第26話第1回イベント⑤

【渚/ナギ視点】




時間は数刻前まで遡る。






「なんだこいつ!初心者だと聞いてたのに!」


「こんなに強いなんて聞いてねぇぞ!」


「うわぁぁ!やめてくれぇ!!!」




荒野にて現在進行形で追い立てられる3人のプレイヤーがいた。


このプレイヤーたちは開始直後からナギのすぐそばにいたプレイヤーであり、物珍しそうにしているナギの様子を見て初心者だと判断したのだ。



初心者の割には良い装備だったが、そこは特に気にすることなく襲いかかった。



それがこのザマである。




「逃げるなんて男じゃないですね。最初に襲ってきたのはあなたたちでしょう?」



ナギは背中の翼を羽ばたかせ、彼らの目の前に降り立つ。



そして両手の〔龍の爪〕を数回振り、彼らの身体を切り裂いた。




「こんな...ところで.....」



宙に飛ぶ首がそんなことを呟いていたが、その言葉はナギには届かなかった。



そうして彼らは光となって消えていった。



最初は十数人いたグループだったが、ナギの猛攻によって全滅したのだった。







「思ったより手応えがない人たちだったなぁ。」






付くはずのない血を振り払うように爪を振ると、〔龍の爪〕を納める。




先ほどのプレイヤー達はイベント開始早々、僕を囲んできた。




着ていた装備もそこそこ良いものだったから結構強い人だと思って多少本気で戦ったのに。




1人目はとりあえず飛び膝蹴りで顔面を攻撃してそのまま地面に叩きつけて終わり。


2人目は振り向きざまに頬に拳を叩きつける。勢いがすごかったらしく身体ごと遠くに吹っ飛んだ。


3人目は顎を空高く蹴り上げて、落ちてきたところに掌底を放つ。



4人目は振り下ろした剣の側面を叩いて方向を逸らし、首に回し蹴りをお見舞いした。



5人目以降は逃げようとしていたので、片っ端から〔龍の爪〕で斬り裂く。



振り下ろされる剣を最小限の動きで回避し、爪で首を刈る。



飛んでくる火弾を蹴りで弾き、別のプレイヤーに当てて倒す。



こんなことを続けているうちに周囲には誰もいなくなっていた。




あんなのじゃ肩慣らしにもならないよ。



少し移動をすればもう少しプレイヤーがいるかもしれない。



そう考えて翼を羽ばたかせたその時、






「あなたこの前、ロイと戦ってた女の子よね?」




声のした方向を振り向くと、そこには鞭で手のひらをピシピシと叩きながら歩いてくる黒い服の女性。



「...どちら様ですか?」



ロイの名前を知っているようだし、知り合いかもしれないな。



もしくはロイのことが好きな人なのかもしれない。



彼は結構有名みたいだし、顔もイケてるしね!




「別に知らなくて良いのよ、あなたはここで退場するんだから」




アリスはそういうと鞭を振るい、ナギへと攻撃を始める。



ナギが頭を少し傾けると、鞭がナギの顔の横を通り過ぎる。


それはそのままナギの後ろの地面へと叩きつけられ、大きく砂埃を巻き上げる。



アリスは伸び切った鞭を引くと、鞭の先が戻ってくる勢いで再度ナギに攻撃を仕掛けてきた。


その攻撃をナギは鞭の先を蹴り上げることで自分に攻撃を届かせないようにした。





手元に戻ってきた鞭を見ながらアリスがふぅん、と呟くと




「あなた、そこらの奴らよりはやれるみたいね、楽しめそうだわ!」



この前の娘とどちらの方が持つかしら?と呟いているのが聞こえる。




そういうとナギに向けて鞭を振るい始めた。



アリスが大きく腕を振るうと、鞭もそれに応じて瞬時に掻き消え、周囲の地面を鞭が激しく打ち付ける。



そこから10分ほど、アリスはナギに猛攻を仕掛けるが、アリスの攻撃は一向にナギに当たらない。




ナギは鞭が向かってくるところを見ながら当たるギリギリの場所で回避しており、その場から一歩も動いていない。



他にも〔毒針〕や〔麻痺針〕、〔呪針〕もたくさん飛んできていたが、それらも全て回避していた。



ナギはこのアリスという女性がどれほど戦えるのか試してみたくなったのだ。



結論として、結構戦えることがわかった。



鞭の扱いもものすごく上手だし、針を投げるのも慣れているように感じる。積極的に毒や麻痺を仕掛けているところを見ると、相手の動きを制限させた上で鞭という動きが読みづらい武器で翻弄してきたのだろう。


いずれにしろ結構な場数を踏んできていることが力量から伺える。



まぁ姉や師匠ほどではないが。




「そろそろ僕も本気出すかな...」




そう言ってナギは本格的に相手を狩る準備を始めた。












「ここまで当たらないなんて..。」




アリスの方もなかなか攻撃を当てられないことに少々焦りを覚えていた。



アリスの鞭は10秒ごとに5%の継続ダメージを与える〔毒魔法〕が仕込まれており、鞭の攻撃を当てられた場合にのみ発動する。


一回でも攻撃が当たれば発動し、20分も経てば確実に相手は倒れるのだ。




しかし目の前の相手はどうだろう。



自分の鞭の攻撃は全て見切られているし、状態異常を付与する針は全て回避されている。


様子を見る限りだと、針に付与された効果も大まかに把握しているようだ。




こんなに幼い少女なのに、実力は自分よりも遥かに格上。




そんなの認められるわけがない!



自分は誰よりも強いと認められて、親愛なるアリエル様の横に立つんだ!




そう考えたアリスは鞭の動きを早めた。


絶対にあの娘を倒す!


そう言ってアリスは鞭を握る手に力を込めた。









「そろそろかな...」



ナギは〔錬成武装〕で短剣を2本作成すると、アリスに向かって歩き出す。



飛んでくる鞭の先と針は全て短剣で弾き一歩、また一歩と歩を進める。



アリスに近づくにつれ攻撃の頻度と威力が上がっていくが、ナギには通用しない。



距離が近づくにつれ、アリスの顔がさらに焦ったものに変わる。




ナギは10メートル付近まで距離を詰めると、勢いよく踏み込んでアリスに迫る。



素早く動き出したナギにアリスは反応が追いつかず、気づいた時にはナギはアリスの懐に入り込んでいた。



アリスはすぐさま鞭の柄をナギに振り下ろすが、ナギはそれを難なくかわし、アリスの腹部を強く蹴り上げる。




「がはっ...」



腹部の痛みに悶えながら高く蹴り上げられたアリスはなんとか状況判断に努めるが、腹部の痛みのせいで情報がまとまらない。



その間にナギは翼を羽ばたかせ勢いよく飛び上がり、自分が蹴り上げたアリスの足首を掴むと勢いのままに真横にぶん投げた。



そして〔龍魔法〕“氷霜“を放つべく、口に魔力を収束させる。






「(なんかやばそう!!)」




視界の端ではナギの口元に魔力が光が集まっていくのが見え、そう考えたアリスはなんとか体勢を整えようとするが、空中では思うように身体が動かせない。



「(だめだ!間に合わない!)」



せめてもの防御ということで〔毒膜〕で自分の身体を覆うが、大した意味はないだろう。






「〔龍魔法〕“氷霜“...」




ナギの口から極大の冷凍レーザーが放たれ、アリスの身体を包み込む。




そのレーザーは地面に一直線の線を引き、着弾箇所から両側数十メートルを凍りつかせる。





所々に氷柱が立っているが、それは元々ここらに生えていた木々の凍りついたものだった。




周囲を見渡すと、空は夏のように日光が肌を焼き、雲ひとつない青空が広がっている。


地面は氷の大地が広がり、冷気が冬のように肌へと刺さる。



このような摩訶不思議な状況が広がっていた。




空中にあったアリスの身体は完全に凍りつき、地面に落ちた時に粉々に砕け散った。





「まぁ、そこそこ強い人だったな。」





そう言ってナギは移動を開始した。











「....ん?」






自分が作り出した氷のフィールドが見えないくらいに離れた場所まで飛んでいくと、そこには全身黒いスーツのような衣装を身につけ、死神が持つような巨大な鎌を持つ黒髪の女性が数百人相手にたった一人で戦っているのが見えた。





動きを見たかぎり実力的には全く心配はいらないと思うが、念のため助けに向かおうと思う。




そう考えたナギは彼女めがけて「窪地」フィールドへ向かい始めた。






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ここは山の中の巨大な窪地。



窪地の壁は滝のように水が注ぎ込んでおり、中心は島のようになっている。その島には花畑になっており、“死神“アリエルこと亜紀は開始早々ここに転移していた。




周囲にはすでに複数人のプレイヤーがおり、全員が戦闘体勢に入っている。



アリエルは知り合いからのとある情報を教えてもらっていた。




とある団体が、私アリエルのイベント一位を防ぐべく、非公式に協定を結んでいるらしいのだ。



協定に参加しているプレイヤーはイベント中にアリエルに遭遇した場合、協定に参加している他のプレイヤーに位置情報を送信しましょうというもの。




開始早々位置情報は発信されたらしく、今この場にはどんどんプレイヤーが集まってきている。





イベントの上位入賞の条件がたくさんプレイヤーを狩ることなので向こうから寄ってくるのはありがたいが、終了時間までぶっ続けで動き続けるのは些か面倒だ。



先ほどから集まるたびに倒していっているが、減る数よりも増える数の方が多い。




「はぁ..めんどくさいなぁ....」




そう考えていると、突如周囲がざわめき出した。何事かと思っていると




「な、なんだよあいつ...」




と言いながら空を見上げる男性プレイヤー。




彼と同じ方向に目を向けるとそこには赤と黒の装備をつけ、背中からはナニかの翼を生やし、口元にはスパークを纏う光を今にも放とうとする一人の少女の姿。





アリエルはその顔にものすごく見覚えがあった。



というか知らないはずがないのだ.なにせつい先日まで一緒にいたのだから。








「....渚?」






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