第15話 虐殺と強者




「何黙りこくってんだ?ビビっちまったのか?」

「今から泣いて謝っても許さねぇからな?」

「ハンスさん、こいつ俺らにやらせてもらっていいですか?」


「別にいいが殺すなよ?トドメは俺が刺す」


てっきり安い挑発にのってくれたハンスが我先にと向かって来るのかと思いきや、チンピラ三人衆が俺を弱者と感じたのか下卑た笑みを浮かべながら俺の前に立つ。



「おいガキ、お前運がなかったなぁ? リーシャになんか手を出さねーでこそこそしてたら生きてられたのによぉ」

「まぁ俺達はちょっと痛めつけるだけだから安心してくれや」

「地獄で閻魔様によろしくな」



多分その閻魔様ってのに俺会ったことあるんだけどな。


「ごちゃごちゃうるせぇな。さっさとこい」


俺が言った言葉を聞いたチンピラ三人衆が顔を真っ赤にして威勢よく向かってきた。


俺は瞬時にアイテムボックスからミスリルの短剣をローブの内ポケットから出したように見せかけ、右手に握った。


禿頭の斧を持った男が始めに飛びかかってきた。


振りかぶってきた斧を悠々と左ステップでかわし、斧を握っている右手を手首から切断。呆然としている隙に頸動脈を切る。


バタッと倒れる男を見て、残りの2人が一斉に襲いかかってきた。左から来る槍を持った男の眉間に短剣を投擲。


見事に命中して後ろから倒れる男を横目に、右から大剣を大きく振りかぶろうとしている男と対峙する。


こちらに振りかぶる前に接近する。男の股目掛けて思い切る蹴りあげる。グシャッという何かが破裂した音が鳴った。俺のステータスで下から思い切り蹴った為、大男ですら宙に浮いた。落下途中に左回し蹴りを顔に命中させる。

男は首を180度曲げて地面に倒れた。


たった3秒間の出来事だった。


「はぁ、雑魚相手には丁度良いと思ったんだけど使えねぇなこいつら。てか、お前何者だよ」


3人死んだ惨状を見た後に言うセリフではない事をハンスが呟きつつ俺に投げかけてきた。


「ただのFランク冒険者だ」


俺は質問に適当に答えながら投擲した短剣を男の眉間から引き抜き、血を払った。


「ぬかせ、ただのFランクごときがあんな動き出来るかよ」


「急にどうした?弱者と思った相手が実は自分よりも強いかもと思ったら腰が抜けたか?」


また挑発してやるとハンスは「調子乗んなよ!」と言いながら猛スピードで来る。


やはり速さ580は伊達じゃないな。さっきのヤツらに比べたら亀とチーターだな。まぁ俺には関係ないが


ハンスは両手で剣を構え、虚空を袈裟斬りした。

すると、見えない何かがこちらに高速で向かってくる。


俺はミスリルの短剣で受けようとしたが、この武器の耐久値を詳しく知らない。わざわざ危険を犯すのは愚の骨頂。

そう考え、俺の首目掛けて放ったであろう何かをしゃがんでかわす。


多分、今のが《斬撃》だろうな。

ハンスは避けられると思っていなかったのであろう。

目を大きく見開き驚いていた。しかし、それも一瞬でまた剣を振った...4回だ。

俺はその4つの斬撃の軌道を感じ避けながら、連発も同時打ちも出来るなるほどと《斬撃》のスキルを吟味していた。


「何で俺の《斬撃》をかわせる!? 完全初見のやつにかわせるはずがねぇ! しかもあんな雑魚に!」


俺にとっては当たり前の事なのだが、ハンスからしたら今の出来事は異常だったらしく、そんなクレームを言ってきた。


「自分の思い通りにいかなかったら怒鳴るとか子供かよ。お前はまず頭から鍛えろよ」


そう言いながら、ハンスに急接近して死なないように両手の指を全て切断してやった。


「グアァァァァァッ! 痛てぇ! 痛てぇよ!」


剣を落とし、両手を上に掲げながら地面を転がるハンス。


冒険者ランクAでスキル持ちでもこんなものか。


しかし、ハンスの両手から黒い煙が発生し数秒たつと、何と俺が切断したはずの指が綺麗に生えていた。


「てめぇ!!! タダで死ねると思うなよ!! こんな痛てぇ思いした代償払ってもらうぞ!」


さすがの俺も今の現象には少し驚いたが頭の中は冷静だった。指が生えてきただけで、それによりハンスのステータスに影響はなかったからだ。


「死なないように加減するのも大変だったから好都合だ」


それからの出来事はあまりにも苛烈だった。


死んだら困るため首を切断したり、心臓を潰すのはしなかったが、四肢を合計10回以上は切断。刺し傷は200以上。目をくり抜き、耳を削ぎ落としたりなどして時間にして10分だったがハンスからしたら体感は10倍以上だろう。


そこまでしてやっとハンスの心が折れた。


「すびまぜぇんでじた。わだじはあなだのどれいでず。」


全裸で正座をしているハンスは黒い煙を全身に纏いながら降伏した。


心が折れた時に「目の前の男には敵わない。奴隷になるしか生き残るすべはない」と《錯覚》を発動させ、この有り様だ。本人がもう死にたいと思えばこんな錯覚は効かなかったが目の前のハンスはどうやらまだ死にたくないらしい。


「さっさと舌を再生させろ。聞こえづらい」


殺してやりたかったがこいつにはまだ聞かなきゃいけないことがあった。


「ごめんなさい!今!再生出来ました!」


男の全裸なんか見たくなかったので、周りに転がっているチンピラの死体から服を着れと命令した。


ハンスは俺が口を開くとビクッ!と反応して急いで死体から服を剥ぎ取り、俺の目の前に正座をして戻ってくる。


「取り敢えずお前の《斬撃》のスキルどうやって出すか教えろ」


「はい!魔力を剣に付与して斬るだけです。《斬撃》のスキルを持っていない者がすればただの素振りになるのですが、持っている者がすると斬撃が出ます!」


どこかで聞いた事ある説明だな。

俺はミスリルの短剣に魔力を付与して、《錯覚》を自分を対象に「俺は《斬撃》のスキルを持っている」と発動させ虚空を斬る。


すると、2m離れた木箱が綺麗に切断されていた。


『スキル《斬撃》を獲得しました。』


やはり、俺の《錯覚》本当バグってやがるな。


恐ろしくなってくるぞ。ここまできたら


ハンスはその様子を見て、「え?なんで?」という顔をしているが黙っていた。


「よし。でお前、今まで攫った女性達をどこにやった」


ギルド側が100%犯人だと疑っていたが、証拠も遺体も出てこない事件の真相を聞いてみた。


ハンスはその言葉を聞いてバツが悪そうな顔をしたが、俺が短剣を向けると慌てたように喋りだした。


「い、言います! あれは私に力とスキルをくれた御方にその代償として贄を捧げていたんです。」


「力とスキルをくれた?お前の種族名が混血種なのと何か関係があるのか?」


種族名までバレているのを知ったハンスはまた驚きつつ話し出す。


「はい。私があの御方の主様の庭で死にかけていた時、拾っていただき血を分け与えて下さり、その時に、今の力とスキルを得ました。その時の代償として、人間の若い女を攫ってこいと言われて...」


これは想像していた中で1番最悪な結果だな。

こいつは十中八九、魔族と関係を持っている。


「それで、その御方ってのどこのどいつだ?」


ハンスがビビりながらその御方の名前を口に出そうとした時、ハンスの穴という穴から血が吹き出た。


吹き出た血がまるで意思を持っているかのように波打ち、人の形を保っていく。


「困りますね。せっかく力とスキルを与えてあげたのに裏切るなんて。あなたはもう用済みですよ。」


血で出来た人型がハンスを一瞥しながら喋った。



身の危険を感じた俺はその人型をすぐに《鑑定》した。


『タリスマン』血晶体ver 男性

種族名:貴族吸血鬼アーデルヴァンパイア


Lv:200

HP:5790

MP:7200

攻撃:3100

防御:3500

魔法:6000

速さ:4090

知能:600

器用:500



___さぁて、どうやってこの場を切り抜けようか。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る