第37話 - クラスマッチ⑩
月島瑞希と上野菜々美
両者共に特別教育機関出身で前者は首席で卒業。後者はその幼馴染み。優秀な生徒が集まり、多くの特別教育機関出身の生徒が入学する東京第三地区高等学校においても2人の名は全校生徒に瞬く間に広まった。
––––そして事件が起こる
上野菜々美が多くの一般人を殺害していたこと、それを瑞希が止めたことは全校生徒に大きな衝撃を与えた。
––––〝
瑞希の超能力は既に全校生徒に知れ渡っており、また、瑞希の〝目〟が残留サイクスを見ることができるのも同様である。ゆえに樋口の計算された策略により男女混合
上野菜々美の〝
「皆んなは私のことを信じてくれる?」
瑞希以外の選手たちは〝
世間を騒がせた元凶。それを注射されることへの恐怖は想像に難くない。
「私は……」
チームメイト全員が押し黙る中、綾子が沈黙を破る。
「私は瑞希を信じる……!」
綾子が瑞希を見て笑いかける。その無邪気な笑顔が瑞希に安らぎを与える。
「私も!」
続いて志乃が、それに続いて他の選手たちも瑞希に信頼を寄せた。タイムアウトを終え、選手たちがコートへと戻った時、1年1組の選手たちのサイクスが飛躍的に向上していた。
〝
〝害意〟のコントロールを身に付けていない瑞希にとってこの超能力を他人に使用することは本来不可能である。しかし、瑞希はチームメイトから全幅の信頼を得たこと、使用する際に〝悪意〟だけでなく〝愛情〟が込められて使用されていたこと、そして菜々美自身がこの超能力に対して理解が不完全で、超能力自体も発展途上であったことが菜々美の〝
この〝
害意なく他人に使用される〝
(前半の最後、観察して分かったことがある)
瑞希が冷静に状況を分析する。
(どんなマジックを使ったのか分からないけど、樋口さんは目的地に特定の場所を指定することができるようになり、物体は瞬間移動できるようになった。残留サイクスから判断して指定場所は4選手とバスケットボード。おそらくバスケットボードにも瞬間移動させることは可能かな。でもそれをしないで選手がシュートを打っているのは超能力を審判に正確に伝えていなかったことによる反則行為を警戒してのもの。瞬間移動に関しては運ぶスピードが速くなったという説明で何とかできると判断したってところかな)
さらに瑞希の思考は続く。
(目的地に着くまでにボールを奪うことは不可能となった。だけど目的地が分かっていることが弱点であり続けていることに変わりはない。バスケットボードにボールが到達し、それがリングに入るまでの時間。ここを〝
瑞希に揺さぶられてサイクスや精神が不安定になりながら、なおも最善の一手を打ち続ける判断力。瑞希は素直に感嘆する。
(何て人なんだ。周りの選手も! 各々がゴールへ瞬間移動させないでシュートを打つのも反則行為を警戒、シュートの正確性はうまく説明すれば良い。少しでも綻びを見せれば私たちは負ける!)
試合が再開されてから一進一退の攻防が続く。1年1組の選手たちも自らの判断でプレーを始める。タイムアウトの間、瑞希は全員に樋口の残留サイクスの量が他4選手から減少していたことを告げていた。
「瑞希ちゃん、パス!」
「!!」
瑞希はこれまでバスケ経験のない萌が、パスを要求することはほぼ無かったために、少し驚くいて目を見開く。しかし萌の自信に満ちた表情を見て軽く頷いてパスを回す。
(瑞希ちゃんはゴールに目的地が設定されたことに警戒してたけどその分、他選手の共有していた樋口さんのサイクスが減ったってことは……)
萌はそのままパスを回し始める。
(当初の予定通り24秒ルールっての利用すれば、より効果的ってことでしょ!?)
瑞希を含め、他の選手たちも萌の意図を理解し、パス回しを始める。〝
(時間稼ぎなんてさせるか!)
このプレーが再び樋口の精神を揺さぶる。ムキになった樋口のプレーはサイクスの消費をより一層早めた。
––––残り1分。
樋口の足が止まり、共有されていたサイクスが樋口の元へ戻る。
(足が……動かな……)
地面に手をつき顔を上げた瞬間、1人の少女が空を舞う。
樋口の目にはその少女がまるでフレア現象にあっているかの如くぼやけて見える。
(黒い太陽……?)
それは太陽とは真逆に黒く、しかし、美しく輝く。
(あぁ……この子より私が上だなんてそんなこと絶対に有り得なかったんだ……)
瑞希は既にp-Phoneを解除していた。〝
瑞希の手から放たれたボールは虹を描き、3年4組のゴールを陥れた。
「スリー!!!」
––––最終スコア: 47 対 31
「女子
会場は湧き上がり、1年1組は歓喜した。
(負けた……この私が……)
瑞希がうなだれる樋口に近付く。
「樋口先輩、ありがとうございました! 昨日のドッジボールといい、とても勉強になりました! 楽しかった!」
「……は?」
「樋口先輩の超能力は勿論、それを最大限引き出す為のあらゆる戦略。凄かったです。私たちも常に全力を出し切らないとそのまま飲み込まれていました」
「そう……」
予想外の相手からの賞賛。
(あぁ……この子の本当の強さは素直に相手のことを認められることなのか……)
樋口は差し出された白く細い、しかし自信に溢れたしっかりとした手を掴む。
「ありがとう」
––––瞬間、意思を持ったサイクスが樋口の残り僅かなサイクスに襲いかかる。
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