剣聖は聖女と付き合いたい〜剣聖は何十回振られても成功するまで諦めない〜

愚弟

第1話

「ハァッ‥‥ハァッ‥‥」


 大きな剣を背中に背負った男は、太陽の光が反射して輝いている様に見える黄金色の髪を揺らしながら走っていた。


「ハァ‥‥やっと‥‥着いたぁぁ。ふぅ、意外に遠いんだよな〜」


 男の名はフウロ・ジャンバ。剣聖の称号を持つ最強の英雄。フウロは目的地である教会に着き、中に入ると自分の最愛の人に声をかける。


「ティーレさん!おはよう!」


「ふふ、今日も来たのね。おはよう、フウ君」


 フウロが声をかけると、美しい女性が振り向いて微笑んだ。あまりの美しさと愛おしさに顔が赤くなるフウロ。

 腰まで伸びた雪片を連想させる白銀色の髪と、透き通るような白い肌、宝石の様に綺麗で真っ赤な瞳が特徴の美女の名はティーレ・サリン。

 ティーレはフウロの幼馴染であり、聖女の称号を持つ英雄だ。フウロはティーレの目の前まで近づき、片膝を地面につけて愛の告白をする。


「ティーレさん!俺と、結婚を前提に付き合ってください!」


「何度もごめんなさい、フウ君。まだ付き合う気は無いの」


 微笑みながら断るティーレ。ティーレからは少しも罪悪感が感じられなかった。むしろ楽しそうにしているのがフウロの心を抉る。


「えっ‥‥‥」


 何十回も振られているフウロだが、人類の敵と言われている魔王を倒した事により世界に平和が訪れた為、今度こそティーレから良い返事が貰えると期待していた。

 しかし、即答で振られてしまう。告白が絶対成功するという自信があった分反動が大きく、涙目になりながらフウロはティーレに問う。


「な、なんでぇ!?この前魔王を倒したじゃん!魔王がいなくなったら考えてくれるって‥‥!!」


「考えた結果なのよ〜」


「そんなぁ〜」 


 ガクリと項垂れるフウロ。先程まで輝いて見えた黄金色の髪が、今は霞んで見えるほどフウロの落ち込み具合は凄かった。

 そんなフウロに、ある人物が呆れたように話しかける。


「おはようございます、フウロさん。また振られたんですか?」


「またって言うな!結構傷つく!冗談抜きで!あとおはよう!」


「あら、おはようシャルト」


「おはようございます。ティーレ様」


 話しかけてきた男はシャルト・アスト。ティーレと同じ教会で働いている神父だ。年齢はシャルトの一個下で20歳。

 フウロが童顔のせいもあるが、フウロよりも大人っぽく見える。


「シャルトは毎回振られるのをイジってくるな!お前には道徳心がないのかエセ神父め!」


「エ、エセ‥‥?‥‥だってこれで何回目ですか?もう諦めた方がい‥‥‥」


「‥‥‥」


「ゴホンッ!な、何でもありません」


「くそぉぉぉ!」


 シャルトは諦めた方がフウロの為になると思って諦めるよう言おうとしたのだが、ティーレが無言の圧をかけてきて断念する。

 ティーレは微笑みを崩さなかったが、目は笑っていなかった。そんなティーレを見て冷や汗が止まらないシャルト。

 吠えるフウロを放置し、空気を変える為にシャルトはある物をティーレに渡した。


「あ、ああ、ティーレ様。そう言えばずっと欲しがっていたギデオンの花が届きましたよ」


「本当に!?嬉しいわ〜持ってきてくれてありがとう!」


「いえいえ」


 満面の笑みでシャルトにお礼を言うティーレ。また、シャルトも上司の機嫌を直せたことに安心し、満面の笑みを返す。


「あっ‥‥」


 自分が愛してやまない人と、その人の部下であり自分の友達である人が心から喜び、笑い合っている光景をフウロは口を開けてただ見ていることしかできなかった。

 そして理解してしまう。何故、今まで自分がティーレに振られていたのかを。


(そっか‥‥だから俺はずっと振られていたのか‥‥‥)


 フウロはゆっくりと立ち上がる。

 急に静かになったフウロを困惑しながら見るティーレと不気味な様子で見るシャルト。


「‥‥ティーレさん、今まですみませんでした。シャルト、気づかせてくれてありがとう」


「フウ君?何を‥‥」


「フウロさん?」


「‥‥さようなら」


 そう言いフウロは教会を走って出る。

 突然のことに理解が出来なかった2人は固まってしまい、教会は先程までの賑やかな状況が嘘かと思う程静かだった。

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