第6話 騙す者と騙された者




時は少し遡り、狼と睨み合いながら欺瞞ぎまんはどうやってこのスキルの可能性を確かめようか考えていた。


色々と試したいがあの狼の強さと自分の強さがどのくらい差があるかわからない現状大きな事は出来ない。こんな所で死んだら元も子もないからな


取り敢えず奴の様子を伺ってみる。初動の不意打ち失敗した奴はこちらを睨みながら「グルルルゥ...」と唸っている。


どうやらあちらさんも俺が避けるとは思ってなかったらしいな。あの反応を見る限り、奴は人間を知っておりある程度さっきの不意打ちか実力かで倒してきたのだろう。


それが躱された挙句、普通の弱者なら逃げるであろう選択肢を取らず向かい合うという有り得ない状況に動揺しているな。

だったら、その動揺を利用する手はないな。


ここまでの思考、約0.5秒。《並列思考》により2倍で考えられるようになっているとはいえここまで冷静に状況判断をし次の行動を決めれるのは欺瞞ぎまんの知能の良さ故だろう。


そして、考えが定まった。欺瞞ぎまんは狼に背を向けて走り出す。当然、その姿を見た狼もそれに着いてくる。


ここで欺瞞ぎまんは《錯覚》を発動し、対象を自分に定め「俺は強者である狼に狙われて死にものぐるいで逃げている」と念じる。


そうすると後ろから発せられる殺気を肌に感じ、寒気がして、命の危機を脳が訴え掛けてくる。


これは思った以上に凄いな。対象を自分に出来る事とどこまで《錯覚》の融通が聞くのかそしてそれがどの程度効果を発揮するのか。


それを検証し終えて充分な成果を上げて関心しながら、もう1つの頭の中では「逃げないとホントに殺される!」それだけしかなく必死にだった。


まず敵を騙すのは味方からだとは言うが、真っ先に自分を騙すのはこの男くらいであろう。


そんな姿を見せつけられた狼は

「やはり捕食者は自分なのだ」

「この人間はスピードだけが取り柄なのだ」

と、欺瞞ぎまんが《錯覚》のスキルを発動させてないのに狼はそう自分の良いように解釈してしまった。


ここで狼は「この人間は逃げることしか出来ない弱者であり、狩れる」と認識した。



その様子を「死にたくない」と自分自身に思い込ませながら走っているものの《並列思考》により冷静の部分が残っている欺瞞ぎまんは逃さずに見ていた。


ここで欺瞞ぎまんは対象を狼に定め《錯覚》を発動させる。「当たり前の事象を行う」と。


そうすると、「弱者を狩る」という当たり前のことを行うべく狼がより一層スピードをあげ目を血走らせながら追ってきた。


その事を確認した欺瞞ぎまんは自分にかけていた「俺は強者である狼に狙われて死にものぐるいで逃げている」という錯覚を解いた。すると寒気と肌に感じる殺気が消え、冷静さが戻ってきた。


今狼は、絶対に狩れると錯覚させられているため、欺瞞 ぎまんが反撃に出てくるとは夢にも思っていない。

そんな状態の狼を狩るのはもう容易なことだ。


狼が欺瞞の首に爪を立てようとしたその瞬間、欺瞞ぎまんは狼の爪の軌道から素早くズレて後ろを向いた。不意をつかれた狼は、空に爪を突き立てようとしていた。


その隙だらけな首目掛けてミスリルの短剣を振りかぶった。狼の首は切断され驚いた表情をしてこちらを見てきたので俺は言ってやった。


「どうした?錯覚でも見たか?」と。


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