ポスター作り

 ある日の放課後、俺はクラスの連中と出店のポスター作りに励んでいた。ここには俺を含めて、男子二人の女子二人。計四人体制での作業を執り行っていた。

 出店の命運をそれなりに握っているであろうポスター作りなだけに、クラスメイト数人からはクラス全体で内容も含めて決めた方が良いという意見も出たが、それだと取り纏めるのも大変だし、催し物として実施が決まったダンスの練習に支障が出たら困るという意見から、ポスターが完成したところでクラス全員で問題ないかを確認した上でGOサインを出そうという形で動きは固まった。

 

 ちなみに俺以外の三人は、クラスの人員でも美術部とか、漫画部とか。とにかく美術系に特化された人員になっていた。


 この人員は、多数決により決められたところが大きいが、当初俺達四人がポスター作製係を任命された際、俺が自分がこの面子の中に交じるのは場違いではないかと周囲に指摘した。


 周囲の意見はこうだった。


『あなたがほぼ指揮官なんだから、あなたが入らないでどうするの』


 正直、自己承認欲求が結構満たされて気持ち良かった。煩悩多き中身二六歳を許してくれ。

 そんなわけで、俺達はダンスの練習から一時外れて、一週間のポスター作成の命を受けていた。


 ポスターに書く内容は、このポスター作成係が任命された初日に大体固まっていた。というか、こういうポスターで書くことなんて相場が決まっていた。

 ポスターに書くことは、商品名と価格、あとはセールスポイントとしていた。


 そうしておおまかな内容を決めた翌日、早速俺達はポスターの草案作成に取り掛かった。結構な急ピッチで作業を進めている不安が、面子から度々感じられたが、今週一杯で形を定めてクラスに見せて、数十枚ポスターを印刷すると考えれば、時間は結構限られていた。


「書く前に一つ。ポスターの草案は三つ用意しよう」


 ほぼ監督役の俺は、急ピッチでの作業をなんとかこなすために、そんな提案を持ちかけた。


「どうして?」


「仮に一つだけ案をもっていくとして、もしそれが駄目だと言われたら大変だから。だって、駄目だしされてからの作り直し、検討し直しになるんだよ? 時間が勿体ない。

 俺達の第一候補はこれ。駄目ならこれ。それでも駄目なら……とやっていけば、多分向こうの趣味嗜好に合うポスターは一つはある」


 感心げに、女子の一人が頷いた。


「まあ、基本的には第一候補を押し通す方で進めるけどね。キチンとした意図があれば、多分向こうとしても納得してくれる」


 このクラスの人間は、かつての俺とは違って随分と協力的だから。多分、その辺も上手く折り合いをつけてくれるだろう。

 何せ、一部はそもそも俺達四人にポスター作りの重責を担わせるのを憂いて、クラス全体で決めようと言ってくれたくらいなのだから。


「それで、どんな形にポスターまとめようか」


 別の女子が俺に尋ねた。


「ごめん。正直、俺は美的センスは欠けていてね。イラストとかの検討は全部任せた。ただ、大体のポスターの構図なら浮かんでいる。

 まず一番に、ミックスジュースの価格は一番大きく書こう。目立つように」


「古田君。周囲と価格的に優位かもわからないのに、そんな荒行に出ていいの?」


「周囲とか関係なく、価格はキチンと書くべきだと俺は思っているよ」


「どうして?」


「いつかも話したことだけどさ、これはあくまで学園祭。このミックスジュースを買うのは、学生なんだよ。いくら学園祭で浮かれて財布の紐が緩くなっても、中身は決まっているわけだ。そんな状況で、価格がどれくらいかもわからない商品を買おうとするのは躊躇われるだろう?

 だからこそ、不安払拭のためにもデカデカと明記するべきだ」


「ほー」


「あとは勿論商品名も大きく書くとして……個人的にはあと、ミックスジュースの内容物も明記したい」


「えぇと、ミカン。リンゴ、バナナ。黄桃。牛乳……で、あとは上にサクランボを乗せるんだっけ?」


「うん。そうだね。どうして書いた方が良いかと言えば、それはそれだけのフルーツを入れたミックスジュースだよって宣伝にもなるから。あとは、人によってはこのフルーツが入っているから買おうって思う人もいるかもしれないだろう?」


「それ、逆の人もいるのでは? このフルーツが入っているから買うのやめようって」


「でも、内容物がわからない物買うよりはマシだと思うけどね」


「それは……まあ」


「ねえねえ、内容物を一個ずつ明記して、なんだか堅苦しいポスターにならないかな?」


「そこは君達の腕の見せ所だろう」


 肝心な部分でふんぞり返ると、ポスター作成係からブーイングされた。


「まあ、可愛めのフォントで誤魔化すとか……文字の後ろにそのフルーツのイラストを描いて誤魔化すとか……とにかく、そんな感じで一人一つポスター書いてよ」


「まあ、とりあえずわかった。じゃあ、古田君も書いてね」


「え、なんで?」


 絵が下手だとわかっていて、何故そんなことを?


「何故って、あなたもポスター作成係だからよ。下手でもなんでも、構図も見てみたいし書いてよ。あんまりあれなら清書はこっちがするから」


「ああ、そう……」


 そうして四人でポスター作成に取り掛かった。本職の部活の連中だけあって、彼らは手慣れた手つきでポスターをどんどん書いていった。


 そして最終的に、俺の意図を見事に汲み取った三人の絵が、翌日クラスに見せる絵として選定された。

 俺の絵は、結局誰からも支持されず、かつ清書されることもなく、何故か七瀬さんに話が伝わり、彼女の携帯電話の待ち受け画像として今後の生涯を送っていくことになった。


 そして、我らのクラスの出店のポスターとして選定された絵は、最終的に俺達が第一候補として定めていた女子の絵と決まった。

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