5-5話  文化祭2日目

 文化祭の2日目は、浩太こうたとクラリスとキマロが、朱里あかりと一緒にシャロンを案内することになっていた。


 前日と同じように、ぎくは白装束を準備して、文化祭の開始を迎えた。何組かの客をさばくと、日菜菊は入り口の受付から呼び出しがかかった。


「あれ、浩太?」

「よ、日菜菊! この回、朱里とシャロンがペアで行くぜ」

「おお、来たね!」

 続いて莉子りこが教室に入り、その情報をクラスメイトに伝えた。まだ交代のタイミングではなかったが、この回は浩太とクラリスが中に入り、朱里とシャロンを客として迎えるということになった。


天知あまちくん、クラリス、じゃあこの回はお願いね」

「任せたぜ、二人とも!」

 お化け屋敷の仕掛けを動かす係を担当していたクラスメイトが、浩太とクラリスにバトンタッチした。


 さらに、浩太が教室内に声をかける。


「次の回、ヘルモードで!」

 教室内がざわつく。


 2組のお化け屋敷は、本物の怪異を投入したこともあり、怖くなりすぎてしまったので、当初の予定から自重していた。ヘルモードはその制限を解除する宣言だった。


 しかし、クラスメイトも一度くらいはやってみたかったらしく、教室内は了解を示す言葉で溢れかえった。


 日菜菊のパートに変更点はないので、いつも通りやったが、そもそもその時点でだいぶ怖いので、朱里とシャロンは怯えた様子を見せて、腕を組み合って進んでいった。


 日菜菊のパートを過ぎた後は、朱里とシャロンの悲鳴の嵐だった。


「きゃああああああ!!」

「いやああああああ!!」

 日菜菊が後ろから様子を確認すると、朱里とシャロンは心底怖がっているようで、抱き合いながら進んでいくのだった。


 朱里とシャロンがお化け屋敷を出ると、浩太とクラリスは本来の当番と交代し、教室を出ていった。


 教室の外からは、朱里が浩太に『怖すぎ!』と興奮した様子で声を上げているのが聞こえてきた。また、シャロンもクラリスに何やら話しているが、感情が高ぶっているのか、異世界ゾダールハイムの言葉を使っている。


(朱里ちゃんとシャロン、今までの客の中でもとびきりの反応したな……。次の客は緊張するだろうなぁ)

 次からヘルモードは解除するものの、日菜菊はそんなことを思った。



 その後、シャロンは浩太、クラリス、キマロ、朱里に連れられて、恋愛ものの演劇を見に行った。



    ◇◇



 日菜菊の当番回が終わり、拓海たくみは協力してくれた兵士にお礼を言って、異世界ゾダールハイムから地球に戻った。莉子の当番も終わりなので、この日も一緒に文化祭を回ることになっている。


 朱里が、シャロンたちと一緒に見た恋愛の演劇を絶賛したので、拓海たちも見に行くことにした。


 なお、浩太たちは別の演劇を見に行こうとしているため、日菜菊はそれについて行く。拓海と日菜菊が同じ演劇を見る必要はないからだ。


 拓海と莉子は、演劇の待ち行列に並んだ。


「最終上演回だね」

「人多いな。朱里ちゃんも絶賛してたし、評判良いんだろうな」


 その演劇のストーリーは三角関係を描いたもので、主人公の男はヒロインの一人に恋をしており、別のヒロインが主人公に恋しているというものだ。


 最終的には、ずっと想ってくれた二人目のヒロインのところに主人公が行く、という話だった。


 感動的なストーリーだったし、3年生の出し物なので、高校生活最後の文化祭最後の回ということもあって、終演の挨拶の時に出演した生徒たちが大泣きし始め、演劇の会場だった教室は大きな拍手に包まれた。拓海と莉子もずっと拍手をしていた。



「拓海、劇、どうだった?」

「いや、良かった! 主人公が走り出すところとか!」

「だよね、あそこ良かったよね!」

 拓海と莉子はしばらく演劇の話で盛り上がった。


「ちなみに、ヒナが見た方はどうだった?」

「ホラーもの、なかなか怖かったよ。ストーリーのあるホラーはお化け屋敷とはまた一味違った。朱里ちゃんとシャロンは、めちゃくちゃ怖がってた」

「お化け屋敷で脅かし過ぎちゃったからかな……」

「あー、そうかもね!」

 そんな話もしつつ、残りわずかな時間となった文化祭を二人で歩いて楽しんだ。



 文化祭終了予定時刻となり、拓海と莉子は2組の教室に戻った。2日目も大盛況だったお化け屋敷はまだ列が続いていたが、やがて最後の客を捌き、教室内は喧騒に包まれた。


「お疲れーーー!!」

「終わったぁ!!」

 あちこちで男子女子に関係なく握手をしたり、クモの妖怪を胴上げしたり、口々に成功を称え合ったりしていた。


「ほらほら、立役者、怪異研究会!」

不室ふむろくん、莉子! こっち来て! そう、そこ! もうちょっとくっついて!」

 拓海と莉子はくっつかされ、魔具を持たされて写真を撮られている。


「不室くんの代わりに日菜菊入って!」

「次、天知あまちくんとクラリスとキマロも来て!!」

 日菜菊と莉子の写真も撮られ、最後には怪異研究会関係者も全員押し込められて、写真をパシャパシャと撮られた。


 やがて写真を撮る流れはクラス全体に波及していった。妖狐のエマやろくろ首のお姉さんもあちこちから声をかけられ、写真撮影タイムになっている。


 15年越しで文化祭を完遂することになった柚希ゆずきは泣き出してしまい、剣持けんもちがフォローするのを生徒たちが茶化す流れもできた。


 また、興奮した男子生徒数名が、異世界ゾダールハイムのゲート監視所から協力者の兵士を連れて来て、写真撮影の輪に押し込んだりしていた。



 その日のうちに片付けをする必要があるので、盛り上がっていた教室は少しずつ後片付けに移行した。しかし、上がりきったテンションはそう簡単には収まらず、片付けの後は全員で学食に移動して打ち上げを始めるのだった。


 その場は2組の打ち上げの場だからということで朱里やシャロンは遠慮し、先に天知家に帰っていった。

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