お付き合いします
藤島君から一緒に登校しようと言われてからかれこれ一ヶ月ほど経ちました。
自転車が直るまでの僅かの間だけと思っていたら、意外にも藤島君は電車通学の方が楽だからもうしばらく続けると言い、そのまま変わらずに一緒の電車に乗って学校に向かっています。
その間もあのおじさんは懲りもせず対面に座ってきますが、藤島君が私の前に立って完全にブロックしてくれるので、ストレスフリーで通学できます。
ただ、彼によれば舌打ちとブツブツ言う回数が日に日に増えているようですが……
そんなある日、差出人不明の手紙が家に届きました。中身は見るのもおぞましい妄想文。
翌日、見たことを後悔するレベルの文章を読まされて気落ちする私を見て、藤島君が心配そうに声をかけてきましたが、電車の中ではアイツに聞かれるかもしれないので、帰りに時間を取って相談したいとお願いします。
『君のことは何でも知っている。住所は◯◯、☓☓高校の2年生、図書委員だから月曜と木曜は帰りが遅いんだよね。君のその瞳、その細い手足、君のことを見ているだけで僕は興奮して
「マトモじゃねえな……」
放課後、いつものファストフード店でその手紙を見せましたが、藤島君も冒頭の一文だけで「ウヘァ」いった感じで顔をしかめます。
「どうしよう……家まで知られているみたい……」
「さすがに俺達だけじゃどうにもならんな。よし、今からすぐに行こう」
「どこへ?」
「警察」
藤島君は完全にストーカーだから、警察に相談しようと言います。
「でも、これくらいでお巡りさんが動いてくれるの?」
「こういうのは警察に相談したという実績があった方が後々有利になるらしいよ」
彼は私と一緒に通学するようになってから、独自にストーカー被害に関する知識を学んだようで、今すぐ被害届とまでいかなくても、事前に相談に行くのも重要なんだと説きます。
「本当はそうなる前に収まるのがベストだろう。陽花も出来ればそうしたいと思っているんだろうが、手紙の異常性から見て、家族や先生達にも情報共有しておいた方がいい」
藤島君が核心を突いてきます。
あまり大事にしたくないという気持ちはありましたが、何かあってからでは遅いとばかりに警察への相談を勧めてきます。
「ごめんね。なんか面倒なことに巻き込んじゃって」
「陽花は何も悪くねえ。悪いのはこの気持ち悪い手紙の出し主だ。強いて言うなら陽花が可愛いのは罪かもしれないが」
そう言っておどけてみせる藤島君。暗い雰囲気を打ち消そうとしてくれたんでしょうが、この状況でサラッと可愛いとか言われてもどう答えていいか返事に困ります……
「あんまり進展はしないよね……」
「まあ初めての相談だからな。とりあえずお巡りさんに状況を知ってもらっただけ一歩前進だろ」
相談が終わったその足で、近くの警察署へと相談に向かいました。
担当は女性のお巡りさん。あの手紙を見せ、電車の中での話もしましたところ、手紙自体は悪質だが、差出人が電車のおじさんである証拠はないので、現時点では家の周囲のパトロールを強化するくらいしか手がないと申し訳なさそうに言い、自己防衛のためのアドバイスを頂きました。
「お母さんや先生にも相談するとして、おじさんが犯人だという証拠が無いもんね……」
「気落ちしててもしょうがねえ。どうだ、今度の創立記念日の休みの日、二人で遊びにでも行かないか?」
気落ちする私を元気付けようと、藤島君が遊びに行こうと誘ってくれます。
「そこまで気を遣わなくてもいいよ」
「気を遣っているわけじゃなくて、誘っているんだ」
「何に?」
「デートでしょ」
いやいやいや、だって付き合っているわけでもないのに。
「周りはそう見ていないようだぞ」
この1か月、藤島君と一緒に登校する姿は多くの生徒に見られている。結衣たちには事情を話してはいるが、事情を知らない人から見れば、自転車通学だったのをわざわざ電車通学に変えたのはそういうことなんだろうと思われているそうです。
「思われてるって……藤島君は否定しなかったの」
「する必要が無いし」
「なんで!?」
「陽花と付き合えるのが嬉しいから」
「え……でも、そういう話じゃなくて……」
単にストーカーから守るために一緒に登校してくれているだけだよね。
「あのさ、俺も男だからさ、ただの正義感だけでこんなに一緒にいるわけじゃないよ。陽花と一緒にいたいからに決まってるじゃん」
「うそ……」
「嘘じゃねえ。興味の無い相手と毎日一緒に登下校するか? 一緒に飯食いに行くか? 毎日のように可愛いなんて言うか? 自転車なんかとっくに直ってるんだから、俺が俺の意思で一緒に登校したいってことだよ」
確かに一緒に登下校するようになってから、お茶をしたり、ご飯を食べたりと二人で過ごす時間が増えたけど、それはつまりストーカー被害に遭っている私を気遣っているからであって……
「はっきり言わなきゃ分からんか? 俺は陽花さんが好きです。良かったら付き合ってください。これでいいか?」
困惑する私の様子を見ながら、藤島君が一息に私が好きだと言い切る。
ホントに……何で……私のことが……好き!?
「えぇと……本当に私でいいんでしょうか?」
「ダメか?」
「ダメじゃなくって……藤島君にそんなこと言われて、なんて返したらいいか分かんなくて……私でよければお願いします!」
「よし! これで正式に彼氏彼女だ。二人で遊びに行くのに支障はないな」
めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を見せる藤島君につられて私も笑顔になります。
男の子に直接好きなんて言われたのは初めての経験。それも相手が彼であればうれしくないわけがありません。
「それじゃ、月曜日だね」
「ああ、いつも学校に行くのと同じ時間で待ち合わせな」
突然のことでまだ少しフワフワしていますが、鏡を見なくてもわかるくらい自分の頬が垂れ下がるのが分かります。
デート……藤島君と、お付き合い……
何でしょう。ドキドキというかワクワクというか、全身がムズムズしてきます。
早く月曜日が来ないかな♪
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