第39話 - 冗舌

「素晴らしい!!!」


 不気味な仮面を被る男が惜しみない拍手を送りながら瑞希に近付く。瑞希は警戒し、倒れて動けない樋口凛を背に男から隠すように前に立つ。


(〝インナー・サイクス〟? それともさっきの男のようにサイクスが見えないようになってる? それに皆んなはどうしたの? 目の前の男の仕業?)


 その様子を見ると仮面の男は、泣いたような素振りを見せながら瑞希に話しかける。


「健気だねぇ。明らかに危険な状況なのに他人の心配をするだなんて。美しい心だねぇ」


 瑞希の蹴りを食らい少し吹き飛ばされていた樋口兼が全速力で瑞希を襲撃に向かう。


「このクソ女がああああああ!!」


 仮面の男が指を「パチンッ」と鳴らした後、「バチュッ!」と勢いよく何かの音が鳴り、樋口が体育館端まで吹き飛ばされる。樋口は壁に勢いよく激突し、背中と後頭部を強打してそのままは意識を失った。


「邪魔が入ってしまったね」


 一瞬だけ露わになった仮面の男の禍々しい緑のサイクスに瑞希は驚愕した。


(怖い……! なっちゃんの時と比べ物にならない位に……!)


「ククク……何もしないから安心しなよ。褒めに来ただけだから。あ、そう言えばまだ自己紹介をしていなかったね。ボクの名前はJOKERジョーカー


 JOKERジョーカーは瑞希に向かって軽く一礼する。


「キミのことはよく知っているよ、月島瑞希さん。この3日間クラスマッチを観させてもらったけど、とても素晴らしかった。その若さで〝アウター・サイクス〟や〝インナー・サイクス〟をそのレベルで使いこなすなんて。まだまだ向上の余地はあるけどね」


 瑞希の警戒心を他所にJOKERジョーカーは冗舌に話す。


「さっきの彼に対する反撃も見えない何かをキミのその特別な〝目〟で大体の動きを把握。そして、そっちの子の様子を見て、超能力ちからも予測した上で回避行動に移った。そうだろう? さらに〝インナー・サイクス〟を使えば攻撃を防げるかもしれないというアイデアにその実行力と勇気。キミのその才能に考察力と判断力。感服したよ、本当に素晴らしい!」


 思い出したかのようにJOKERジョーカーが手を叩く


「そうだ! ご褒美に良いことを教えよう。サイクスを目に集中させてごらんよ。おそらくその目の力と併用できると思うよ」


 瑞希は〝宝探しハイライト〟を発動する瞬間に目にサイクスを集中させるが、対象者の残留サイクスが強調表示された後には目にサイクスを集中させていない。言われた通りに瑞希は目にサイクスを集中させた。


「やはりキミなら簡単にできるね。ほら、アレがサイクスを奪うモノの正体だよ」


 JOKERジョーカーが指を差す方向を見る。


(サイクスの……化け物!?)


 瑞希は初めて〝大食漢グラトニー〟の姿を視認した。


「ククク……見えるようになっただろう? それは〝レンズ〟と言って隠れたサイクスを見破ることができたり、相手の〝フロー〟を正確に読み取れたりするようになるんだ。ちなみにサイクスを見えづらくしたり、感知されづらくしたりすることを〝ロスト〟と言うんだよ。そこで伸びてる彼のは勝手に〝ロスト〟状態になっているようだねぇ」


 瑞希はJOKERジョーカーの話を聞きながらその体内に留められた膨大なそして禍々しいサイクスに戦慄する。


「あぁ、〝インナー・サイクス〟でサイクスを隠すのも〝ロスト〟の一種だよ。〝インナー・サイクス〟で超能力者であることを隠している人もいるから気を付けなよ。ま、大したカモフラージュにならないけどね」


 JOKERジョーカーの両手からぐるぐるとコイル状の見た目のサイクスが現れる。


「これ今、〝ロスト〟使ってるんだけど見えるだろ? これは〝弾性恋愛物語エラスティック・ラヴ〟っていうボクの超能力で作ったんだ。バネの特性を持っている。こうやって僕のサイクスをバネ状にして巻きつけたり、引っ掛けたりして利用できるんだ。他にも人や物質に似たような特性を付与することもできて応用力があるから使っていてとても楽しいんだよ」

 

 JOKERジョーカーは右の人差し指にバネを付け、伸縮させて遊び始める。それを見つめていると突然、瑞希の背中に寒気が走る。


「多くのサイクスを目に集中させることでより精密さが増すけど、それだと反撃するためのサイクスが不足する。バランスを考える必要があるの。〝フロー〟、〝レンズ〟、〝ロスト〟、〝インナー・サイクス〟、〝アウター・サイクス〟を駆使しながら戦略を練ることで相手を圧倒することができるわよ。あ、私はJESTERジェスター。よろしくね」


 いつの間にか長髪を金色に染め、血の涙を流し不敵に笑う仮面を着けた女が瑞希の背後に立ち、優しく抱きしめながら話す。


(いつの間に!? 樋口先輩は!?)


 JOKERジョーカーが二階席の方を指差す。その方向に視線をやると、樋口は横にされその隣にはグレーの顔に静かに涙を溢す仮面を着けた少年が立っていた。


「優しい子ねぇ。お姉さん、あなたみたいな可愛い健気な女の子大好きよ」


 JESTERジェスターは着けている仮面を上にあげる。そこには色白の肌に見つめると吸い込まれそうなほど漆黒の瞳を持つ、妖艶な雰囲気を醸し出す女性が露わになった。JESTERジェスターは、右手を瑞希の腹部に絡ませ、左手で頰をなぞる。そして右頬を下から上へと舐め上げる。


「でもね……」


 左頬をなぞっていた左手が瑞希の首筋に触れる。腹部をなぞっていた右手は、胸に触れた後に心臓を指差す。


「その優しさが死を招くのよ」


 JESTERジェスターは瑞希の右頬にキスをする。

 

「ククク……冷酷さを身に付けることも大事だよ」


 瑞希は視認している3人から殺意が感じられないことやJOKERジョーカーの話を聞いている間に冷静になり頭が整理される。


「あなたたちの目的は何なの……?」


 JOKERジョーカーは大笑いし、仮面を上にズラす。真っ白な肌が露出する。マスクと同じく目元には赤い逆十字の紋様が刻まれ、切れ長な目から鋭い眼光を放つ男が言う。


「だからただ褒めに来ただけだよ。あと激励。感動したんだよ、キミの才能に。あとは再会かなぁ?」

「再会?」


 その時、体育館の扉が勢いよく開き、瀧慎也、伊藤律太、土田仁、徳田花、霧島和人の5人が入って来た。


「ほーら、やっぱり来た。あのリングの超能力ちからだろう?」



 JOKERジョーカーは再び仮面を被り、5人の方を向いた。




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