3-2話  花火大会

「はい、そこまで!」

 期末試験の最後の科目が終了した。


「終わった~」

「やっと解放される……」

「部活再開だな」

 拓海たくみのクラス、2組の生徒たちも口々に試験終了を喜んだ。


 異世界の試験を受けるなどという大仕事をこなしたクラリスは机に突っ伏している。

「クラリス、短期間でよくやった、誇りに思うのじゃ」

 キマロはクラリスに労いの言葉をかけていた。


「なんか、コウちゃんも疲れた顔してるね?」

「クラリスが諦めるってことを知らないもんだから、遅くまで勉強に付き合わされてさ……」

 莉子りこの疑問に浩太こうたが答えた。


「記憶を定着させるには寝ることだって大事なんだから……。少しは論理的に考えろっての」

「うっさいわね……。そもそも知らないことだらけなんだから、寝たって意味ないでしょ、バカなの?」

 本当に疲れているのか、浩太もクラリスも罵り合いに元気がなかった。


「まあ、本当にお疲れ。どっかパーッと遊びにでも行く?」

 拓海が尋ねた。


「夏定番のイベントあるよ」

 そう言ってぎくが持ってきたチラシは、花火大会の宣伝だ。


「花火大会? なんじゃそれは?」

 キマロが興味津々で聞いた。クラリスも机から身体を起こして耳を傾けてきた。


 異世界組にとっては地球の日本の文化は興味があることなので異論は出ず、拓海たちは花火大会に行くことにした。



    ◇



 花火大会の日。拓海は家の前で浴衣姿の莉子と合流した。あえて日菜菊と一緒に選ぶことをしなかったので、拓海にとっては初見の浴衣姿だった。


「あ~、綺麗だな、浴衣姿……」

 拓海は心の声のような言葉を呟いてしまった。


「そ、そう? ありがと……」

 素直に頬を染める莉子を可愛らしく思い、拓海は莉子を抱き寄せた。


 やがて日菜菊が拓海の家から出てきた。拓海の母・知里ちさとが浴衣の着付けを手伝ったのだ。


「ああー、ヒナ、それはもう、美しいという言葉が似合う奴だよ!」

 莉子は日菜菊の両手を取り、濃紺の色が日菜菊の凛々しさを押し出していると評した。


(まず、系統がかぶらなくて良かったな……)

 拓海はそんなことを思った。



 拓海たちはそのまま出掛け、花火大会の最寄り駅で浩太、クラリス、キマロと合流した。キマロは猫に変装して浩太の肩の上に乗っており、クラリスは浴衣姿で参加だった。


 莉子と日菜菊はクラリスに駆け寄ってスマホで撮影をしたり、そもそもの浴衣についての説明をしたりしていた。



 花火大会の会場への道は既に混雑しており、拓海と莉子は自然と手を繋いだ。日菜菊は、位置は把握できるから大丈夫と主張したが、莉子が逆の腕で日菜菊の腕を抱き寄せ、3人で歩くという、周りから見たら不思議に思われるであろう状態で歩き始めた。


「あのは良いね。なんか憧れちゃう」

「リコの頭の柔らかさが為せることじゃの、あの関係は」

 拓海たちを見て、クラリスとキマロが言った。


「日菜菊のことは俺も驚いたけど、それで関係が壊れるような奴らじゃないよ、あの幼馴染たちは」

 浩太がそう言った。


「タクミたちのことは良いが、お主らに青春は生まれんのか?」

「「ない!」」

 浩太とクラリスは力強くキマロの発言を否定し、意地でも手など繋がないというオーラを出しながら混雑する人々を避けて進んでいった。



「屋台いっぱいだね」

「焼きそばとかたこ焼きあるよ!」

 地球組はクラリスとキマロにこういうイベントでお馴染みのものを食べてもらいたいと思い、各々が買っては少しずつ振る舞った。これについては浩太も一緒になってやっていた。



 花火を見るのに良さそうなポジションを見つけ、拓海たちは持ってきたシートを引いて腰を落とした。屋台で買ってきた食べ物や飲み物を置いて、しばらく談笑する。


 花火が始まると、拓海たちはスマホをかざして写真を撮ったりしつつ、迫力のある音や綺麗な花火の色を楽しんだ。


「ゾダールハイムにも魔術を使った似たようなものはあるんじゃが、魔術なしでこれは信じがたいことじゃの……」

「ホントね……」

 キマロとクラリスは感心しきりだった。


 拓海と日菜菊は、莉子の両側に腰を落として、それぞれ莉子と手を繋いで花火を見ていた。こんな風に色んなことを莉子と一緒に楽しんでいければ良いと、拓海は思った。


 やがて花火が終わり、辺りは拍手喝采になった。拍手がおさまると、拓海たちは後片付けを始めた。


「あれ?」

 日菜菊がたこ焼きの包装をゴミ袋に移そうとしたとき、おかしな紙が入っているのに気づいた。スクラッチが付いているので、日菜菊は硬貨を使って削ってみた。そこには、『当たり! くじ引き挑戦権獲得!』とあった。


「なんじゃ、それは?」

「くじ引き挑戦だって」

「たこ焼きの袋にくじ? どこでやってんだろ?」

「たこ焼き屋、よってみる?」


 拓海たちは、たこ焼きを買った店を訪れた。すると、くじをやっている場所を教えてくれたので、さらに移動した。日菜菊はくじ引き挑戦権の紙を担当者に渡すと、ガラガラ抽選機を回した。


「おおおーーーー!! おめでとうございます!! 一等、温泉旅行ペアチケットプレゼント!!!」

 抽選の担当者が叫んだ。


 それを聞いた日菜菊は、心の底から次の一言を発した。

「……え?」

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