ。



俺はきっと、彼女とここで巡り会うために生まれてきたんだ。



1週間が経った。


彼女は運動もできる、勉強もできる、顔もいい。


どこをとっても俺にぴったりの女だ。


廊下ですれ違う時には毎回微笑んでいる。



間違いない。


彼女は俺に惚れている。


すれ違うたびに笑いかけてくるなんて、間違いないだろう。


これでいい。


このまま一緒に生活していれば、彼女の方から俺に話しかけてくるだろう。


なにせ彼女は俺のことが好きで、俺は主人公なのだから。



そこから俺は待った。


1ヶ月ほど経った。






なぜだ。



なぜ彼女は俺に話しかけてこない。



この俺が話しかけられるのを待っているというのに。



ふと彼女に視線を向けると、彼女は2人の生徒と楽しそうに会話をしている。


一人は双子の兄、篠崎 達也だ。


奴も彼女と同じく勉強も運動もできる、さすがは兄弟というやつか。


顔は俺ほどじゃないが、まぁまぁいいだろう。


将来は義兄弟になるし、彼女と一緒にいたとしても多めに見てやろう。





問題はこいつだ。



彼女よりもひとまわり小さいチビ。


久里山 渚........男だ。



兄弟でもない、男だ。


男子の中でも抜きん出て運動ができ、入学直後のテストでは学年トップの成績だった。


入学当初から俺よりも目立っていた。


理由は簡単だ。


外見はどこからどう見ても女にしか見えないのだ、男のくせに。


周囲から見たこいつはとんでもなく美少女らしい。ありえない。



俺から見たこいつは、ただの女々しい男にしか見えない。


彼女の近くにいるというだけでとんでもなくブサイクに見える。


なんでこいつなんかが彼女の横にいることが許される。


ついでにいうと、あいつは彼女の幼馴染らしい。


幼い時からずぅっと一緒にいたとのこと。



それを聞いた時から俺の頭は怒りでいっぱいになった。



なぜだ。


ここは俺の世界なのに。






中学生の間、俺は彼女の様子を四六時中観察していたが、彼女は常にあいつらと一緒にいる。


たまにあの憎たらしい幼馴染がこちらを振り返りこちらの様子を伺うことがあったが、その様子が勝ち誇ったようにも見えてさらに苛立った。



一度は家を特定しようとしたが、毎度毎度たどり着く前に撒かれてしまう。


あの幼馴染が何かしているのだろう。俺のヒロインに。


あんなやつに俺のヒロインを奪われてたまるか。彼女は俺のものだ。



中学3年の冬、彼女の進学する高校の校長を脅迫して無理やり俺の枠をねじ込んだ。


あの忌々しい幼馴染も同じところに進学するらしい。


本当に腹が立つ。消えてくれないものか。



結局卒業の日になっても、彼女が自分から俺に話しかけてくることはなかった。






高校に入学してから数ヶ月、そろそろ俺のストーリーも動き出すかと思ったが、あの幼馴染のせいで全く物語が進まない。



夏休みの彼女との予定も、あの幼馴染のせいで全く打ち合わせができない。



彼女は俺のことが好きなんだから、誘えば絶対にきてくれる。



そうこうしている間に学校は夏休みに入ってしまった。



どうにかあの幼馴染を消せないものかと考えショッピングモールを歩いていると、彼女を見つけた。


複数人の女性と買い物をしている。


いつものメンバーではない。あの幼馴染がいない。


あの幼馴染に似ているやつがいるが、あいつじゃないなら問題ない。


これは最高のタイミングだ。


このタイミングを逃すわけにはいかない。


神は俺に味方をした。



彼女の家を特定して、毎日会いに行こう。


俺も彼女を想っていると伝われば、彼女も応えてくれる。




彼女は俺のものだ。













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