第27話第1回イベント⑥
【渚/ナギ・亜紀/アリエル視点】
「....渚?」
上空から敵を一掃しようと口元で〔龍魔法〕“雷槌“の発動準備をしていると眼下から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ナギが声の聞こえた方向を見ると、そこには多数のプレイヤーに囲まれる全身真っ黒装備の黒髪美女プレイヤーがいる。
そしてそのプレイヤーのことをナギはよく知っていた。
「お、お姉ちゃん...?」
口元の魔法を解除してナギは降下を始める。
身内贔屓になるが、周囲をまとめて爆破するような魔法をイベント参加中の姉がいるところに撃ち込むなんてことはしたくない!
そしてナギはスタッと姉の隣へ降り立った。
「渚もこのゲームやってたんだね。髪色とかは変えているみたいだけど。」
機械も高かったろうに、と大鎌を手に持ちながらにっこりと亜紀は微笑んだ。
「ゲーム機はロイ...達也にもらったんだ。始める前はあまりやる気はなかったんだけど、やり始めたら思いのほか面白くって...」
「どっぷりハマってしまったと。」
「...はい」
えへへ、とナギは頭を掻くと亜紀は首を勢いよく左側を向いた。
「なんだこいつ、かわいいな...」
お姉ちゃんがボソボソとつぶやいているようだが、よく聞こえなかった。
「あと、僕はナギって名前だから。そっちで呼んでもらえると...」
「あ、そうだったごめんごめん、じゃあ私もアリエルって名前だから.まぁお姉ちゃんって呼んでもいいけどね」
「じゃあお姉ちゃんって呼ぶね」
「うん、わかった。」
さてと、とアリエルは周囲のプレイヤーを再度見やった。そしてナギの頭をポンポンと叩く。
「このプレイヤー達以外にも、プレイヤーは私を倒すためにこれからどんどん集まってくるけど、ナギは別の場所に行ってもいいわよ?」
アリエルは大鎌を構え、ナギにそう言った。
その言葉を聞いたナギは大きく伸びをし、拳を構えてアリエルと背中合わせで敵プレイヤーと相対する。
「まぁお姉ちゃんなら一人でも問題ないとは思うけど、ここは一緒にやろうよ。」
アリエルはその言葉を聞いて満面の笑みで相手と相対した。
「じゃあ手始めに今ここにいるプレイヤーを全滅させましょうか!」
「うん!」
敵もじわりじわりと武器を構えてこちらに迫り始めた。
「こんな感じでお姉ちゃんと共闘するのは初めてじゃない!?」
「そうね!一人残さず消し炭にしてあげましょうね!」
そう言ってナギとアリエルは正面の敵プレイヤーに向かって駆け出し、戦いが幕を開けたのだった。
「はっはははははははははははははははは!!!!」
アリエルが大鎌を縦横無尽に振り回し、プレイヤーの群れを切り開いていく。
予測ができない動きをするため、敵プレイヤーは自らの武器で受けることもできずに身体を散らしていく。
「セアァァァァぁ!!!」
そんなアリエルの背中に剣で斬りかかるプレイヤーがいたが、
「はい、邪魔しないでー」
「ぐはっ!!」
ナギがそのプレイヤーの腹部に拳をめり込ませ、遠くへと吹き飛ばす。
「アリエルだけじゃねぇ!あのちびっこも一緒にやっちまえ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
そう言って一斉に襲いかかってくるが
「〔龍魔法〕“炎“」
「〔死の円環〕」
ナギの魔法によって近くに来ていたプレイヤーは焼き払われ、遠くのプレイヤーはアリエルの投げた大鎌によって頭と首が泣き別れになる。
投げた大鎌を弧を描きそのままブーメランのようにアリエルの元へ帰ってきた。
「大鎌ってそういう感じで使うんだねぇ!」
使う機会のなかった大鎌を容易く操るアリエルを見てナギが目を輝かせる。
「スキルを持っていないうちからこの中ですっごく練習したからねぇ、そしたらいつの間にか〔大鎌〕スキルゲットしてた。」
アリエルは複数人をまとめて両断しながらナギにそう答えた。
実際の話、『Liberal Online』の中で〔大鎌〕スキルを獲得できたのはいまのところアリエルだけである。
「ところでナギ、あなたさっき飛んでたわよね?」
アリエルが敵プレイヤーに手刀を突き刺しながらナギに聞いた。
ここに来るときに空から降りてきたのも気になっていたのに加え、ナギの背中に生えている翼が気になってしょうがなかったのだ。
「うん、種族固有スキルでね。翼を操作できるんだ!こんなふうに飛べたりもするんだよ!」
ナギは近くのプレイヤーの襟を掴んで翼を羽ばたかせ、空高く跳び上がる。
そして上空で手を離しプレイヤーを落とす。
「うわあぁぁあああああああああ!!!!」
落下していくプレイヤーに向けて飛び、腕を引っ掴むと地面へ向けて急降下しそのまま落下の勢いで地面へと叩きつける。
周囲のプレイヤーも巻き込んで叩きつけた結果、大きく砂埃が上がった。それがそこにいた全員の視界を塞ぐ。
「この間に...」
ナギは爪を伸ばし、砂埃に紛れて一人、また一人と敵プレイヤーを細切れにする。
敵プレイヤーを根こそぎ光へと還したナギは、翼で風を起こし砂埃を吹き飛ばす。
「ふうん、便利なスキルねぇ。種族固有ってことはあなた【特異種族】なのね?」
「うん、【龍種】っていうみたい。」
「あらぁ、なんともかっこいい種族になったじゃない!」
龍ならその翼も納得ね、と仲良く会話していると、新たなプレイヤー群がこの窪地へとやってきた。
「もう全滅させられてたのか...さすがは“死神“さまだなぁ、あとなんかちっこいやつ」
ニヤニヤしながら見下したような雰囲気で話しかけてくる痩せ型の男性プレイヤーにナギとアリエルは眉間を寄せる。
アリエルが口を開く。
「私へのリンチみたいな襲撃はあんたが考えたもの?」
その言葉を聞いたそのリーダーのようなプレイヤーは大きく高笑いをしてアリエルへ語りかける。
「そうだよ!お前さんは常にソロプレイをしてたみたいだからなぁ!大人数で押し込めばなんとかなるかと思ったんだが...」
彼はナギをチラリと見ると
「ちんちくりんなガキンチョの足手まといの子守をしながら戦ってるなら俺でも倒せそうだな!!」
「.....あ”?」
「あ、言っちゃったこいつ」
二人の声が響きナギの足元が大きく爆ぜた次の瞬間、リーダーのすぐ横の男性プレイヤーの首がナギの拳によって弾け飛んだ。
「...え?」
殴られたプレイヤーの頭部は血液を巻き散らして爆散し、リーダーの顔面へとその血液が飛んだ。
その身体は直後、力なく横たわり光の粒子となって消えていく。
リーダーのプレイヤーは今起きたことが理解できずに口をパクパクさせている。
アリエルは大鎌を収納し、腕を組んで座った。
「これはもう私は戦わなくていいな。」
“ちんちくりん“と言ってしまった彼は気の毒だが、自業自得だ。
ナギの怒りポイントに触れてしまったのだから。
「だぁぁぁぁぁれぇぇぇぇがぁぁぁぁ.........」
聞いた人が心臓から凍りそうな声を出すナギに、そのプレイヤーは思わず後ずさる。
ナギが目をカッと開くと
「!!!!ちんちくりんじゃボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
ナギの咆哮が地面を揺らし、周囲に風を巻き起こす。
その風がナギを包み込んだ時、ナギに変化が起きた。
彼女の身体がみるみる成長していき、身長が160cm程度まで伸びた。
女性アバターのため胸も成長し、もともとは全くなかった胸がそこそこ成長した。
顔立ちも大人っぽくなり、その姿は髪色以外は全て現実の亜紀と瓜二つ。
成長したナギがそこにいた。
「ふん!」
ナギが瞬時に一人の敵プレイヤーとの距離をつめ、その頬に自らの拳をめり込ませる。
「ブフォ!!!!!!!」
拳の勢いでそのプレイヤーの首から上が弾け飛び、頭がなくなった身体がだらんと倒れ込む。そして光となって消えていった。
その瞬間、敵のリーダーを除く全員がナギに向けて襲いかかる。
ある者はナギに剣を振り下ろすがナギは剣を側面から叩くことで軌道を逸らし、そのプレイヤーの腹部に蹴りを入れる。
またある者はナギにパンチをしてくるが、ナギはその拳を正面から拳で迎え撃ちそのまま顔面に拳を放つ。
ナギはさらに〔錬成武装〕で太刀を生み出し、振り下ろされる斧を受け流す。
そのままそのプレイヤーの胴体を一閃、ナギの視界に光が立ち上った。
「...終わらせるか」
ナギは口元に魔力を集め始める。
徐々に輝きが増していく口元の青い光に全員が危険を感じたのか、やめさせるために全員でナギに襲いかかる。
その判断が彼らの命取りとなる。
ナギは翼を羽ばたかせ、空中に飛び上がると彼らを見下ろし、口を開く。
「〔龍魔法〕“龍星破砕砲“(ドラゴンブラスト)」
ナギが口元から放った夜空のように濃い青色をしている光砲、その周りにはキラキラと金色の光の粉が舞っており、ナギは自分に襲いかかるプレイヤーに光砲を当てる。そのまま自分を中心として円を描くように光砲をぶつける。
その着弾箇所は熱によって赤い線を残すがその直後、鼓膜を吹き飛ばすような爆発音がアリエルに届き、視界には大きく黒い煙が立ち上っている。
窪地だったその場所は一面焼け野原となっており、ところどころから水が噴き出している。
その場所にそっとナギが降り立った。
「ふぅ、スッキリしたーーーーー!!!!」
ナギが思い切りのびをしている様子を見ているのはアリエル一人だけだった。
『タイムアーーーーーーーーーーーップ!!!
これにて第1回イベントを終了しまーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!!」
こうして初のイベントが終わりを迎えたのだった。
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