第95話 - 第二覚醒
(たったの6発……!)
和人はサイクスの光に囲まれながら動きを止められている近藤を見て自身の無力さを痛感する。〝
〝
近藤から放たれたサイクスの筋は6本。これはつまり約7分間の近接戦において和人は6回の打撃しか近藤に与えられなかったことに他ならない。さらに
(クソ……! 俺はまだまだ弱い! 全力で向かってもサイクスが消耗し、さらに片腕を失った近藤以下……!)
静かに感情を露わにする和人に気付いた花はそっと肩に手を置いて労う。
(何やこれは!?)
一方、〝
(クソっ! 機雷を発動させて何とか……!)
完全に捕獲されるまでの間、〝
(発動しないだと!?)
近藤は自分の置かれた現状が限りなく悪いことを察する。弱った現在の近藤であっても落ち着いていれば抜け出すことは可能である。しかし、外部へのサイクスが発動しないこと、信頼を置いていた戦力である皆藤、中本の不在(敗北)、敵の侵入など近藤の精神状態を揺るがすのに十分な要素がサイクスのコントロールに支障をきたした。
近藤は〝
(まずい……!)
近藤の動きが止まる。
「終わった……」
和人はそう確信し、胸を撫で下ろす。黄色く輝くロープ状のサイクスに縛られて跪く近藤の元へと向かう。近藤の部下たちは最強だと思っていたリーダーの無抵抗な姿を見て次々と戦意を喪失していく。
(絶対的信頼を置いていた頭がこんな状態になればしょうがないか……)
花は負傷した右脚を押さえながら近藤組の逮捕に取りかかろうとする。
(前にこうやって死にかけたなぁ。あの時みたいにサイクスが増えやんやろか……)
一方、近藤は中本、皆藤と共に海に沈められた時のことを考えていた。しかし、肝心なサイクスが使えない。使えたとしても液体という燃料が十分でない状態であるため、〝
(もう終わりやね……)
近藤の思考が停止する。
––––ドクンッ
近藤の心臓が大きく脈打つ。一つ一つの脈動がまるで荒波のように全身に駆け巡る。
(何や? 力が……)
花と和人がその異常に真っ先に気付く。
(なっ!? 〝
和人の困惑は至極真っ当である。〝
(そんな……! まさかこいつが!?)
花の脳内ではある可能性が選択肢に現れ、動揺する。
––––『覚醒』は3種類存在する。
一般的な例であるサイクスの飛躍的向上は『第一覚醒』と呼ばれ、成長過程や窮地に立たされた時に多く観測される。クラスマッチでの樋口凛や九条によって海に沈められた近藤や皆藤がその最たる例である(後天的にサイクスが発現することもこの第一覚醒に分類され、愛香も覚醒超能力者の1人である)。
そしてサイクスをほぼ使い果たした状態で突然、身体機能が飛躍的に向上すること、これを『第二覚醒』と言う。
心臓で生成されたエネルギーが二対の血管(椎骨動脈と総頚動脈)を通って脳の中で感情の形成に関わる最も重要な部分である『
心臓で生成されるエネルギーは身体機能を向上させることから〝
この研究結果から『身体刺激型サイクス』と『物質刺激型サイクス』は『源流サイクス』と呼ばれ、6タイプ存在する超能力の原形と目されている。研究の結果、フィジクスとサイクスには以下のような相関関係があると発表された。
①心臓で身体刺激型フィジクスのみが生成される場合
→身体刺激型サイクスを生成
②心臓で物質刺激型フィジクスのみが生成される場合
→物質刺激型サイクスを生成
③心臓で2つのフィジクスが生成され、身体刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合
→精神刺激型サイクスを生成
④心臓で2つのフィジクスが生成され、物質刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合
→物質生成型サイクスを生成
⑤心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合し、その割合が均一でない場合
→自然科学型サイクスを生成
⑥心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合し、その割合が5:5の場合
→特異(複合)型サイクスを生成
覚醒には数字が割り当てられているが、第一覚醒と第二覚醒に順番はない。しかし、第二覚醒は第一覚醒に比べて珍しく、これが引き起こされた者はフィジクスを体内でコントロールすることが可能となる。対して『第三覚醒』は第一覚醒と第二覚醒の両方を経験した者のみに発生する。サイクスとフィジクスの両方が爆発的に増加することで身体能力のさらなる向上、超能力の強化や精度の上昇、発動条件の緩和・変更などが観測される。
これが起こることは非常に稀で、現役の警察官の中では警視庁捜査一課長の藤村洸哉のみが第三覚醒を経験している。これは彼が現在の警察組織における最高戦力と言われる所以である。
近藤にサイクスはまだ残っていたものの和人の
反応する隙すらなく和人の
「和人!!!」
花が叫ぶ。
田川はハンドガンを構えて1マガジン分を込めた弾丸を近藤に撃とうとするも目の前にいた近藤を見失う。
「ガハッ……!」
背後に回った近藤は左手を田川の背中から貫通させ、一気に引き抜く。田川は大量の血を流しながらその場に崩れ落ちる。
「ははははははッッ!!!」
復活した赤いサイクスを纏った近藤の笑い声がコンテナ船を邪悪に響き渡った。
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