第107話 - 壊滅
吉塚仁たちが百道コンテナターミナルを去ってほどなくして、福岡県警は現場の処理を始めた。百道地下ターミナルにて徳田花と田川太志、霧島和人の3人が制圧した近藤組の末端13名と、幹部の1人である中本秋人を合わせた14名は首の無い死体となって発見された。これらの死体の特徴から
そして花が百道船着き場での戦闘の末に無力化した皆藤勝を始め、現場処理・搬送を任された警官11名、花と共闘した6名の行方が消えた。花は皆藤を撃破し、後処理を任せた後すぐに百道コンテナターミナルへと向かい、制圧に尽力していたためにその異常を把握していなかった。
––––福岡県第3地区第2セクター(能古島)4 – 12 暴力団『
緑豊かな自然に囲まれて各所に絶景スポットが存在し、観光客の多い能古島においてこのセクターだけ他とは違い、物々しい雰囲気を醸し出す。古民家が大半を占めるこの離島においてこのセクターの中央には田舎とは不釣り合いな20階建ての巨大ビルが建設されている。その周りを5〜7階程度のマンションや一軒家が囲っている。中央の巨大ビルは福岡裏社会における4大勢力の1つである『鹿鳴組』の総本部として知られ、周囲の家々は構成員の居住地である。
中央のビルは『那由他ビル』と呼ばれ、事務所として機能している他、現34代目組長・
那由他ビル屋上に一人の男が立つ。男は口と顎を
マスクを着けた男の正面には77歳の鹿鳴那由他が睨みをきかせる。那由他は77歳と高齢で、杖を使って身体を支える必要があるほどに老いているものの、その眼光は刃物のように鋭い。一般の者ならばその立ち姿だけで威圧されてしまうだろう。那由他の隣には若頭・
「まだか?」
不意に鹿鳴那由他がマスクの男に尋ねる。那由他の声色は落ち着いているものの、杖の持ち手を指でトントンと叩いており、イライラしている心境が窺える。しかし、マスクを着けた男は微動だにせず、金属製の細長い長方形の隙間から僅かに見える目が那由他の方へ若干動いただけである。
「親父が聞いとるんや、答えんかい!」
取り巻きの1人が男に向かって叫ぶ。那由他は手を挙げてそれを黙らせると息を吐いて間を置き、マスクの男に告げる。
「まぁ、えぇわ。ちゃんとやっとってくれるんならな」
ほどなくしてビルの階下よりバチッという音が聞こえ、黒い影が上空を舞う。マスクの男以外はその影を追って上空を見上げる。その影はそのままマスクの男の隣に着地した。歯を剥き出しにし、切れ長な目に根元からは赤い逆十時の紋様が施された不気味な仮面を着けた男、
「やっほー、
「お取り込み中すまんが持って来たんかいな?」
那由他の言葉に気付いた
ギュインッ、という音と共に上空から黒い影が落下する。グシャッと生々しい音がした後にそれは那由他の足下に転がる。近藤組幹部の1人、皆藤勝の生首である。那由他と若頭の木下、ボディーガードの3人はその首には動じていないものの、周りを取り囲んでいた、特に若い衆はその光景を見て動揺が走る。
「面倒くさくて周りの人たちも殺しちゃった♪ それは皆藤クンの分で中本クンの分はボクのお友だちが処理したから安心しなよ」
「ご苦労だ。近藤は?」
「それもボクのお友だちが終わらせたみたいだよ。約束通り、彼の一部臓器はボクらが貰っていくよ」
その言葉を聞いた那由他は大声を上げて笑い、その後に手を挙げて詫びながら話す。
「失礼。礼を言うぞ」
那由他そう言いながら笑いを堪えるも、内心は笑い続けていた。
(これで邪魔なガキ供は消えた。俺らのシマを好き勝手荒らしたツケたい。あいつらは調子に乗り過ぎたんや。石森組を潰したんはありがたかったが、その後に自分たちも大きく支配側になろうとしたんが間違いやったんや。歴史ある俺ら4大勢力への仁義を無視することは許されねぇ)
那由他は杖を突きながら歩いて近付き、右手で
「ご苦労さん。今後もこんな感じで頑張ってくれや」
––––ザシュッ
那由他の右腕が肩ごと上空へと舞う。左手で傷口を押さえながら那由他が跪き、悲鳴を上げる。
「何しとんや、我ェ!」
若頭の木下が怒号を上げた瞬間、木下は側頭部から斜めに真っ二つに切断されて絶命する。
「まるでボクらがキミの部下みたいじゃあないか。今回は近藤クンの〝パーツ〟が欲しかったボクらと、彼らを壊滅させたかったキミたちの目的が一致しただけ」
ボディーガードに支えられながら那由他は
「わ……分かったッ! 悪かった! だから……止めてくれ!」
すると周りを取り囲んでいた部下数名が味方に襲いかかる。
「おま……
意識が残ったまま味方を襲う。また、既に絶命した者も動き始めて周囲の者たちに襲いかかる。
「か……身体が言うことを聞かないんだッ!」
那由他は震えながら周りを見渡す。顔中には大量の汗が吹き出し、恐怖で目には涙が溜まっている。
「い……一体何が起こっとるんや!?」
その様子をしばらく愉快そうに見ていた
(俺は殺される)
そう覚悟した瞬間、那由他の首がバネのように伸び、それを伸縮させながら
「ヤメるかどうかはボクが決める。そして殺すかどうかも、ね」
那由他の首のバネは伸びきる。
「あ、弾性限界に達しちゃったね。ま、バネ定数も小さくしてたから変形し易くしてたんだけど」
「あーあ、やっちゃった。一気に3大勢力になっちゃったね」
「白々しっ」
「
「そんなことないよ?」
「そもそも来るの遅かったじゃん。皆藤くんの首持って来るくらい簡単なのにさ。このビルの中の人たち殺してたんだろ?」
それに対して
「4つで良いバランスだったものを1つ減らしてみたらどうなるか面白そうじゃない? 戦争が起こるのか3つの勢力で均衡するのか。それにさ……」
「せっかくお客さんが来るんだし、レッドカーペットでお出迎えするのも礼儀かな? って」
「もう少し趣味の良いものを期待したいものじゃがな……」
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