レイノルズ家
翌日、私はオールストン家を出発した。家にはたくさんの人が仕えているし、兄弟や姉妹もいるが、皆偉大な父を尊敬しており、私のことは出来損ないとしか思っていないようなので、特に別れを惜しむ相手もいなかった。
公爵家からの輿入れとなれば相手が誰であれ、数十人規模の行列になるのが通例だが、私の場合は御者と護衛の兵士二人しかいなかった。
もっとも、自分のことを軽蔑している人々の行列に囲まれたところで全く嬉しくないから、構わないと言えば構わないけど。
レイノルズ家は父が私を追い出し先に決めたというだけあって、いかにも貧乏な貴族が暮らしていそうな古びた屋敷だった。私がやってくると聞いて出迎えの人数が用意されていたが、うちと比べて皆古びた服を着ており、あまり裕福でないことがうかがえる。
そして十数人ほどの人々の先頭にレイノルズ侯爵本人と思しき人物が立っている。
五十ほどと思われる白髪の老人で、父上と比べるとくたびれた老人に見えた。
彼は私が嫁入りというよりはまるで流罪のような行列を見て見るからに気落ちした。まあ、流罪でも逃亡阻止のためにもっと多数の兵士がついてくるかもしれない。
馬車から降りた私に侯爵は沈んだ声をかけてくる。
「ようこそレイラ嬢……と言いたいところだが、この様子を見ると噂は事実のようだったな」
「噂とは?」
「おぬしが実は魔法の一つも使えぬ無能で、オーガスト家に婚約を破棄され、厄介払い先として急遽我が家が選択されたというものだ。最初は公爵令嬢と聞いて二つ返事で受けてしまったが、蓋を開けてみればこれだ」
「……」
本来なら否定するべきなのだろうが、この状況で何を言っても嘘くさくなってしまうだろう。それに魔法を使えないのも事実だ。
そう思った私はせめてもの選択として沈黙する。
それに苛立ったのか、侯爵は顔をしかめた。
「どうせ公爵家といういい家に生まれたから何もせずとも裕福な暮らしが出来るとでも思って怠けていたのだろう?」
「……っ」
散々な言われようだったが、否定して「じゃあ魔法の一つでも見せてみろ」と言われたら困るので私はぐっと怒りを堪える。
「まあ良い。腐っても公爵令嬢であれば、家に置いておけば何かの役には立つかもしれぬ。特段のもてなしも出来ぬが好きにするがいい」
「はい」
その言葉に私は少しほっとする。
もしかしたら気落ちした侯爵が私をいじめたり、暴力を振るったりしてくるかもしれないと思ったが、さすがにそんなことはしてこないらしい。
放っておかれる
「君が噂のレイラか」
そこへ私と同じぐらいの年齢と思われる青年が現れる。
もしや彼が私の相手であるロルスだろうか。質素な服を着たがっしりした体躯の青年だが、見るからにとげとげしい表情だ。
「レイラです。よろしくお願いします」
一応私は頭を下げるが、彼はあろうことか軽く舌打ちした。
「君のことは聞いているよ。全く、厄介払いだか何だか知らないが、君の家は僕をゴミ捨て場か何かと思っているのだろうか?」
散々な言われようだったが、ロルスは私というよりは私の父上に怒りを覚えているようだったので堪える。
「まあ君も色々大変なのは分かるが、僕はこんな扱いを受けたまま一生を終えるつもりはない。他の貴族を侮っている貴族たちに一泡吹かせるために色々しなければならないんだ。だからせいぜい足を引っ張るのだけはやめてくれ」
「……分かりました」
言い方は冷たかったが、彼からは現状をどうにかしようという気概のようなものは感じられたので、不思議と悪感情は抱かなかった。
そしてそれだけ言うと、彼は言うべきことは言ったとばかりに去っていく。
散々な評価を持たれているのは分かったが、それでも放っておかれるのであれば私も彼らの邪魔にならないように大人しく暮らしていよう、そう決意するのだった。
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