悪役令嬢のハズが気づいたら女帝になってたんだが?

@tikurin818

第1話 始まり

 それは一瞬のことだった。


「ユリア!!!」


 聞きなれた声が響くとともに、ザボン!!と水の跳ね返るような音に包まれた。

 遠ざかる水面、ドレスが纏わりついて思うように動けない。


(え、あ、わたくし…!)


 突然の冷たさ、そして息苦しさに襲われた彼女には何が起きたのか理解できなかった。手を伸ばそうにも、足を動かそうにも、何も自分の思うように動かない。息が苦しい。


(怖い、こわい!)


 ぎゅっと目を瞑り、息が苦しさから抜け出そうと藻掻いても何もできないまま、ユリアは深く深く、ゆっくりと沈んでいく。


 さっきまでは婚約者と庭園を散歩していたはずなのに。ほんの一瞬、近くで羽ばたいた鳥に驚いて思わず飛びのいてしまった。それがまさか、そのまま足を滑らせて池に落ちてしまうなど、誰が思うだろう。

 滑って落ちた衝撃に身構えることもできず、そのまま息を吐きだしてしまったユリアには、もうどうすることもできなかった。水を大量に飲んでしまった上に、酸素もない中、まだ幼いユリアの視界は苦しさとともに暗くなっていく。


 ユリアはこの日は朝から浮かれていた。彼女の婚約者であるアルフィード第一王子が公爵邸を訪ねて来たからである。ユリアはまだまだ幼く、婚約者としての自覚はまだ薄かったが、それでも「将来の旦那様」という言葉には敏感だった。少なくとも、5歳の少女に夢と憧れを持たせるには十分。


(し、死にたくない…!)


 思い浮かぶのは、憧れの未来の旦那様の顔。アルフィード・フリージア、この国の第一王子、そしてそう、何といっても【戦乙女の涙】のメイン攻略対象…!


(…?)


 いま、一瞬何か…、と脳裏をよぎった気がしたユリアだったが、もうすでにそれどころではなかった。苦しさに限界が訪れ、手を動かすこともできない。目が開いているのか、閉じているのかすらもわからない。

 そのまま、ユリアは完全に意識を失ってしまうのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る