【完結】植物系王子と植木鉢少女 ~植木鉢扱いだった少女、クールな冷徹王子に溺愛される~

かなめ

1.頭に花咲く女の子

私、ティアラ=リングは、ごくごく普通の女の子。


――……頭に、小さな花が咲いている以外は。



そんな普通の庶民である私が、王宮でおこなわれる建国記念日を祝う晩餐会へ行けることになったのだ!

……お手伝いとして、だけど。


当日、私は浮き浮きとした足取りでお城へ向かった。


「わあっ、今日は満月なんだ……お城がくっきり、月の光に浮かび上がってる~」


城内に入ると、ロマンチックな気分がますます盛り上がる。


「うわー、やっぱりどこもかしこもすっごく素敵だね~! ねえ、ペロリン?」


「キュ? クァァァ……」


自分の頭に咲く花に話しかけるも、ペロリンは興味なさげに生あくびをした。


「もうっ、ツレないんだから」


『ペロリン』と名付けたこの不思議な花は、私が赤子のときから頭に咲いていた……らしい。

というのも、捨て子だった私は孤児院で育てられ、出生の事情がまったくわからない。

幼い頃の話は全部、シスターが教えてくれたのだ。


「少しは話し相手になってくれてもいいんじゃない?」


「フアアア~~~……」


これみよがしに大あくびを返すところを見ると、絶対こちらの言うことはわかっているはず。


「むっ……可愛くない」


「フフーンッ」


頭に咲いているというだけで、見た目は完全にチューリップのペロリン。蕾をとがらせて、ツーンとそっぽを向いた。


「まあ、花と仲良くなろうとしても無駄か……」


そもそも花なのに意思を持っているのがおかしい、という話は置いておいて……。


「……って、あれ?」


ペロリンに気を取られていたら、まったく見覚えのない場所に出てしまった。


「さっき、ここを右に曲がって来たからー……だから、反対に行けば戻れる……はず」


ちょっとトイレに来ただけなのに、元いた場所へ戻れなくなってしまった。


「わあ、まずい……これってもしかして、迷子……?」


小さな子ならまだしも17歳で迷子とは、かなり恥ずかしい。

いくら、小っちゃな頃から憧れてた王宮に来たからって……浮かれすぎたかなぁ?


でも、仕方ないじゃない。だって……妄想していたお城より、断然素敵だったんだもの!


「あの~、すみませ~ん。どなたかいませんかー……?」


「キューーーン……キュン?」


そのとき、ペロリンがピクンと反応した。


「あれ、ペロリン……どうしたの?」


「ン゛ン゛ン゛ッ! ヴウウー!」


「え、なになに?」


頭に花が咲いていることをカモフラージュするための花飾りを押しのけ、ペロリンがジタバタと暴れ出した。


「クエッ、クエッ、クエーーーッ!」


「うわっ!? そんな引っ張られると……あ、危ないっ」


私の意志とは関係なく、ペロリンは何かに吸い寄せられるように廊下を駆け抜けた(駆けているのは私だけど)。


「きゃーーーっ! ちょ……速いってば!」


チューリップくらいの大きさなのに、引っ張る力はものすごく強い。


「ぎゃあああーーーっ!?」


廊下の突き当たりで、ペロリンはピタリと急停止した。


「わっ、今度はいきなり止まった!」


ゼーハーと深呼吸しながら、目の前の荘厳そうごんな扉へ手をつく。


「……ん? このドア……なんだか、すっごく立派」


他とは違う豪勢な作りで、王宮の中でもはっきりと特別な場所だとわかる。


「あ、もしかして……ここがあの有名な、クラウンザード大聖堂?」


クラウンザード王国の、最も神聖な場所とされる大聖堂――

年に数回、祭事で開放されるだけの格式ある聖域である。


「まさか大聖堂にまで来られるなんて……」


「クン、クン……」


しきりに匂いをぐような仕草をするペロリン。


「ん? この部屋がそんなに気になるの?」


「クエックエッ!」


早く中に入れと言わんばかりに、私をぐいぐい引っ張る。


「そんな……無理だよ。私みたいな一般人が無断で入れるわけないじゃない」


「ギエエエーッ!」


威嚇いかくしたって無駄だってば! ここがどんなに神聖な場所かわかってないでしょ」


このままではらちが明かないと思ったのか、ペロリンのツルがニュルルーンと伸び、扉の隙間へ入り込んだ。


「えっ、ちょ……ダメだよ! か、勝手にそんなことしたら……」


しばらくツルがうねうねしていたと思ったら、両開きの扉が音もなくゆっくりと中へ開いていった。


「あわわ……開いちゃった」


怒られるかも……と思いつつ――

大聖堂の中を一目見てみたい、という気持ちには抵抗しがたい。


「ちょっとだけ……ちょっとだけ、なら」


ビクビクしながらも、私はそーっと中へ踏み入っていった。




「わあ……綺麗」


大聖堂の中には、天井を突き抜かんばかりの大樹が鎮座ちんざしていた。

青々と茂る葉、たくさんの枝の間からまばゆい光りが降りそそいでいる。


「思ってたよりずっと素敵~……これが、大聖堂の中かあ……」


吸い寄せられるように通路を進むと、大樹の前にひざまずく人が見えた。


「あ……」


お祈りを終えたのか、ひざまずいていた人が悠然ゆうぜんと立ち上がった。


そして――



「ひゅっ……!」


振り向いた人物を見て、私は悲鳴にもならない奇声を上げてしまった。



メッチャ、かっこいい……!!



美形も美形!


イケメンとかハンサムとか、そんな陳腐ちんぷな言葉じゃ表現しきれない。

今まで、こんな美しい男の人に出会ったことが……いや、女性でもこんな綺麗な人は見たことないかも!


そう思わずにはいられないほど、私を真っ直ぐに見つめてくる人は美しかった。

絵画から出てきたのではないかと見まごうごとき風貌ふうぼう、整った容姿。

胸の中ほどまで垂らした黒髪は青みがかりつややかで、およそ男性のものとは思えない。


「……貴様、どうやってその扉を開けた」


うわ、喋った!


……って、当たり前だけど。

なんだか綺麗な人形のようで、血の通った人間とは思えなかった。


「おい、貴様……口がきけないのか」


ひっ、怖!

『貴様』って……そんな言い方する人、初めて会った。


「あ……う……」


私が何も答えないでいると、その人はゆっくりと近づいてきた。


「わ、わああーっ! か、勝手に入ってごめんなさいっ! でもっ……決して、怪しい者ではないんです!」


「そんなことをいているのではない」


ピシャリとはねのけられ、私は身体を固くした。


「え? えっと、じゃあ……私は晩餐会の手伝いに来た者で、ティアラ=リングといいます。はっ、初めまして!」


「誰が自己紹介をしろと言った」


またピッシャリ!

ううっ、やっぱりこの人……メチャクチャ怖いよ~!!

とんでもなく美形だけど、無愛想ぶあいそう威圧感いあつかんがあって……こう言ったらなんだけど、ものすご~く苦手なタイプ。


というのも孤児院の神父様が、ちょうどこんな感じで……。

厳格げんかくな性格で、しょっちゅうお説教をされて育ったせいもあり、このタイプはある種のトラウマになっていた。


「扉には特別な封印を施していた……開けられるはずがない」


「それは……って、あっ!」


「ンアアア~」


ペロリンが大きく口を開けるようにして、蕾を全開にした。


「む? なんだ、その頭は……花?」


「あっ、えっと、これは……!」


ええ、何この人……ペロリンが動いたのを見たっていうのに、全然動揺どうようしていない。


「何か仕掛けがあるようにも見えないが……まさか、本物の……花?」


「いやー、これはその~ぉ……」


気を取られているすきに、大樹の前にあった光の玉がすーっとペロリンに吸い寄せられた。


「え? ペロリン、ちょ……」


「おい、それは……!」


ペロリンは引き寄せた光の玉を――


「アアァーン……ゴッキュン!」


そのまま、パックリと飲み込んだ。



「ああああああああああああああああああああっ!?」

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