第86話 - 管理棟
「ナンバーQWSU–9187631–9。照合を開始します」
1台のコンテナトラックがゲートの前に停車する。運転手はスマートコンタクトを起動させて共有モードにしてバーコードIDを空間に表示、AIに向けて提示している。AIは表示されているバーコードを読み取って照合を開始する。
「確認が取れました。そのまま直進してゲートハウスまでお進み下さい」
コンテナトラックは直進し、前方に見えるゲートハウスへと向かう。ゲートハウスには多くのコンテナトラックが停車しており、そこでは人間の従業員がコンテナのダメージチェックや重量測定、中身の確認を行っている。それが終わるとストラドルキャリアがコンテナを搬入し、蔵置・保管・受け渡しをする場所であるコンテナヤードまで移動させる。一人の従業員がコンテナトラックに駆け寄って声をかける。
「お疲れ様です。IDの方、確認しますので、ご提示お願いします」
深く帽子を被っている運転席の男・町田は左手の人差し指を立てて口に当てながら薄型タブレットを提示する。提示されたタブレットは警察手帳で、それを見た従業員は僅かに頷きながら続ける。
「確認が取れました。コンテナの状態と中身を確認しますね」
コンテナの中にはダミーのコンテナトラックに用意されていた変装用の制服を着用した瑞希、和人、花、田川、井尻、金本が座っている。従業員の男は「こちらへ」と一言だけ発し、助手席から降りた岸を含めた8人をゲートハウスの奥にある休憩室に案内する。
「俺たちを助けに来てくれたんですか!?」
部屋に入るなり男は興奮気味に尋ねる。休憩室の中には初めの男の他に2人の男が安堵した様子で花たちをを見ながらソファーに腰掛けていた。その様子を見て花は和人に視線を送り、自身の予想が正しかったことを確信する。
「こちら側に監視カメラなどは?」
少し興奮気味の男たちを落ち着かせながら花が訪ねた。従業員たちは花の問いに汗を拭いながら答える。
「こちら側はあまり設置されていないんです。管理棟から奥の方に向かうほどカメラの台数が増えます。管理棟には施設長の他2人が常駐しています。だけど奴らの仲間が複数常に監視していてそれこそ監視カメラを見ていたり、緊急連絡をさせないように見張っていたりします」
その後、男たちは不倫現場などを撮影されて脅されていることや家族を人質に取られていて何もできないことなど近藤たちを匿わざるを得ない状況であることを説明した。
「俺、超能力者なんですけど……」
休憩室にいた坊主頭のひ弱な男が小さな声で話し始めた。
「時々、頭の上に目ん玉が出てくる奴がいるんです。この間そいつが逃げ出そうとしたところに眼帯を着けた男にすぐに見つかってこ……殺されたんです……」
男はその状況を思い出したのか、恐怖で顔が真っ青になって顔中から大量の汗が吹き出す。
「女の子2人がここへ連れて来られなかった? 海の方からだと思うんだけど」
花が従業員たちに問いかける。従業員たちは互いに顔を見合わせながら答える。
「いえ、俺たちはコンテナトラックの出入りの確認が主なんで。ただ管理棟に行けば分かるとは思います……あ、でもあいつらの何人かは地下に用意されているシェルターによく入っていてそこを根城にしています」
花は男に礼を言うと、渡された百道コンテナターミナルのマップ情報を3Dホログラムで確認する。地下シェルターは有事の際に使用されるもので、開錠するには百道コンテナターミナルのレベル4のセキュリティーコードを有している、又は管理棟で直接操作するしかないということが判明した。
「管理棟で操作すると大型の扉が開き、緊急警報が鳴り響くのね……。セキュリティーコードだと小型扉の開閉で済み、警報はいちいち鳴らない。おそらく近藤組の連中はこのコードを使っているはず。レベル4は最大セキュリティーレベルで施設長しか持っていないから彼のコードをコピーして連中に付与しているのでしょうね」
花は和人の方を向いて指示する。
「予定通りに和人、田川、岸、井尻は管理棟を制圧して施設長を保護。セキュリティコードを私たちの警察手帳に送信してちょうだい。私たちは先に地下シェルター入り口を目指しつつ敵勢力を排除する。管理棟制圧後は和人と田川のみ私たちの元へ」
和人たち4人は頷くと、管理棟を目指して動き出した。
#####
(入り口付近に2名)
和人はゲートハウスの端、コンテナトラックの陰に隠れながら管理棟の方に目をやる。そこには従業員らしい男が2名立っている。
コンテナを積み上げて保管するコンテナヤードでは作業服の従業員がほとんどだが、管理棟での仕事を担う者は私服の者たちも多くいる。それによって従業員と近藤組の区別が難しくなっている。そこで和人たちは施設長以外の対峙した者たちは全員隠密に制圧することを決めた。
管理棟の扉が一人でに開く。
「何だ?」
入り口付近にいる2人は扉の方を振り向くと片方の男は確認のために扉へと近付いた。その隙に井尻が背後から首に手刀を一閃、2人を気絶させる。岸は気絶した2人を物陰に隠した後に合流し、4人は管理棟への侵入に成功する。
(管理棟の総合管理操作室は3階。階段から向かうか)
和人は3人と共に階段を使って3階へ辿り着く。
「お前ら一体……!」
3階に辿り着いたところですぐ左の部屋から男が1人現れ、和人たちを見た瞬間に拳銃を取り出そうとする。
––––〝
和人はすぐに反応し、衝撃の矢を頭部に命中させて男を一瞬で気絶させる。男が背後に倒れる前に頭を支えて音を消し、周囲を警戒する。
(他には誰にも気付かれなかったか……)
目撃者がいないことを確認し、気絶させた男を出てきた部屋に隠し、真っ直ぐに進む。
(そこを左に曲がった所が総合管理操作室だ)
和人は角に身を潜めて曲がった先を確認する。扉の前でサイクスを纏った2人の男を目視する。
(仕方ない)
––––〝
眩い光を放つ矢が男たちの足下に突き刺さり、男たちに目眩しを見舞う。その間に懐に潜り込んだ和人は2人の
和人は3人に目で合図しながら気絶させた男が持っていたカードをかざし、扉のロックを解除した。右にスライドして扉が開いた瞬間、中にいた5人の男たちに向かって和人は衝撃の矢を、田川と井尻は〝
「制圧完了」
和人はそう呟くとひどく震える施設長に足を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます