第101話 - 愛の痛み
「あぁ! 何て麗しいお嬢さん!」
柳は抱えている瑞希を見て叫ぶ。
「仁先生、見て下さい! この透き通るように白く美しい、きめ細かい肌に端正な顔立ち! 美しい瞳にどこか儚げな印象も相まって正に芸術作品のよう!」
柳は目を輝かせながら仁に話しかける。仁は「うるさいのぉ」と呟きながら頭を指で掻きながら答える。
「ワシの孫じゃ、顔は知っとる。それに目を閉じとるんだから目が美しいかどうか分からんじゃろ」
「いえ、見なくとも分かるのですよ! 心で!
仁は「どっちも同じ意味じゃろ」と呆れたように呟き、肩が大きく下がって力が抜けたような反応をする。
「だからこそ許せない!」
柳はそれまでとは比べ物にならないほどの力強いサイクスを纏う。
「この美しいお嬢さんに手を上げたあの男が許せないのです! 見て下さい! 私の怒りが赤く! 真紅に染まった力を持って放出しているではありませんかッ!!」
––––ゴゴゴゴ……
「それは君が身体刺激型超能力者だからだろう」
2人の背後から鈴村が
「お主ら少し黙ってくれんかのォ……。ワシ、とっとと可愛い孫を傷つけた奴の片付けをしたいんじゃが……」
そう言って仁は近藤から視線を外し、鈴村と柳の方を振り向く。すると仁の隣を近藤が通り過ぎ、瑞希と柳に殴りかかる。
––––ゴッ
柳は瑞希を抱えたまま近藤の方を見向きもせずに顔面に右拳を直撃させ弾き飛ばす。
「
近藤が吹き飛ばされた方向を見ながら柳は怒気を込めて告げる。目には激しい怒りが孕み、両腕の筋肉が肥大する。
「誰がレディーだ。それに今話していたのは先生だろう」
鈴村はそう言いながら瑞希と柳の元へと向かう。
「心が
柳の言葉を聞いて「ワシはちゃうわい」と呟く。それを聞いて鈴村は「先生、ワシたちはでお願いします」と懇願する。鈴村の言葉に反応を示すことなく仁は柳、鈴村の両名に告げる。
「負傷者は任せたぞ。お主らの
––––〝
鈴村圭吾の物質刺激型超能力。乗り物を含めた建造物の見取り図を自身の
鈴村は座り込んでいる花へと近付き、
「人質とされているのはこのお二人で間違いないですか?」
花はコクッと静かに頷くと鈴村は満足そうに「ありがとう」と告げ、再びサイクスを纏いって床に触れる。
––––〝
〝
鈴村が床からゆっくりと手を離すと意識を失っている萌と結衣が現れる。
「忘れ物をした時に便利な超能力よね」
「人命救助だ、馬鹿が」
柳の言葉にイラッとしながら鈴村が返す。
「仁先生、そこの小物は私が片付けますわ。先生のお手を煩わせるほどの者ではありません」
柳は近藤の方を指差した後、床に丁寧に並べられた萌、結衣、瑞希の服を少しはだけさせる。
「ちょっとそこの可愛い男子、こっち向いちゃダメよ」
それまでの3人のやり取りを見て呆気に取られている和人を見ると、柳は両人差し指で口元にバツ印を作りながらウィンクをして注意する。
「あなたも怪我しているようだから後で私がじっくり治してあげるわね」
––––〝
柳大雅の身体刺激型超能力。負傷者の胸部に直接触れることで自身のサイクスを流し込み、患部とその状態を把握する。怪我やその痛みを集中させたサイクスを患者の体内に作り出し、痛みが込められたサイクスをそのまま抜き取って柳自身に取り込む。その込められた痛みに柳が耐えきることで患者を完治させる。
痛みに耐えられなかった場合、柳大雅は死に至り、負傷者の治療は失敗となる。この超能力は自身にも適用可能である。
「これが愛の痛み! 愛による痛みは私を強くする!!」
––––〝
柳の〝
柳は隙を突いて攻撃を仕掛けてきた近藤の魚雷群を物ともせずに近藤を殴りつける。
(何や、このふざけた奴らは……!)
近藤は吹き飛ばされた後、息も絶え絶えにその圧倒的実力に度肝を抜かれる。
(とんでもなく強い……!)
花も同じく鈴村と柳のサイクスに驚愕しているうちの1人である。そしてそれを従えている吉塚仁に一種の恐怖すら覚えている。
(吉塚仁……。あまりにも有名な名前だから噂には聞いていたけど……。間近で見るとレベルが違いすぎる! 70歳を超えてもなお、暴走した瑞希のサイクス量を遥か凌駕する……!)
「田川ちゃん!!!」
腹部に風穴が開き、瀕死状態で横たわる田川を見つけた柳は、大声を上げてすぐに側に駆け寄る。仁の「知り合いか?」という問いに柳は患部を観察しながら答える。
「えぇ! 隣人です! こんな酷い……! すぐに治療を開始するから待っててね!」
柳はすぐさま
「重傷だが耐えられるか?」
その言葉を聞いて柳は少しだけ微笑みながら答える。
「ふふ。
呆れて言葉を返すことができない鈴村を余所に柳は超能力を発動する。〝
「あぁ!! 痛い!! この腹部の痛みッ!! これは正に子を持つ母の愛の痛みィィ!!!」
柳の叫びに対して耳を押さえながら鈴村が「物理的痛みだろう」と言い放ち、全員をコンテナ船の外へ避難するよう指示する。
––––ヒュッ
柳は一瞬にして近藤の目の前に移動し、その拳を振り上げる。
––––ゴッッッ!!
近藤は何をされたか理解する間もなく顔面に衝撃を覚え、そのまま意識を失う。近藤の身体は雨上がりの虹のように緩やかな弧を描いてコンテナ船外へと大きく投げ出された。
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