第104話 - 葛藤
「ハァ……ハァ……♡」
マスクを上にずらして素顔を露わにした
「あぁ……お人形さんみたい……。久しぶりにこんなに近くで見ると本当、自分を抑えられなくなるわ……」
「サイクスの量が急激に増えて髪色が変わったのねぇ。こうして強くて美しい女の子になっていくのね……。15歳の女の子に恋してしまいそうだわ」
そう言いながら
(フム……。妙な
仁は
(黒いドーム状のサイクス内で超能力が発動するのは明らか。そしてその範囲内での斬撃によるダメージは無効化される。問題は……)
瑞希の身体を中心として展開されている黒いサイクスのドームを眺める。
(その斬撃は奴が関わったもののみに適用されるのか? 黒いドームの発動条件とは何か? 若造を解剖した力とこの身体を入れ替えたものは何か……)
自身の孫の頭部を愛でている
「死にたくねぇよぉ……」
不意に発せられた町田の言葉に仁は振り向く。その言葉は
「ねぇ、あなた今その身体動かせるでしょう? そのままドームの外へ出てごらん? あなたと瑞希ちゃんの立場が逆転するわよ?」
町田はその言葉を聞くと恐る恐る
「そ……それは……俺は生きていられるってことか?」
「そうよォ! 15歳の女の子の身体になってしまうけれど、あなたの意思は生き続けるわよ!」
(まずいのォ……)
2人の問答を聞いていた仁は町田の表情の変化を見て仁の中で一縷の焦りが生じる。
(俺は……生きられるのか!?)
町田の中で希望が芽生える。
そんな状況下で別の身体に接続された自分に希望が与えられた。今年43歳を迎えて20年目と節目の年を迎えた県警生活。美しい妻を持ち、10歳の長男に5歳の長女という子宝にも恵まれた。自分の給料も徐々に増え、人並み以上に幸せな生活を送っている。
––––生きたい
同時に町田の中で葛藤が生まれる。
––––俺に関係あるか?
町田の中で悪魔の囁きが響き渡る。自分はこれまで20年という長い年月、市民のために身を粉にして働いてきた。何度か危険な任務を乗り越え、常に全力を尽くしてきた。そんな自分の最期がこれでは納得がいかない。
(もう良いじゃないか……)
町田は心の声に従い、接続された15歳の少女の華奢な身体を動かせることを確認し、両手で支えながら上体を起こす。
––––ヒュンッ
「えっ?」
町田の頭部が再び宙を舞う。ドーム内であることからまだ意識を保っている町田は一瞬の出来事で何が起こったのか理解できなかった。
「へぇ」
「万が一のため、斬り捨て御免」
町田が上体を起こした瞬間に仁は右手で一閃、町田の首を刎ねた。その際、〝レンズ〟を使用して首の切り口を把握し、その境界を正確無比に切断した。仁は浮遊する町田に声をかける。
「お主のお陰で奴の
町田の表情には後悔とも怒りとも取れる感情が浮かぶ。
「お主の選択は至極真っ当じゃ。だが……」
言葉を聞きながら視線を落とす町田を見ながら仁は優しくも厳しい口調で告げる。
「これまでの立派な働きに泥を塗るな。責務を全うし、誇りを持って死を迎えよ」
町田はゆっくりと
「冷徹ね。希望を持った者に絶望を与えるなんて」
2人のやり取りを静観していた
「何を白々しい。どちらにせよ殺すつもりだったじゃろ」
仁の言葉に対して
「あら、お爺ちゃん、疲れているの? もっと速度を出せば当たっていたかもしれないのに」
「確認じゃよ」
仁は
「斬撃以外は避ける必要があるみたいじゃの。範囲内においてはいかなる斬撃も効果はない。例えお主以外の者同士でもな。この男がまだ生きているのが良い証拠じゃ」
「私、答え合わせなんてしないわよ? よくいるのよ。自分の
仁は顎を軽く摩りながら返答する。
「それに関しては同感じゃ。アニメや漫画でよく見受けるが、違和感バリバリじゃな」
「へぇ、そういった娯楽も好きなの? 私たち、良い
「歳を取ると暇でのォ。お主もその内、理解できるぞ」
「年の功ね。覚えておくわ。楽しみはまた今度にしようかしら。私も忙しいのよ」
そのまま
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