第18話力試し






夕食までの時間で課題は渚の協力のもと半分くらいは終わらせることができた。



決して答えを教えたわけではない。



解き方を解説し、自分で気づかせることで理解力がさらに深まることになるのだ。



伊達に高校で学年一位を取っているわけではないのだ。



ちなみに、渚が中学生の時高校生の模試を受けて全国一位になったのはまた別の話。





達也は「そういえば」と前置きを置くと。


「近日中に第一回イベントがくると思うんだが、その内容はおそらくプレイヤー同士の戦闘だろう。」



「え?そうなの?」



渚が驚いている側で香織がうんうんとうなずいている。



このβテスターにしてゲーム廃人の二人は他のゲームの流れからなんとなく予想していたのだろう。


皐月と紗良は当然と言ったような表情を浮かべている。



「夏季休暇は時間がたくさんあるからな。そこに合わせてやるのは当然だろう。明日か明後日にでも発表して開催は1週間後。時期としては妥当だ。」



ほえぇ...そんなことまで考えてるのか、さすが達也だ。




「そこで渚は自重せずに軒並み薙ぎ倒すと思うから絶対に上位に食い込んでくる。」



まあ、やるからには本気で行くからそれなりに上位には行きたいけど...



流石に絶対はないと思うよ?




「だから俺の力がどれだけ渚に通用するか知りたいんだよ。渚とは戦うことになりそうだからな。」



「もちろん全力でやるわけじゃない。練習試合みたいなものだ。訓練のつもりで来てくれ。本番はイベント当日までお預けだ。」


そして達也は渚にこういった。




俺と勝負してくれ、と。




「いやぁ、いつ見てもその装備はやっぱりかっこいいな。」



ロイが荒野のバトルフィールドで感嘆の声をあげる。



「欲しかったら入手方法を教えてあげるんだけど、これひとつしかないらしいんだよ。」



ナギは自身の身体に装備されている【赫血】を見ながらそう答える。



「ロイが使うのはその長剣?」


「おう、ナギは手ぶらでいいのか?」



「うん、手ぶらの方がやりやすい。」


【穿血刃】は今日はお休みである。そのためアイテムストレージへ入れておいた。


今日の戦闘は【格闘術】主体にするつもりである。



お互いに本気の戦闘をするつもりはないため、今日はスキルを使わない。



時間は5分間。終了後にHPの割合が少ない方が勝利だ。




ナギは正面の『開始してもよろしいですか?』ボタンの「YES」をタップし、試合開始を待つ。




『Ready.......Fight!!!』




「っ!」



開始の瞬間、目前に迫る長剣を頭を傾けることで回避する。


そのままナギはロイの顔面目掛けて拳を放つ。


その拳を屈むことで回避したロイはナギの首目掛けて剣を横薙ぎに振るう。



ナギはその剣を手刀で受け止めるとロイの腹部目掛けて蹴りを放つ。



その蹴りを長剣で受けたロイは大きく跳躍すると、空中からいくつもの魔法を放つ。




飛んでくる火弾を拳で打ち消すと、ナギはロイへ向けて跳躍する。


ナギの蹴りを剣で弾くと次は反対側の拳がロイへと迫る。


それをかわすと反対側の手を突き入れてくるナギ。


ロイは咄嗟にその腕をかわすが、ナギはそのままロイの服を掴み地面に叩き落とした。



「がはっ...まじで戦いに慣れすぎだろ...」



背中から地面に叩きつけられたロイはそう呟くが、目を開けた瞬間に立ち上がり後方へ跳び退く。



ちょうどそこには地面に踵落としをお見舞いし地面にクレーターを作るナギがいた。





「ナギ、お前容赦ないなっ...!」


「師匠に言われてるからね。『確実に仕留めろ』って」



そう言ってナギはロイに向けて駆け出し、正面に振り下ろされるロイの剣を器用に受け流している。



ロイはナギの攻撃の引き出しがとても多いことがわかったが、だからといって対処のしようがないことに焦りを覚えていた。


今までのゲームの経験が全く役に立たない。


こんなことあの人と戦った時以来だ。


あの時はお互いに本気でやっていたが、今回は手合わせ程度のつもりだ。


ナギにとっての手合わせはこのレベルなのか。



あの人と戦えばいい勝負しそうだよな。



ロイが〔剣術〕といくつもの魔法スキルを駆使しているのに対し、ナギは〔格闘術〕のみだ。


しかしそれもナギの元々の実力によってなくてもよい存在となっている。強いて言うならば火力が少々危険な程度に上がっているくらいか。


幼い頃から真面目に武道に打ち込んできたことがこうして活きている。



しかし、負けっぱなしは納得がいかない。


ロイも必死にナギの速度に食らいつく。



そこからは剣と拳の打ち合いであった。


ナギの拳と蹴りを剣で受け止め、ロイの振り抜く剣を拳で相殺する。


たまに飛んでくる魔法弾を拳や蹴りで弾き返す。


その速度は低レベルプレイヤーにとっては目視では確認できないものだった。




「おい...あれ、やばくね?」


「あんな超次元な戦いをするプレイヤーがいんのかよ....」




観客席で周囲がざわついている中、フレイヤはメイ、シルとともに二人の戦いぶりを眺めていた。



「渚兄ちゃん、じゃなくてナギくん、あんなに戦えたんだね...」


「まぁ現実でもあんなに動けるんだしできて当然のような気がするんだけど。」


「ゲーム歴はお兄ちゃんより圧倒的に短いはずなのに」


「これは追いつけるのかな..」



メイとシルの会話を横で聞きながら、フレイヤは二人に言った。




「ロイもナギくんも本気でやっていないんじゃないかしら。」



「「え?」」



「【格闘術】はナギくんの本来の戦闘スタイルでもあるけれど、それは現実での話。この世界では魔法も使えるはずなのにナギくんはそれらを全く使っていないわ。」


ナギくんは種族スキルも使っていないみたいだしね、とフレイヤは呟いた。




ナギくんが装備を私たちに見せた日、ナギくんは自分の種族を打ち明けていた。



特異種族だったと言うことに私たち全員が興奮していた。


種族スキルや種族特性のことも話してもらった。



「ロイも今日は【天叢雲剣(あめのむらくも)】は使っていないわ。武器屋で買った鉄剣だからスキルも全然使っていないみたいだし、お互いに力試し程度なんでしょうね。」



「(いや、ロイは少々本気を出しているわね。流石にナギくんのスピードについて行くのは厳しいのかしらね。)」



ロイはβテスターの中でも高レベルかつ強プレイヤーなのだ。情報収集としてたくさんのプレイヤーがこの戦いを観戦している。



いくらナギが相手だからといってロイもこのPvPで情報を漏らすわけにはいかない。



しかし、今目の前で繰り広げられている激しい攻防を見る限りナギにも十分な注目が集まっているみたいだ。



ロイに比べてナギは全くの無名のプレイヤーである。


そんなプレイヤーが高い戦闘能力を持っていたらそりゃ注目も集まるってものだ。



フレイヤはそんなことをぼんやりと考えながら試合終了のブザーがなったのを確認したのだった。



試合は引き分け。お互いのHPは半分より多少上ほど残っていた。



野次馬が多かったからお互いにこれくらいで済ませたのだろう。



「ロイくんは近接強いんだけど... ナギくんには敵わないみたいだね。」



「いや、ナギ兄ちゃん動きが人間辞めてるでしょ。あんな動き初めて見たよ。」



シルとメイがそれぞれ思ったことを口にしている。



「私たちも頑張らなきゃ!」


「そうだね!少しでも早く追いつかなくちゃ!」




全力全開でやるのはイベント当日まで待機。




私も頑張らなくちゃ。




フレイヤはそうひとりごちた。








**********************************************************************************




「おぉ!やるねぇあの娘!あのロイ相手にあそこまで!」



彼女はとあるPvPを客席で観戦しながら呟いた。



あそこまで戦い慣れている人を見るのは久しぶりだ。



一体どれほどたくさんのゲームをプレイしてきたんだろう。



ぜひ戦いたいなあ。



しかし、今はまだだめ。



まだ仕事中なの。



私は有名どころのプレイヤーの調査をしている。


あの人に情報を提供するためだ。


あの人は情報がなくても実力でゴリ押しする。前にも情報はいらないって言われたんだけどね。


これはワタシがあの人と一緒にパーティを組みたいから勝手にやっていることなのだ。



あの娘は絶対に強い。だからワタシが倒す。


ロイもフレイヤもあの娘もミーシャもあたしが倒す。



イベントが来たら全員ワタシが倒す。



あの人は強いひとと戦うのが大好きなのだから。



そのためにワタシは強くなる。



奴らを倒してワタシは強くなり、あの人と戦う。


そしてとても強いワタシだけを見てもらうんだ。



「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ....」




待っててね。



ワタシの愛しのアリエルさん。






そして次の日、第1回イベントの詳細が発表された。


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