3-3話  温泉旅行出発

 1学期の最後の日。終業式が終わって、ホームルームのために拓海たくみたちは2組の教室に戻ってきた。怪異研究会の関係者で談笑をしている。


「温泉旅行いいなぁ。いつ行くんだっけ?」

「夏休み入って最初の土曜」

 浩太こうたが尋ね、ぎくが返答した。


 当たった人が必ず行かなければならないということなので、日菜菊が莉子りこと一緒に行くことになった。拓海をねじこめないか確認したが、できなかったので、ここは日菜菊と莉子の旅行ということになった。


「ふーむ、それとは別にワシらも旅行はしたいのう」

剣持けんもち先生の苦労が増えそうだよね、その場合」

「先生は気にしすぎなんだよ。ルビーさんみたいにどーんと構えていれば良いのに」

 剣持のことを話題に出したところで、ちょうどその剣持が入ってきた。


 剣持は連絡事項を簡単に伝えた。だが、このホームルームはそれだけでは終わらない。クラス委員長をやっている女子生徒の愛佳あいかが前に出た。2学期にある文化祭で2組が何をやるかを話し合うのだ。イベント好きが集まる高校なので、これは白熱するトピックだった。


 喫茶店、お化け屋敷、映画、などお馴染みの出し物や到底実現できなそうなアイデアも出た。


「喫茶店っていっても、食事は何出すの?」

「ラーメン!」

「ばっかじゃないの!」

「映画って今やる必要ある? どうせ3年の時に劇やるでしょ?」

「お化け屋敷、リアル狼男いるじゃん、うちのクラス」

「それはやりすぎでしょ」

 生徒たちは口々に想いをしゃべり、まとまりに欠ける状態が続いた。


 何時間も話し合いは続き、ようやくお化け屋敷で行こうという話にまとまった。


「うっし、お疲れ。また2学期な」

「じゃあね」

「バイバイ」

 長いホームルームが終わり、帰宅組、部活組がバラバラと教室を後にした。



 拓海たちは怪異研究会の資料室に移動した。1学期にノートに書き加えたことを振り返る。


 狼男、男女の魂の事件、異世界ゾダールハイム、魔具の数々。なんという濃密な3ヶ月だったのだろうかと拓海は思った。


「夏休みも活動する?」

「そうだなぁ。クラリスとキマロのこともあるしね」

 他の部活のように、怪異研究会も夏休み中に活動をするという話になった。浩太たちが夏休み中にもゾダールハイムを訪れることになっているので、剣持と一緒について行くのも活動になるだろうと拓海は思った。


「お、いたね」

 剣持が柚希ゆずきを連れて拓海たちに挨拶するために資料室を訪れた。


「先生たちは夏休みはどうするんですか?」

「夏休みと言っても僕は仕事があるからね。もちろん、柚希との時間も作るつもりだが」

「もう、宗吾そうごったら、そんな堂々と……」

「お熱いですね!」

「君たちも人のことは言えないだろう……。旅行先で何かあったらすぐに連絡してくれて構わないからな」

 剣持は拓海たちにそう言うと、柚希と共に資料室を後にした。


「私たちもそろそろ行こっか」

「そうだな」

 拓海と莉子と日菜菊も資料室を出た。


 旅行の準備の一環で、ショッピングモールに移動した。旅行先には、川に隣接した水着で入れる温泉があるということだったので、まずは水着を新調することになっている。今回の旅行用だけでなく、夏休み中に海にも行こうという話になっており、拓海の分も買う予定だった。


 あれはどう、これはどう、と次々と水着を手に持っては試す。水着でなかったとしても、拓海と莉子の買い物はいつもそうだった。その男性らしからぬ拓海の買い物の楽しみ方は、日菜菊と繋がっている故であったが。


 だから、女性用水着コーナーで莉子の水着試着に見とれるだけでなく、拓海が水着を選ぶ時も3人ふたりであれやこれやと買い物を楽しむのだった。


 他にも必要なものを買い揃え、拓海たちはショッピングモールを後にした。日菜菊は、この日は第2寮に戻った。




 拓海と莉子は帰宅後、久しぶりにオンラインゲームをプレイした。日菜菊も寮から参加し、さらにこの日は浩太のゲーム機を使ってクラリスも挑戦していた。


「異世界の人には、地球のゲームはどう映るかな?」

「楽しんでもらえるといいね」

 途中経過を見ても、クラリスが操っていると思われる浩太のキャラのスコアは低い。きっと、いつものように言い争いをしながら、浩太がクラリスにやり方を教えているのだろうと拓海は思った。


 何試合かした後に、ゲームを切り上げて、全員で少しグループ通話をした。相変わらず浩太とクラリスは罵り合っていたが、どうやらゲーム自体は楽しかったようだった。


 やがて夕飯の時間になり、莉子は家に帰っていった。



    ◇



 旅行当日の朝、拓海は莉子を駅まで送り届けるため、莉子の家に向かった。莉子は荷物を持って出てきた。拓海は莉子の荷物を持つと、手を繋いで駅までを歩いた。


 改札前で莉子に荷物を渡すと、拓海は莉子を抱き寄せた。

「わ……」

「気をつけてな」

「もう。すぐにでしょ?」

「ああ、そうだな」

 拓海が莉子を離し、お互いに手を振り合うと、莉子は駅のホームに移動していった。

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