第96話 - 均衡
「何やこれ! 力が湧き立ってくる!!」
近藤の周りを円形状に〝爆撃魚雷〟と〝衝撃魚雷〟が並び浮遊する。
「発射!!」
近藤の命令によって全ての魚雷が発射され、コンテナ船のあらゆる場所へと直撃して破壊が開始される。
「近藤さん、水っす」
部下の1人が20リットルの水が入ったポリタンク2つを近藤に手渡す。
「おう、すまねぇな」
––––パキョッ
近藤の部下の右腕が捻じ曲がる。声にならない悲鳴を上げながら倒れ込む部下を横目に近藤は自分の左腕を見つめる。
(普通に受け取っただけやのにこんだけのパワー……! 俺の身体に何が起こったんか分からんが、俺自身の身体機能が爆発的に上がっとる!)
跳ね上がった自身の身体能力に近藤は驚く。それに自分のサイクスが合わさった時のパワーに自身の超能力との併用を想像して近藤は身震いする。
(俺が最強や。福岡……いや、この国を牛耳れる!)
近藤は受け取った水を飲み干した後に燃料となった水分が全身を駆け巡る。近藤は、〝
––––〝
花は近藤に靴で軽く触れて条件を満たし、既に皆藤の姿に変身している。そしてその〝
本来ならば〝
(皆藤は身体刺激型超能力者であるはずなのに青いサイクス、精神刺激型サイクスが溢れている。つまり、皆藤は精神刺激型超能力者の何らかの
さらに皆藤が武器を使って攻撃してきたことから、操作されている者のサイクスや超能力は使用不可能で、武器や打撃を駆使した攻撃しかできないと近藤は推測した。
(今の俺のパワーで攻撃した場合、いくら皆藤の屈強な身体といえどもサイクスを纏っていない状態でモロに喰らえばアイツの身体を破壊しかねない。クソ、力のコントロールがまだ分からねぇ……!)
地面に倒れる田川は物質刺激型超能力者、和人は物質生成型超能力者、町田は自然科学型超能力者、そして金本は非超能力者である。精神刺激型超能力者に該当する者が不在であることに警戒心が強まる。
(どこにいやがる!? 少なくともあと1人いるはずや、精神刺激型超能力者が。発動条件も分からねーから俺も超能力にかけられてしまう可能性もあり得る)
精神刺激型超能力者の強みは発動条件を満たしてしまえば対象者の意識を支配することである。いくら肉体が強かろうが自由を奪われてしまっては意味をなさない。花の思惑を察した町田は〝
近藤に対峙するは皆藤の姿をした花ただ1人。しかし、全力を出せない状況と発動条件が分からず迂闊に手を出せない状況を作り出すことで戦闘の均衡を生み出すことに成功した。発動条件を満たすことで相手に自身の容姿を誤認させる〝
(本当、毎回貧乏くじ引かされるわね、私)
花自身は覚醒を経験したことが一度もない。しかし、28歳にして多くの修羅場を
(第一覚醒者ほどではなくとも第二覚醒者、又はどちらも終えている超能力者の相手をしたことは幾度もある。そして彼らを倒すのに最も簡単なタイミングが覚醒が行われた直後……! 完全に力をコントロールする前に奴を倒す……!)
スモーク内で2人の攻防が繰り広げられる。
(クソ……! やり辛ェ!)
近藤は跳ね上がったフィジクスの影響でまだ力の調整が上手くできていない。さらにサイクスを込めると先の部下のように皆藤の身体を壊しかねない。
(全力を出せない状況でもこの力……!)
一方で、花は近藤の身体の硬さや打撃の力に驚きを隠せない。
(やはり第二覚醒は身体刺激型超能力者との親和性が高いわね。けど……)
花は近藤から少し離れながらわざと
「ぐッッ!」
近藤にダメージはさほど無い。しかし、第二覚醒によって変わった身体の感覚に違和感が生じ始める。1隻のコンテナ船に稼働されるガントリークレーンは3台。さらに花は〝
花の狙いは様々な方向から攻撃することによって、強化された肉体にまだ慣れていない近藤に焦りを生じさせることとバランスを崩させることである。一流のプロスポーツ選手であっても過度な肉体改造によって身体のキレやバランスを崩してコンディション不良に陥ってしまうことは珍しいことではない。
(機雷、発動!)
花が複数の機雷が仕掛けられた地点へ寄ったのを見て近藤は機雷を発動する。
(予定通り)
花は足にサイクスを溜めて機雷を余裕を持って回避。再びコンテナを近藤に直撃させる。第二覚醒はフィジクスの増加による肉体強化が主である。フィジクスの増加に伴ってサイクス総量が増えるものの、出力自体に変化はない。ゆえに打撃は強力になっても超能力の強さに変化は生じない。多くの場合、フィジクスの増加による錯覚で自身の超能力まで強化されたと勘違いすることが多い。
(その綻びを突く!)
確実に強くなったはずの自分が手も足も出せずに圧倒され続けている。その状況に苛立ちや焦りが生じ始めた近藤のサイクスに歪みが現れ始める。
(痛みはそんなに感じてねぇ。それなのに……)
––––俺は本当に強くなったのか?
これまで近藤は花への攻撃を試みていたが、それが防御や回避に意識が移る。疑念の対象が近藤自身の強さにまで及んだのだ。一方の花は、近藤の〝フロー〟が疎かになってきているのを確認してサイクスの薄い部分に的確に攻撃を与える。
花の圧倒的有利な状況が約10分間続く。
(まずい……)
抜け出す
(決定打がない……!)
近藤に決定打を与えるために花が当てにしていたのは田川の〝
そして問題がもう1つ
(〝
花はサイクスの消費を最小限に抑えてきたものの、連戦による消耗が激しく、〝
「誰や?」
近藤が本気で打撃できないという前提が崩れる。全てを察した近藤は左拳にサイクスを大量に込めて振り上げる。
––––〝
再び煙が辺り一面を覆う。煙内部では眩い輝きを放つ黄色いサイクス
「!?」
近藤の正面、両側面からコンテナが直撃し、近藤は動きを一瞬止める。非超能力者である金本は管理棟に残る井尻と岸に連絡を取ってコンテナ操作を指示していた。
––––〝
和人は大量のサイクスを両手に込めて弓矢を型どる。
「そんな隙の大き技、当たるはずな……」
近藤が言い終わる前にコンテナ船の船底から大量の黒いサイクスが漏れ出し、その場の全員が硬直する。
和人の手から放たれた巨大な矢は近藤を直撃した。
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