第69話 - 人間潜水艇

––––〝人間潜水艇イエロー・サブマリン

 近藤勇樹の身体刺激型超能力。自分の身体に潜水艇のような機能を付与する。液体を飲み込んでサイクスと混合、体内で電気分解して酸素を確保、水中での呼吸を可能としている。

 さらにサイクスと融合させた液体を燃料として消費エネルギーが小さい順に『探知魚雷』、『捕獲魚雷』、『衝撃魚雷』、『爆撃魚雷』の4種類の魚雷を生成し、手の平から放つ。実体はなく〝レンズを〟使用しなければ視認できない。また、これらは機雷として運用することも可能である。

 今しがた近藤が解き放った〝探知魚雷〟は一定距離を探索する魚雷である。不特定多数の物体を探知する〝第六感シックス〟に対して〝探知魚雷〟は近藤が求める情報をサイクスに込めているため、特定の対象を探し求める。


「イルカの群れから探すか……」


 近藤はイルカのギフテッドではなく、イルカの群れを探知するようサイクスに込め、そこからギフテッドを探す判断を下した。これはギフテッドのみに設定すると時間がかかると予想したことと、イルカの群れに設定することでついでにさらなる金儲けを見込めると考えたからだ。


––––約30分後


「見つけた」


 近藤はイルカが絶滅危惧種であることから群れは一集団、又は二集団であると踏んでいた。近藤の放った魚雷は〝ロスト〟によって目で視認できないため、イルカの群れに容易に近付くことを容易にした。

 しかし、ギフテッドはこの魚雷に込められたサイクスを潜在的に有する〝第六感シックス〟で感知し、それを避ける動きをする。近藤はこのギフテッドの習性を密漁による経験の中で学んだ。そこで探知条件を広くすることで消費サイクスを抑え、効率的に特定したのだ。


––––〝捕獲魚雷〟


 近藤は先に〝捕獲魚雷〟を群れに向けて発射し、自身も燃料を使用して遊泳速度を上げる。その際、同時に機雷も仕掛ける。

 イルカは長い間、水中で暮らしていたことで目が退化し、目視よりも聴覚が優れ、『エコーロケーション』と呼ばれる超音波を利用して周りの状況を把握してきた。これによって仲間とのコミュニケーションや餌の位置や大きさなどの把握、周囲の地形や状況も確認することができる。

 ギフテッドはサイクスによって〝第六感シックス〟と共に視覚も発達しているため、エコーロケーションを利用して群れ全体に指示する。これによって群れは紙一重のところで〝捕獲魚雷〟を避けた。


「今だ」


 潜水艇と同じ性質を有する近藤は自身で超音波を生成し、音声指示を可能としている。これを使って小型潜水艇に乗り込んで待機していた部下に指示を出す。この部下たちが乗る潜水艇に軍用機器は搭載されていない。しかし、超音波を発することが可能でイルカたちのコミュニケーションに障害を生じさせる。また、海上に待機している船からも超音波を発生させながら巨大な網を投下するように混同は指示する。


「そうだ。イルカたちに超音波の特性を掴まれないようにランダムにパターンを変えろ」


 それまで統制のとれた動きをしていたイルカの群れが乱れ始め、数匹が網にかかり始める。


「予定通りにイルカの群れを誘導しろ。非超能力者は網と超音波のパターン変更に集中、超能力者はギフテッドを見逃さず超音波を向ける方向に集中しろ。イルカの捕獲はある程度で構わない。ギフテッドを優先だ」


 イルカは仲間意識の高い生物である。危険に晒されている仲間を見捨てるようなことはしない。しかし、判断力に優れ、知能も発達しているギフテッドは助からないと思えば止む終えず逃げる判断もするはず。そのため、イルカの捕獲数をあえて抑え、集団で逃げられる希望を与えることで均衡を保たせている。

 イルカの群れは、近藤が機雷を仕掛けたエリアに徐々に追い込まれていく。このエリアには先に近藤が自身の超能力で仕掛けた機雷と、あらかじめ仕掛けておいた本物の機雷を混ぜている。


(俺の機雷や魚雷、さらに本物の機雷。ギフテッドの指示があったとしてもどうしても目の前の機雷に意識が向くために反応が後手に回るやんな? 自分の指示が通らなくなり、さらには自身も危険な状況。お前もパニクるやろ?)


 近藤は、本物の機雷と自身に超能力で仕掛けた〝衝撃魚雷〟と〝爆破魚雷〟を起動させる。周囲に突然引き起こされる衝撃や爆発にイルカたちは一気にパニックに陥る。イルカの群れは統制を完全に失い、四方八方に逃げていく。

 その中でギフテッドは力強いサイクスを纏いながら、先回りしていた近藤を向かい打とうとする。この行動を予測していたなかった近藤は一瞬、たじろぐものの、微かに口角を上げて笑う。


(好戦的やね、それともヤケクソか?)


 〝衝撃魚雷〟によって生じた波でギフテッドの動きが限定される。その間に近藤は、海水を大量に摂取して膨大な数の〝捕獲魚雷〟を発射、ギフテッドを捕らえる。近藤の部下たちも逃げるイルカたちを次々と網に捕らえている。


(完璧やね)


 その時、近藤は一筋の光を視界に捉える。1匹の小さなイルカがその場から離れていったのだ。


(もう一匹、ギフテッドがおったんか!)


 すぐさま〝捕獲魚雷〟を発射するものの、追いつけずに逃がしてしまう。


(速い!! 大きさからして子供か。コイツが逃げんで向かってきたのもアイツを逃がすためだったのか……)


 近藤は捕らえたイルカのギフテッドを見ながら思考する。


(まぁ今回はコイツ含めて結構捕まえられたけん、良いか。子供のギフテッドとなると価値が高い。それにあの運動能力……何としても逃げたギフテッドは捕らえんとやね)


 近藤は部下に引き上げるように指示した。


#####


 瑞希たちはボール遊びを終え、近くに開かれている海の家に滞在していた。


「今日この後はどうする?」


 海の家にあるメニューを眺めながら芽衣が5人に尋ねる。次々と意見が飛び交う中、結衣が提案する。


「まぁ、結構長いこといるし今日は1日ここで良いんじゃない? 疲れたらホテルで休めば良いんだし。夜には海岸で花火とかしようよ」


 結衣以外の5人も賛成し、それぞれメニューから注文する。


「後で人が少ないところで思いっきり泳ぎたいなー」


 結衣がオレンジジュースを飲みながら話す。


「確か向こうに穴場スポットあったよ。おじいちゃんが昔、教えてくれた場所」


 瑞希が結衣に返事し、そこへ全員で行くことが決まった。




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