第9話 鑑定と錯覚



光の中から出てきた俺を迎えたのは人間領ではなくこじんまりとした周りが真っ黒の何も無い部屋だった。


――布石がただの石ころになったな。


まさかまだ人間領に入れずにこんな空間があるとは予想外だった。甘いな俺も。


この空間に俺と銀の鎧を全身に身につけた者が3名、そして俺の目の前に居るのはどこか食えないオーラを発している細身の爺だった。

俺はいつでも《錯覚》を発動出来るように対象をその爺へと向けた。


「それでは入国審査を始めようか。まずは君の名前と職業を教えて」


そう爺が言ってきたので


「はい。名前は東雲欺瞞しののめぎまんです。職業は冒険者をしています」


「それでは冒険者カードを見して」


「えっと...すいません。それがあの魔の森に迷い込んでしまった時、必死で逃げてたもんでどこに落としてしまいました」


ここで俺は目の前の爺ではなくその奥の右側にいる銀の鎧の男を対象に「出ていく時にこの男の冒険者カードをちゃんと見た」と《錯覚》を発動させる。


「それは本当かね?」


爺は鋭い目つきで俺を睨んでくる。


そんな中鎧の男が恐る恐る爺に近づき

「閣下、この男の冒険者カードなら出ていく時に私が確認しましたので紛失は本当かと」


ふぅ。何とか無事錯覚は発動したな。


「ふむ。そういう事なら今回は見逃すが次は冒険者ギルドに問い詰めるからな?」


「はい。すいません」


「では今の情報が偽りではないか《鑑定》を使って確認する。もし本当ならこれで入国審査は終わりだ」


《鑑定》だと?これはまずいな。名前と職業ならまだ大丈夫...いや俺職業確かなしだったわ。ステータスやスキル、ましてや加護の所なんかを見られたら相当まずい。


ここで俺が取れる選択肢は3つ。

・爺に対して「《鑑定》をする必要はなかったと」錯覚を発動させる

・自分を対象に「俺のステータスは全て100であり、加護もスキルも持っていない」と錯覚させる

・ステータスのゴリ押しで突破する


3つ目はないな。そもそも俺の強さがこの4人に通用するのかわからないし、通用したところでこの空間から出られるか怪しい。 


だとしたら1か2だが今の爺は《鑑定》を行うとしっかり自分の意志を持っており、これと反対の意志の介入は《錯覚》でも厳しい。


2は、果たして《錯覚》の能力の効果はステータスにまで及ぶのかどうか...そして《鑑定》は錯覚後のステータスの表示になるのか、危ない橋だなこりゃ。


よしここは取り敢えず揺さぶってみよう。


「あのー《鑑定》ってなんですか?」

「お鑑定も知らんのか?」

「すいません。世情には疎くて、妹の病気を治す為に毎日必死に出稼ぎしてるもんで...」


周りの銀鎧達が同情の目を向けて来たが目の前の爺はしっかりと俺の目を見て表情を伺っていた。


まぁこんぐらいじゃ騙されないよな。


「皆さんの表情から見るに私に何か魔法か掛けるんですよね?私そんな体験初めてなのでせめて安全かどうかの確認だけさせてください」


俺はそう言いながら頭をきっちり45度下げて少し体を震えさして頼んだ。


ここで《錯覚》を爺を対象に「目の前の何も知らない若造に《鑑定》について説明してもいい」と発動させた。


「ふむ。わかった。《鑑定》というのは対象のステータスを見ることが出来るというだけのものであり危害は全く及ばんぞ」


ちっ!なんだよそのざっくりとした説明は!これホントに《錯覚》効いてんのか?俺が聞きたいのはどこまで見られるかなんだよ。



「あのぅ...それって、スキルまで見れますか?私スキルが多分ないと思うんですけど、自分が知らないだけでもしかして持ってたりとか...あと神様の加護なんかもあったらいいなぁーなんちゃって」


結構強引だが《錯覚》が効いていれば答えるはずだ。


「神の加護とかまではさすがにわからんが、スキルはなにがあるかはわかるぞ」


「えー!!凄いですね!それなら私に何かあれば是非教えてください!」


驚いた演技をしながら爺に近づき懇願すると、ちょっと引き気味に「わかった」と了承した。


そして、もう1つの思考の方がやっと終わり俺は心の中で笑みを浮かべた。



東雲欺瞞しののめぎまん』男性

種族名:人間 職業:冒険者 犯罪歴:なし


LV.13

HP:400

MP:300

攻撃:200

防御:210

魔法:160

速さ:180

知能:100

器用:100


改めてこのスキル最高だぜ。







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