5-1話  夏休みの終わり

 夏休みも終わりに差し掛かろうというある日。


 その日は莉子りこの誕生日だった。この日は怪異研究会の予定はなく、拓海たくみは莉子を連れ出して一日中遊ぶコースになった。


 腐れ縁の幼馴染にとってはいつも通りともいえるショッピング、少し背伸びしたランチ、ちょっとしたデートスポット等、バリエーション豊かな一日を楽しんだ。


 締めくくりとして、拓海と莉子は夜景スポットに来ている。デートスポットといえる場所だったので、周りにはカップルと思われる人々が多くいた。


「改めて、莉子、誕生日おめでとう」

「ありがと、拓海」

「これ、俺からのプレゼント」

「ん~、何だろ?」

 莉子は拓海から渡されたプレゼントの包装を解いた。


「これ……ペアリング?」

「本当は、もっと早く、別の記念日とかにプレゼントできたら、って思ってたんだけどね」

「でも、ペアリングだと、拓海の場合……」

「うん。莉子ならそう言ってくれると思ってさ、ほら」

 拓海はスマホを見せた。そこにはビデオ通話越しに、同じリングを手に持っているぎくの姿が映っている。


「え、3つあるの?」

「そう。だから本当は何ていうのかな、トリプルリング?」

 それは市販品ではなかった。レア過ぎるのか、拓海にはそういう品を見つけられなかったので、ルビーのツテを頼って特注にしたのだった。制作には少なからず時間がかかった。


「へええ、これは凄いね! そういうことなら、私も嬉しい!」

 莉子は、本当に拓海と日菜菊から成る怪異を一人の恋人として扱い、尊重してくれる。きっと莉子以外にそんな人間はいないと拓海は思っている。

「莉子、大好きだよ」

 だから、そういう言葉も自然と出てくるのだった。


「私も大好きよ、

 莉子はあえてヒナタという愛称を使った。拓海と日菜菊を区別していないことを強調したいとき、莉子はその言葉を使うようだった。


 夜景の綺麗なスポットで早速指輪をはめ、キスをし、抱擁をしながら流れる一時。自分の頬が染まっている感覚のある拓海だったが、気にもしなかった。


 手を繋いでスポットを歩きながら、色んな話をした。既に考えられないほど濃密な日々となっている高校生活や、高校に入る前の他愛ない昔話、日菜菊の昔話、これからのこと。普段だったら恥ずかしいと思うような話も混じっていたが、雰囲気がそれを可能にしていた。



 やがて、時間も遅くなり、拓海と莉子は帰路に着いた。莉子の両親がケーキを用意しているという話だったので、夕食は取っていない。


 拓海は莉子を送り届け、そのまま帰ろうとしたが、莉子の両親に肩を掴まれ、ざき家に引っ張り込まれた。


 結局、拓海も莉子の家でのお祝いに参加することになった。莉子の父は、拓海が成人したら一緒に酒を飲みたいなどと言って酔っ払い、最後には寝てしまった。


「もうお父さん、みっともないなぁ……!」

 莉子と拓海とでその身体をかかえ、寝室に運んでいった。莉子はそのまま毛布をかけたり、起きたとき用の水を机の上に準備するなどの世話をしている。


 拓海が居間に戻ってくると、莉子の母から声をかけられた。


「ごめんね、拓海くん。あの人、拓海くんが息子か何かに見えているみたいでね」

「いえいえ。俺の方こそ、いつもお世話になっていますし……」

 拓海も幼い頃から莉子の父にはかなり面倒を見てもらっている。この日のように、酔っ払って寝てしまう姿をそう何度も見たわけではなかったが。


「ちなみに、莉子に彼氏が出来たことを知った時は固まっていたわよ」

「え、そうなんですか……?」

「まあでも、相手が拓海くんだと知って、それなら安心できる! みたいなことを言ってたわね」

「……そう思ってもらえたなら嬉しいです」

 拓海と莉子は、交際を始めた報告をきちんとしたのだが、その前にはもう知られていたということだった。



 戻ってきた莉子と共に3人で談笑していると、拓海の母・知里ちさとも帰宅して千ヶ崎家を訪れ、一緒になって莉子のお祝いをした。


 夜もふけた頃に、拓海と知里は帰宅した。



    ◇



 夏休み最終日。

 拓海と莉子は文化祭の準備のため、登校した。もはや夏休みとは何なのかという雰囲気の校内は生徒で溢れかえり、各クラスが準備をしている。


 1年2組の教室でもせっせとお化け屋敷の内装、外装の制作が進み、お化けチームは本物の怪異勢に負けまいとお化けのクオリティアップに努め、様々な調整が行われている。


 なお、ヒナタ・コンビが魔術で演出する白装束の女については、日菜菊が全日程に参加するわけにはいかないので、交代制になった。日菜菊以外が演じる時は、残念ながら魔術抜きということになっている。日菜菊を含む白装束の女役の生徒は、セリフがあるために演劇部から熱血指導を受けていた。



 そんな中、浩太こうたとクラリスとキマロが話している。


「ほほう、ガストンめ、許可を出したのか」

「うん。シャロンが見に来てくれるって」

「ほう、シャロンか!」

 クラリスの友人を文化祭に呼ぶという、浩太とキマロが提案した話が進展したのだった。


「それ、誰なんだ?」

「シャロンはクラリスの親友じゃよ」

「小さい頃からずっと一緒でね」

「性別事情は違うけど、拓海と莉子ちゃんみたいだな」

「うん、そういうことになるかな!」


 クラリスはシャロンが来てくれるのが嬉しいようで、笑顔で色々なことを語るのだった。

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