6-5話 異世界の観光名所
シュトールの街の秋の収穫祭はしばらく続くようだったが、
帰る準備をしてクラリスの家を出ると、表にはゴーレム車が用意されていた。
「きっとまた来てね、みんな!」
「クラリス、気をつけてな」
シャロンとピエットから挨拶され、拓海たちはゴーレム車に乗り込んでいった。ゴーレム車が街を出る間、すれ違った劇団員などが手を振ってきた。
「良いところだったね」
「そう思ってもらえたなら嬉しいな」
「ホントじゃの」
クラリスとキマロが答えるように言った。
ゴーレム車は直接ゲート監視所に向かわず、寄り道のため北上した。舗装された道の先には小さな村リムザデールがある。その先には巨大な砂漠が広がっていた。
「この大砂漠は、昨日観た勇者と魔王の物語で、勇者ゼノシュたちが邪神竜と戦った場所だと言われているわ」
クラリスが解説をしてくれた。
「とても大きな砂漠です。ここは端っこに過ぎません。この砂漠には闇のマナが充満していて、木々が育たないのです。一説には、邪神竜の闇の力が今でも残っていると言われていますね」
クラリスに続いて、ゴーレム車に乗っている兵士がこの地の由来を説明する。
「…………」
拓海の目に入ったキマロは無言だった。何かを考えているようにも見える。拓海は先日の夜にルビーに言われたことを思い出した。
(竜神族と邪神竜、そして勇者と魔王の物語か……)
莉子とルビーは、竜神族という名称の由来を語る物語と、キマロが隠している何かが関係しているのではないかと言っていた。しかし、拓海にもそれが何なのかは想像できなかった。
拓海たちがゴーレム車を下りると、リムザデールは小さい村ながらも少なくない人が歩いているのが見えた。辺ぴな場所だが有名な観光名所であるため、訪れる人も多いとのことだった。
「まずは勇者と魔王の物語の記念館をご案内しましょう」
案内役の兵士に連れられ、拓海たちは記念館に入った。
記念館には勇者ゼノシュが使った武具のレプリカが展示されていたり、演劇で見たシナリオと同じような物語の紹介が展示されていたりした。
「あれ、このエルフって、昨日の演劇だと女だったよな?」
「あー、結構自由な使われ方をしてるよ、そのエルフ。別の劇団の演劇だと史実の通りに男だけど、勇者ゼノシュにとっては賢者クーヤを取り合うライバルにされてたこともあるし」
「へー、面白いな」
浩太とクラリスがエルフの展示の前で話している。
「勇者一行と邪神竜の展示は多いけど、魔王については少ないんだね」
「確かにそうだな」
「物語は、邪神竜との戦いが一番人気ですからね」
拓海と莉子の言葉に兵士が答えた。
「今でも人間と魔族の仲はよくありません。この大戦の影響が大きいんですね。ただ、ここを訪れる魔族の方もいますよ」
兵士が言った。
さらに展示を進むと、勇者一行の衣装コーナーというブースがあった。彼らが着ていたと伝わる衣装の展示の他、試着も可能だった。
「ここは……やろう皆!」
クラリスが一番乗り気だった。拓海と莉子は勇者と賢者の衣装をクラリスに命じられた。
「ま、やってみるか……」
「せっかくだし!」
拓海と莉子はそれぞれ更衣室に向かった。
拓海は青が基調の勇者の服に着替え、外に出た。浩太たちからは『おおー!』という声が飛び、スマホを構えられる。やがて莉子も出てきた。
(うわー、賢者姿の莉子も良いなぁ……)
賢者の衣装は聖なる力を意識してか白がベースの服になっており、莉子によく似合っていると拓海は思った。
拓海と莉子が恋人同士なのをいいことに、クラリスや柚希は色んなポーズを要求してくる。前日に見た演劇のシーンの再現のような写真も撮られた。
次に、莉子の希望で、
当然のように
クラリスは全員が息を飲んでしまう美しさだった。女子陣は色んなポーズを要求して写真を撮りまくる。拓海と日菜菊については、日菜菊が要求を出す係で拓海が撮影係だ。
クラリスより遅れて出てきた浩太も随分と気合が入っていた。勇者の資料を見ながら、髪型や化粧も工夫したとのことだった。その浩太とクラリスのコンビは本当に見事な見栄えだ。
男女のペアという括りにしようとすると、浩太もクラリスも意地になってしまうが、その状態で取る二人のポーズは逆に適度な距離感を演出し、良い絵になっている。
浩太とクラリスがあまりにも絵になるので、二人の勇者と賢者姿はそのままに、拓海たちはそれぞれ勇者の仲間の衣装に着替え、さらに写真を撮りまくった。なお、ルビーは魔王の衣装を着ている。
「ふふふ、私はこういうのが趣味だから良いのよ」
浩太とクラリスが並んで魔王姿のルビーと対峙するポーズも良い絵になっていた。
そんな体験コーナーを後にし、昼食にこの地の名物料理を食べ、拓海たちはゲート監視所のゲートから地球に帰還した。
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