第23話第1回イベント②

【皐月/メイ視点】




市街ゾーンにて



屋根から屋根へと飛び移りながらメイは眼下にいるプレイヤーに向けてクナイを投げる。



投げられたクナイがそのプレイヤーの頭部にクリティカルヒットし、そのプレイヤーが光となって消えていったのを確認すると、メイはふぅっと息を吐いた。



「この役柄は疲れるなぁ。忍者っていうのも楽じゃないな。」



忍び装束に身を包んだメイはスカーフで口元を隠すと周囲の警戒をする。



メイは兄弟の中でも特に身体能力が高く五感が鋭いので、周囲の些細な変化にも即座に気付く。



兄弟の中で唯一渚と同じ道場に通う彼女は、持ち前の身体能力と師匠の指導によって覚醒し、空間把握能力は渚に匹敵するほどとなった。



武術の方は、道場内でも指折りの実力者である。



他の門下生を簡単にあしらうほどの実力はある。一対多でも余裕で勝てるほどだ。



しかし、未だ勝ったことがない人もいる。



師匠、亜紀さん、そして渚の三人である。



この三人だけは、なんだか強さが異次元なのだ。


一回戦って以降、挑戦するのをやめた。




「ナギにいちゃんは結構上位に食い込むんだろうなぁ。」



素であれほど強いのだから、スキルの恩恵を受けたらとんでもなく強くなっているのだろう。



そんなこと考えながら飛んできた矢を片手で捕まえた。



「んな!!??」



矢を射ってきたプレイヤーが声を上げたのでその方向に矢を投げ返すと、そのプレイヤーは光となって消えていった。




「はぁ、戦い甲斐のある敵はいないものか...」



そんなことを考えているとメイの視界の端を黒いものが通った。



危険を感じたメイが後方へ跳躍すると、メイのいた場所がなんらかの攻撃を受けてガラガラと音をたてて崩れ始めた。



「お!あれを避けるか!さすがはロイの知り合いだね!!」



声の聞こえた方向に顔を向けると、体にピッタリと付くような輝く黒い服装に身を包んだ赤い髪の女性が鞭を携えて屋根の上を歩いてきた。




「....だれだあのアダルティな格好の女性は。」




そういう性癖の方なのだろうか。



明らかにS寄りの服装である。あまり関わり合いになりたくないのだが、気になることを言っていた。



“ロイの知り合い“って。




「まぁあのロイの知り合いなら、あんな攻撃は余裕でかわせるよね!」



手に持った鞭をブンブン振り回しながら不敵な笑みを浮かべる彼女。



メイは両手に短剣を構えると、すぐに始まるであろう戦闘に備えた。



次の瞬間、メイとS服女性の姿が掻き消えた。



鞭が周囲を激しく打ちつけ、屋根瓦が次々に弾け飛ぶ。



メイは周囲に飛び交う鞭の先っぽをかわしながら周囲の屋根を駆け回る。



この鞭に当たるのはまずい気がする。



直感だが、何か特別な効果が付与されているような気がする。




「すごい回避能力だ!こいつの効果をなんとなく察しているのかな!?」


「なんか嫌な予感がするだけですよ!」




自由自在に動き回る鞭をかわし続けるメイにS服女性は声をあげる。



鞭に意思が宿っているように感じてしまうほど、鞭の扱いが上手い。



少なくとも、私よりも強い。



迫る鞭を短剣で弾きながらメイは冷や汗を浮かべた。




「む、なかなかしぶといわね...あなた名前は!?」



「メイだよ!今忙しいからちょっと待って!」



攻撃を受けながら唐突に聞こえた質問に、メイは即効で答えた。



「覚えておくわ!ちなみに私はアリス!アリエルさんの忠実なる下僕希望者よ!」



なんか変な言葉が聞こえたが、名前だけは覚えておこう。









「クシュン!」


「あれ?風邪...なわけないけどどうした?」


「いや、なんか寒気がして」


「?」



アリエルの現状に気づいたのはたまたま一緒に戦っていた知り合いのプレイヤーのみである。








鞭の攻撃を短剣で捌きながら、メイは攻撃の機会を窺っていた。



先ほどから必死に攻撃をかわしつつ短剣で鞭の攻撃をいなしているはずが、メイのHPはジリジリと削られている。



鞭は攻撃のあたり判定が大きいらしく、掠るだけでも多少のダメージが入るようだ。



決して多いわけではないメイのHPが少量とはいえ回数を重ねて削られてしまうとすぐに退場することになってしまう。



そんな攻撃を仕掛けてくるS服女性、名前を知ったので以降はアリスさんと呼ぶ。



アリスさんは攻撃を仕掛ける間、ずぅっと涼しい顔をしている。



というか明らかに手を抜いているのだ。スキルを全く使用していない。



〔鞭術〕というスキルがあったかどうかは知らないので、スキルは多分使っていないと思う。


こちらはあと1回でもモロに攻撃を受けたら終わりなのに、アリスさんには一度も攻撃できていない。



なんとか隙を作って攻撃を仕掛けたいが...



「もうそろそろ終わらせようか、ここに時間をかけるのもアレだし」



その呟きが聞こえた瞬間、メイの腹部を強い衝撃が襲う。



「ぐふっ...!!??」



五感をフル稼働していたのにも関わらず、今の攻撃には全く気づけなかった。



屋根から地面へと転げ落ち、メイは砂埃にまみれた。



「うーん、ロイと一緒に行動していたからそれなりにいけるのかと思っていた

けど...」



屋根の上からメイを見下ろしながらアリスはそう言った。



即座に立ち上がったメイだったが、攻撃を受ける前は7割あった残りのHPが今は1割を切っている。




「この前ロイと戦ってたあの銀髪で赤い服の女の子ならもう少し手応えありそうだね...」




アリスがそう呟いているのが聞こえる。




「でも、このメイちゃんもそれなりの実力者っぽいし、倒しておけばアリエルさんの仲間になれるかもしれないな....ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ..................」



途端にニヤニヤし始めたアリス。




とりあえず、距離を取ろう。



メイが後方へ距離を取り始めると、メイの足元の地面が突然弾けた。




「こらこら!なに逃げようとしてんの!あなたはここで終わりよ!」



アリスが再度鞭を振るい、メイの身体に巻きついた。



腕ごと巻き付けられたため、メイは完全に身動きが取れなくなる。



「さぁ、これで終わりだよ!」



そう言って鞭ごとメイを振り回そうとした瞬間、





ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!





遠目に大きな火柱・・・というより高く吹き上がったマグマが見えた。衝撃と熱風がこちらまで届きアリスは思わず目を細める。



その瞬間をメイは見逃さなかった。



身じろぎすることで腕に多少のゆとりを作ると、アリスに向けて手裏剣を放った。



放った手裏剣は一直線にアリスに向けて飛んでいき、アリスの太ももに突き刺さった。



突然の爆音に呆気に取られていたアリスは手裏剣には反応できず、痛みに顔をしかめる。



アリスは思わず手に持った鞭を勢いよく地面に叩きつけた。メイに巻きつけたまま。



鞭の動きに合わせてメイも地面に叩きつけられ、残りのHPも完全に消え去った。




「..よし...一発入れた...」




メイはそう一言呟くと光となって消えていった。






残されたアリスはというと





「.......釈然としないなぁ」





そんな感想を持ちながらメイが消えたところをしばらく見つめていたのだった。











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