第81話 - 人魚姫 vs 人間潜水艇
百道浜での爆発騒ぎから避難してきた人々は、警備の指示に従って一時的にホテルオーキのロビーで待機している。本格的にオープンする前とあって医療班の人数や器具が足りない中、芽衣は自身の超能力で奮闘する。
彼女の超能力〝
〝
そして気まぐれに近藤組を制圧しつつ状況を静観する人物がいた。
「仁さん、みずの所へ行って助けてやらんくて良いんですかい?」
車から出てきた吉塚伊代は夫である仁に穏やかな口調で尋ねる。仁は百道浜駐車場で車を停め、ホテルオーキと百道浜の両方を屋上階から眺めていた。百道浜駐車場は自走式立体駐車場で正面には美しい海が広がる百道浜、その右方向にはホテルオーキがそびえ立つ。
「フム……。側で見といてやるが大丈夫だろう。それよりも……」
目の上にかざしていた手を外し、鋭い眼差しで背後を警戒する。
(この2つのサイクス。相当な手練れ。ワシの〝
2人の元にホテルオーキからの迎えがやって来る。
「
「お気を付けて」
伊代の言葉に仁は軽く頷くと『トンッ』という軽い音と共に上空へ跳躍して姿を消す。
(何が狙いか分からんがワシが抑えておかねばな……)
#####
近藤は海中で動きを止める。
(仕掛けといた機雷が反応しなくなったな。諦めたか?)
太陽の光が差し込み、海中は蒼く輝いて神秘的な雰囲気を醸し出す。数種類の魚の群れが近藤の目の前を横切り、その様子をしばらく眺めた後に近藤は考え直す。
(いや、そもそも結構な深さにしか仕掛けとらん。あそこまで辿り着いている時点で水中に関する超能力者がおるな。〝捕獲魚雷〟に何もかかってないことを考えるに避けられとる)
近藤が動きを止めているのを見て萌は〝
「この人、今止まってるよ! 追いつくチャンスかも!」
萌は更に近藤の行動を思い返して付け加える。
「それと定期的に海水を飲んでる。何かの条件なのかも」
言葉を言い終えるか終わらないかのうちに萌と近藤は同時に周りにいる魚の群れとは違う、もっと大きな影を視界の端に捉える。その影は目で追うことができないほどのスピードで2人の周りを泳ぎ、渦を作り出す。
––––〝
渦の回転は徐々に加速し、萌と近藤の2人はそのまま流される。黒い影は一直線に萌の元へと向かい、近藤の手から萌を奪う。
「結衣ちゃん!」
結衣は萌を捕獲するカプセル形状の水をしっかりと抱きかかえながらニコッと笑う。近藤は軽く舌打ちすると口を大きく開けて海水を飲み込み、燃料を補給する。力強く海水を蹴って渦からの脱出を図る。近藤が渦から出ると目の前には先の鋭く尖った小さな渦が無数に広がる。
––––〝
結衣は尾ひれを勢いよく振って渦の槍を近藤に向けて放つ。近藤が向かって来る数多の渦の槍を躱している様子を少し離れた位置から結衣は眺め、尾ひれにサイクスを溜める。
––––〝
サイクスを込めた尾ひれで力強く海水を振り、そこから巨大な波が近藤へと襲いかかる。
(マジかいな)
近藤は渦の槍を避けながら迫りくる大波に焦りを見せる。もう一度海水を大量に飲み込み、サイクスを大量にまとって渦を受けつつ両手を広げていくつかの魚雷を発射する。
「逃がすかよ!!」
大波が近藤に直撃する。
結衣は〝
近藤の機雷は仕掛けられるとその場に留まることなく、海の流れに身を任せて漂う。萌を連れ去った後に蛇行しながら仕掛けた機雷はその後、海中に広がって最短距離で戻る結衣の眼前に広がる。
「ハァ、ハァ……」
息切れしながら泳ぐ結衣を萌は心配そうに見つめる。
「私がレンズっていうのやってみるよ。結衣ちゃんは泳ぎに集中して!」
萌は結衣に無駄なサイクスと体力を使わせないように目にサイクスを集中させて〝レンズ〟を試みる。
「その先からあの人のサイクスが沢山見える! 私が指示するから頑張って避けて!」
結衣は萌の言葉を聞いて「ありがとう」と小さく言うと、尾ひれにさらにサイクスを集中させて全力で泳ぐ。
––––ゴボボ……
(ナメやがって、クソガキが)
近藤は〝衝撃魚雷〟を自分の正面に対して大量に放出して起動、〝
近藤の身体刺激型サイクスが海中を深紅に照らす。その輝きはルビーのような美しさと血痕のような残酷さを内包する。魚雷を結衣が泳ぎ去った方向へと最大速度で発射し、自身も海水を大量に飲んで衝撃によって負った身体のダメージを回復しつつ追跡する。
結衣は機雷が数多く仕掛けられている中をなるべくサイクスの消費を抑えつつ避けて通る。遊泳速度は落ちており、近藤は結衣たちとの距離を確実に詰める。背後からの〝衝撃魚雷〟に萌が気付き、結衣はギリギリで躱したもののその魚雷は機雷に命中して誘爆が起きる。
「結衣ちゃん、萌ちゃん、まだ男の姿は見えてないよね?」
〝
「うん、まだ見えてないよ」
瑞希は中本の残留サイクスを正確に追って綾子と和人を先導しつつ魚雷の正確さに疑問を抱く。
「どうしてそんなに正確に結衣ちゃんたちに魚雷が届いたの?」
近藤は1人の少女に計画を狂わされた事に対する苛立ちとは裏腹に頭は至って冷静だった。
(俺は地上で探知系の機雷や魚雷を使っていない)
結衣の〝
(あのガキ、友達を取り返して俺を足止めするのに精一杯やったな。あんなサイクスの残量じゃあ直線で帰るしかないやろ?)
直線上にある機雷に向けて〝衝撃魚雷〟を発射し、誘爆を引き起こして足止めする。
(追いつかれちゃう! 何か……何か……!)
結衣は咄嗟にいくつかの小さな渦を作り出してその陰に隠れる。衝撃の連鎖が〝探知魚雷〟を匿う。結衣がその場を離れようとした瞬間、近藤の姿が現れる。結衣は萌をギュッと力を入れて抱きかかえると残りの力を振り絞って近藤を振り切ろうとする。
––––ゴボッッ!!
萌を捕らえていた〝捕獲魚雷〟が解除される。
近藤は悪意に満ちた笑みを浮かべた。
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