レーヴェン公爵Ⅱ
広間に入ると、そこにはテーブルが並び、豪華な料理が並んでいる。王宮でのパーティーで出たものには少し劣るが、それでも珍しい食材や色合いでは負けてはいない。
そして広間にはたくさんの貴族たちが集まっていた。
「本日は先日見事な魔法の腕を披露したレイラ様や、これまであまり表舞台に出てこなかったレイノルズ侯爵家の方々と親しくなりたいと思いパーティーを開かせてしまった」
「すみません、我が父とロルスはごたごたがあってこられなくなってしまいまして」
私は申し訳なく思いつつ頭を下げる。
すると、
「いやいや、気にすることはない、それよりも今回はオールストン家とオーガスト家の陰謀なんだろ!?」
「ブランドのやつ、自分から婚約を破棄しておいてこんな嫌がらせをするなどどれだけ器が小さいんだ!」
すでに広間の中では今回の件が両家の仕業だという噂が広まっていたのか、私の言葉に貴族たちは口々に怒りを口にしてくれる。
もちろん中には両家と付き合いのある貴族もいて、そういう人々は広間の隅で目立たないようにしている。おそらくレーヴェン公爵や私とも適当に適当に親しくして八方美人的な関係を築こうとしているのだろう。
「皆さん……ありがとう」
「いくら権力があるからって何でも自分たちの思い通りになると思ったら大間違いだ」
「自分たちだけいい思いしやがって」
「レイノルズ夫人が可哀想だ!」
彼らは今回の件でというよりは日常的に不満があったのだろう、ここぞとばかりにそれを口にする。
さらにレーヴェン公爵は高級と思われる酒をふんだんに振る舞っているため、どんどん彼らは抑制が効かなくなっていった。
私に対してやたら同情的な言葉をかけてくれるのもその影響だろう。
「レイラ様も一口どうでしょうか?」
「いえ、私は魔法に差し支えてしまうので」
「それは残念です」
侯爵やロルスが一緒ならともかく、一人できて酒におぼれてしまう訳にはいかない。そのため、魔法を口実に私は酒を辞退する。
そして適当に酔った貴族たちと歓談しながら密かにレーヴェン公爵のやり方に感心した。彼は両家に不満のある貴族や私を集め、酒を振る舞ってリラックスさせることで本音を言いやすくしたのだろう。これだけ大っぴらに不満を言って者たちは今後両家と親しくしづらくなる。
「と言う訳でパーティーも盛り上がってきたところでレイラ様、魔法をお願いする」
「分かりました」
「おお!?」
参加者の貴族たちは王宮で披露したような魔法が再び見れると期待して、会場は沸き立つ。
私は少し緊張しながら広間の前に出た。しかし彼らは大体酔っているし、あれからも屋敷では少しずつ練習しているので王宮の時ほどの緊張はない。
「ではいきます……サモン・ノーム」
私は手始めに土の小人を召喚する。ユニコーンと比べれば地味だが、これだけではない。
「サモン・シルフ、サモン・サラマンダー、サモン・ウンディーネ!」
それから私は立て続けに風、炎、水、と次々に精霊を召喚していく。そして彼らはそれぞれが司る風や炎を身に纏わせ、私の周囲で舞い動く。
本当はただ好きに動いてもらっているだけなのだが、精霊たちの神秘的な雰囲気とあいまいって私たちには知らない舞を踊っているように見えてしまう。
そして一分ほど舞い踊った後、彼らは消えていった。
「以上です」
そう言って私が頭を下げると割れんばかりの喝采が起こるのだった。
その後はレーヴェン公爵が用意した楽団や踊り手たちによる公演が行われる中、パーティーは続いた。が、パーティーそっちのけで、
「先ほどの魔法は素晴らしいものでした」
「今度機会があれば我が屋敷にも来ていただけないか」
などと声を掛けられる。
これまで参加してきたパーティーでも似たような反応は多かったが、今日はロルスやレイノルズ侯爵がいないせいか私に直接声をかけてくる方が多い。
私はそれぞれの方に出来るだけ丁寧に応対し、印象を良くしようとするのだった。
が、やがて時間が遅くなってくると酔った貴族たちは順に会場を出ていき、レーヴェン公爵が用意した宿泊部屋へと歩いていく。
そしてパーティーがお開きになると公爵が私の元に歩いてくる。
「おかげさまで本日は大いに盛り上がった」
「それは良かったわ」
「お疲れのところすまないが、娘を診察していただけないか?」
ある意味先ほどの余興などよりもこちらの方が重要な任務だ。
余興は成功しても何となく印象がよくなるだけだが、これに成功すれば公爵が味方になってくれるかもしれない。
「分かりました」
疲れたとはいえ、今日のパーティーでは私に話しかけてくる方は皆私に対して好意的だったのでそこまででもない。
「おお、ありがたい」
私はレーヴェン公爵に連れられて広間から離れた一室へ向かう。
ドアを開けると、そこにはベッドがあって一人の少女が寝かせられていた。すうすうと寝息を立てているが、ロウソクの灯りに照らされた顔は明らかに青白いし、頬はごっそりと痩せこけている。その上額には汗がにじんでおり、表情もどことなく苦しそうだ。
私と年齢が近そうなので、余計に痛ましさを覚える。
「彼女が私の娘のソフィだ。今は眠っているが、日に日に高熱を出し、体力は衰えて食事もほぼ喉を通らない」
「なるほど」
とはいえ、私は医学の知識はほとんどないので病状を説明されても全く分からない。
「サモン・ノーム」
そこで私は静かにノームを召喚する。
召喚されたノームは私の意図を理解したのか、横たわるソフィを見て部屋にある観葉植物の植木鉢に一本の草を生やす。葉っぱの形や茎の色合いが独特でこの辺りには生えてなさそうな植物だ。
「何だこの草は?」
見たこともない草に公爵は首を捻る。
が、ノームは私を見て一つ頷くとそのまま姿を消した。
「私も分かりませんが、おそらくこれが病気に効くのでしょう」
「おぬしの力を信じさせてもらうぞ」
公爵は緊張した面持ちで頷くと、すぐに薬師を呼ぶ。
呼び出された薬師は困惑しつつも、公爵の指示通りにノームが生やした薬草を煎じて粉薬にして持ってきた。
そして寝ているソフィの口元から薬を飲ませる。
当然飲んですぐに劇的な変化がある訳ではない。私は不安になったが、後はノームを信じることしか出来ない。
「ありがとう、今日はもう休んでくれ」
「分かりました。おやすみなさい」
あの薬草は本当に効くのだろうか。それがとても気になったが私に出来ることは何もない。
私は公爵家のメイドに案内されて客間へと向かい、翌日屋敷に帰るのだった。
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