5-6話  異世界人の観光

 文化祭の終わった翌日。

 月曜日ではあるが、学校は振替休日だ。シャロンが異世界に帰る日でもあり、怪異研究会で観光スポットを案内することになっている。


 拓海たくみ莉子りこと共に浩太こうたの家に移動した。クラリス、キマロ、朱里あかり、シャロンも交えて談笑しているとぎくが到着し、全員で出かける準備をした。行き先は、動物園だ。


 行政の怪異専門組織が車を出してくれることになっており、全員で乗り込んだ。拓海たちは文化祭の疲労があったものの、車内は和気あいあいという雰囲気になった。


 異世界人にとっては、地球の動物と触れ合うのは貴重な体験となるので、シャロンだけでなくクラリスも楽しみだという顔をしていた。


 怪異専門組織が事前にチケットを手配してくれていたので、運転手から受け取り、拓海たちは動物園に入っていった。


「わー、可愛い!!」

「これ、何て動物なの!?」

「それは、レッサーパンダだな」


 最初に目にしたレッサーパンダにシャロンとクラリスが興奮し、浩太がその説明をした。拓海と莉子と日菜菊と朱里も口々に『可愛い』などと言いながら写真を撮っていたが、知識ゼロのシャロンとクラリスの方が遥かにテンションが高い。


「え、待って、キマロがいるよ!?」

「ああ、確かに翼を付けたらキマロかもな、あれ」

「失敬な!! あんな可愛げだけの動物とワシを一緒にするでないわ!」

 リスを見ながらキマロが叫ぶ。


「あれ、獣人族!?」

「え、チキュウにもいるの!? なんで動物扱い??」

「獣人族? あれはオランウータンっていうサルの仲間だぜ」

「確かに、近くで見れば獣人族とは違うのぉ」

 浩太たちがオランウータンについて話しているところに莉子が近づいていった。


「その獣人族っていうのは?」

「風貌はこのオランウータンと似てるよ。でも、獣人族は普通に喋るし、人間と大差ないかな」

「へぇぇ、そうなんだ!」

「力だけなら獣人族の方が上じゃが、魔術が主体のゾダールハイムではあまり意味を持たんの」


 拓海は、獣人族について根掘り葉掘り聞いている莉子たちに向けてスマホをかざし、写真を撮った。日菜菊も離れた位置からスマホをかざしており、その隣には朱里がいる。


「クラリスとシャロンが楽しそうで良かったね」

「そうですね……」

 朱里が日菜菊に答える。朱里の目は、日菜菊の手元を見ていた。


「日菜菊先輩、聞いていいですか?」

「なに?」

「日菜菊先輩って、拓海先輩と莉子先輩の何なんですか? それ、同じ指輪ですよね……?」

 日菜菊の耳から朱里の言っていることを聞き取った拓海が、日菜菊と朱里の元に歩いていく。そして、そのまま朱里に話しかけた。


「まあ、三角関係とか、そういうんじゃないよ」

「え?」

 朱里は、日菜菊に聞いたはずのことを拓海が返答してきたことに混乱している様子だ。それを見た拓海と日菜菊にも少しイタズラ心が湧いて来る。


「そうね……、当ててみなよ、朱里ちゃん」

「ああ、それがいい。今のところ、の関係を言い当てたのは莉子ただ一人だ。さて、朱里ちゃんはどうかな?」

「えええ……。従兄弟とか、兄妹とか? いやそれじゃ指輪の説明にならないですね……」

「「違ーう」」


 朱里はさらに混乱し始めたようだった。その後もしばらくモヤモヤしながら考えているようだったが、結局莉子に聞き、心から驚いた様子で拓海と日菜菊に色々なことを尋ねるのだった。



 その後も動物園を堪能し、夕方になると、拓海たちは浩太お勧めの夜景スポットに移動した。拓海たちの街は都市というわけではないが、そこからの夜景は確かに綺麗だった。莉子の誕生日に拓海たちが過ごしたデートスポットとは異なり、穴場という言葉が相応しい場所だ。


 浩太は、クラリス、キマロ、シャロンの異世界組と何やら語り合っている。拓海と莉子と日菜菊と朱里は、少し離れた場所で缶ジュースを飲みながら夜景を見ていた。


「浩太、シャロンたちをよくもてなしてるな」

「中学時代の彼女さんたちとも、こういうスポットでデートしてたのかなぁ」

「どうでしょう。あの兄貴の恋愛事情は底が知れないですからね。でも、結構、クラリスとキマロも色んなところに連れて行ってますよ」

「え、そうなんだ」

「へえ、張り合ってるだけじゃないんだな……?」

「そうですね。クラリスとキマロに地球を楽しんでほしいとか、そういうこともよく言ってますよ」


 浩太とクラリスの間に何かが芽生えることはないのか。それは拓海にとっては気になることの一つだったので、浩太とクラリスの間の新しい情報には敏感に反応した。見ると、莉子も同じようなことを考えている顔だと拓海は思った。


 しかし、そんなタイミングで浩太とクラリスがいつもの言い争いを始めた。


「あらら、また始まった」

「うーん、いつものコウちゃんとクラリスだね」

 そう言い合っている拓海たちの元にシャロンが歩いてきた。


「コウタとクラリスの関係は面白いね。あんなクラリス、私は見たことない」

「クラリスもそうなの?」

「俺たちからしても、ああいう浩太は見たことないよ」

「そうですね。妹の私から見ても新鮮ですよ」


 初めて見る一面。拓海たちから見た浩太だけではなく、シャロンから見たクラリスも。それは拓海たちの雑談のさかなになるのだった。


「私は今日帰っちゃうけど、コウタとクラリスのこと、出来るのなら見ていたかったなぁ、と思うよ」

「そうだな。また来てよ、シャロン」

「そうね。私たちはいつでも待ってるよ」

「ありがとう」


 やがて、行政の怪異専門組織の者が車でシャロンを迎えに来た。全員で写真を撮ってもらい、クラリスがシャロンを抱擁して送り出し、シャロンは高校にあるゲートから、異世界ゾダールハイムに帰っていった。

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