1-1話 幼馴染たちの日常
長く続いた受験勉強を乗り切り、無事に高校進学を決めた
「うわー、くそ負けた!!」
「あー!!」
その試合は拓海と莉子のチームの敗北で終わった。こうやって拓海の部屋でゲームをするのは、受験があったために久しぶりのことだったが、家が隣同士である二人にとっては幼い頃からよくやっていたことだった。
本日最後と決めていた試合で勝利できなかったので気持ち悪さは残ったが、二人は割り切って片付けを始めた。
「ありがと拓海。久々に楽しかったよ」
「俺もだよ。ぜんっぜんゲームやってなかったしなぁ」
「ホントにね」
「でも久しぶりとはいえ、ここまで完敗するなんて」
「いや、そりゃ、そうなるよ……。ほら」
莉子に促されて拓海はゲームのリザルト画面を見た。1位のプレイヤーの個人成績があまりにもダントツだった。そのプレイヤーは、配信をしている強豪だ。敵チームにそのプレイヤーがいたため、拓海と莉子のチームは完敗したのだ。参加者がランダムに決まる試合でこのようなプレイヤーと一緒になることは滅多にない。
「メッセージ送ってみようか?」
「いいね。返信あるかな」
拓海はゲーム機のコンソールからお礼のメッセージを入れたが、返信はなかった。『残念』などと言いながら二人は片付けを続けた。
莉子が壁にかかった男子用制服を見た。拓海の高校制服だ。
「新しい制服だね」
「ああ、あれ? もう中学のはしまっちゃったよ」
「私も。ちょっと切ないよね」
拓海は中学時代を思い出した。節目節目で楽しい思い出はいっぱいあった。何の変哲もない普通の中学時代だったものの、莉子は卒業式で泣いてしまったくらいだ。ただ、二人にとっては思い出作りは終わりではない。拓海と莉子は同じ高校に進学するのだから。
「拓海、もう部活どうするとか考えてる?」
「いや、全然。莉子は?」
「私も全然」
そんな会話を機に、二人は、中学時代はああだった、高校ではこうなったらいいね、などと他愛のない話に花を咲かせた。
片付けが終わり、拓海は莉子と一緒に玄関を出て、隣家の前まで送っていった。
「じゃあね拓海」
「ああ、またな莉子」
簡単な挨拶を済ませると、莉子は家に帰っていった。
拓海が部屋に戻ると、隣の家の莉子の部屋に明かりが点いているのに気づいた。拓海は名残惜しそうにその明かりを見つめる。
長く一緒にいたから、少しずつ起こる変化には鈍感になる。幼い頃は、隣に住むただの女の子だった。
しかし、もう拓海にもよく分かっている。莉子は可愛い。綺麗な顔立ち、華奢なのに出ているところは出ているという容姿に加え、気配りができて、おかしなわがままを言わず、人として尊敬できる。料理も得意だ。こんな
「はぁ……」
拓海はため息をついた。誰もが振り返るであろう絶世の少女は家が隣の幼馴染。石が飛んできそうだ。自分がありえない境遇にいると拓海は思っていた。
しかし、拓海が莉子に告白したりすることはできなかった。拓海には誰にも言っていない秘密があるのだ。
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