決心

 さて、一人になった私は雨を降らせるなどという突拍子もないことが出来るのかどうかを考える。

 元から魔力は常人とは比較にならないぐらいあった上に、最近も隙間を見つけては魔法の練習をしているので技術自体はかなり上達しているのでもしかしたら可能かもしれない。

 とはいえ考えていても仕方ないので実際に試してみることにする。


「サモン・ウンディーネ」


 早速私は水の精霊を手元に呼び出す。


「あなたは雨を降らせることが出来る?」


 するとウンディーネはさすがに首を横に振った。元から出来るとは思っていなかったが、実際にそういう反応がかえってくると私は落胆する。


 が、精霊の魔法は召喚している精霊の数が増えると威力が大きくなるという特性がある。もっとも、普通の人は一体の精霊を召喚するのも難しいのでこの方法はあまり知られてはいないが。

 そのため、ウンディーネをたくさん召喚すればどうにかなるかもしれない。


「サモン・ウンディーネ」


 そう思った私はさらに四体のウンディーネを手元に召喚する。

 急にたくさん呼び出されたウンディーネたちは少し驚いているようだ。


「今呼んだのは皆の力を合わせて雨を降らせて欲しいからなの」


 すると五体のウンディーネたちは顔を見合わせた。

 先ほどは明確に首を横に振っていたが、今度は首をかしげる。一体では絶対に無理だったが、五体いればもしかすると出来るかもしれないということだろうか。

 ということはさらに精霊の数を増やすことが出来れば、もっと可能性が上がるということでもある。


「もっと数が増えれば出来る?」


 私の質問にウンディーネたちは首をかしげる。

 否定しないということは、やはり数が増えれば可能かもしれないということだ。


 そして精霊の数を増やすのは私の魔力を増やすことが出来れば可能だ。

 通常魔力を増やすのは難しいが、オールストン家にはその裏技があった。本当はもう二度と飲みたくないと思っていた魔力増進剤だが、今の私なら飲んでも活性化した魔力を無事制御出来るかもしれない。


 本当な実現の目途が立ってから公爵への返事をしたいところだったが、ぐずぐずしていてはレイノルズ侯爵家への攻撃は激しさを増すばかりだ。


 それを考えると今すぐに公爵に返事をするしかない。すぐに返事をしても、公爵が国の人に根回しして実際に私が魔法を使う段階になるまで数週間か、一か月ほどはかかるだろう。それならその間にどうにか出来る可能性はある。


 どの道失敗すればレイノルズ家は没落してしまう以上、それなら多少のリスクはあってもその賭けに乗った方がいいだろう。

 私はすぐにそう決意して公爵がいる部屋へと戻った。


「失礼します」


 私が部屋に入ると、公爵は驚いた表情を浮かべた。


「おお、早いな」

「はい、決めたなら早くお伝えする方がいいと思いました」

「ということはつまり」

「はい、雨を降らせてみせます」


 本当は出来るかどうか不安だったが、あえて自信満々に断言する。直前まで悩んでいた公爵に私が自信なさげな様子を見せれば彼の心も変わってしまうかもしれない。


「本当か!?」


 私の言葉に公爵は目を輝かせた。


「はい、ただ大がかりな魔法なので準備もいります。公爵様が王宮に根回しをしてくださっている間に私も準備を整えておこうと思います」

「なるほど」


 公爵は頷く。

 そこで私はついでと思って尋ねる。


「ところで、魔法を使うのにヤーゲル草とモルドトカゲの内臓が必要とのことですが、公爵様に手配していただくことは可能でしょうか?」


 ヤーゲル草というのは魔力が多めに含まれている薬草で、モルドトカゲの内臓は魔力を活性化させる作用がある。どちらも魔力増進薬の原料だが、貴重なものだ。魔力増進薬の作り方を知らない魔術師も魔力を増強する魔道具などを作る際に使うため、高価である。実家は裕福だったから毎日のように魔力増進薬が出てきたが、後で値段を知ってそれがいかに贅沢であったかを思い知った。


「ヤーゲル草とモルドトカゲか……分かった、それも用意しよう」


 レーヴェン公爵も高価なものと知って、一瞬眉をひそめたがすぐに頷く。

 オールストン家とオーガスト家を倒すというときに多少の値段を気にしている場合ではないということだろう。


「ありがとうございます」

「では早速国王陛下にこのことを告げよう。とはいえ、こんなことを言い出せばオールストン家も反対してくれるだろうから、しばらくは時間がかかる。その間何か起これば教えてくれ。出来るだけ手助けする」

「そう言えば」


 そこで私は実家に降りかかっている数々の災いを思い出した。

 雨を降らせるという重大事に気をとられていたが、それまでに侯爵家が傾いてしまってはあまり意味がない。


「実は色々ありまして……」


 そう言って私は実家に起こっていた問題を全て打ち明ける。

 それを聞いたレーヴェン公爵はさすがに顔をしかめた。


「嫌がらせがあるとは思っていたが、まさかそこまでえげつないことになっていたとは。……分かった、商人には返済を待つようこちらから圧力をかけておこう。また、我が家で余っている食糧も送るのでしばらくはそれでしのいでくれ」

「ありがとうございます」


 商人は商人で貴族同士の争いに巻き込まれて大変だな、と思いつつ私は頭を下げる。


「また、オーガスト家の賊についても調査を行うよう王宮に伝えておこう」


 レイノルズ侯爵がそれを言っても聞いてもらえないかもしれないが、レーヴェン公爵の口から言ってもらえればそれなりの効果があるかもしれない。

 私はそれを期待しつつ、他にもいくつかのことを頼んでから屋敷を出た



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