スラム街編.2.始動
【落ち着いたか?】
「……えぇ、お陰様で」
玉座に座ったまま姿勢を崩し、頭に手を添えて呼吸を整える私に呑気な声が掛けられます。
いったい誰のせいで体調を崩していると思っているのでしょうか……もう少し穏当な情報の渡し方はなかったのでしょうか?
まぁ、今さら言っても仕方のない事ではあるのですけれど。
【マスターが落ち着いたところでステータスの確認といこうじゃねぇか】
「……ステータス?」
【おうよ、ステータスは魂の貴重な内部データだ。その時その存在がなにができるのか、本来数値化する事のできない筋力や知力なんかも数値化して可視化したものだ】
うーん、私は遊んだ事はありませんが、ゲームに出てくる様なものですかね。
「よく分かりませんが、何やら便利そうですね」
【ステータスを便利そうって評した奴なんて初めて見たな……まぁいい、とりあえず言われた通りに唱えろ――シュピーゲルン】
今の自分に出来る事や、筋力なんかも数値化されて見れるのであれば便利だと思ったのですが……どうやらアークにはズレて見えたようですね。
とりあえずは言われた通りに呪文を唱えてみましょうか。
「シュピーゲルン」
そう唱えると同時に私の手の中に現れるスマホ――
「――スマホ?」
おっと、思わず口にも出てしまいました。
これはどういう事かと浮遊するアークを上目遣いで睨みつける。
【スマホ……が何かは知らんが、お前にとっての情報媒体がその形なんだろ】
「……なるほど、他の方々はどんな形になるのですか?」
【だいたい本や石版だな】
そういう事でしたら特に問題はないでしょう……現代の日本人がダンジョンマスターになったらだいたいスマホかタブレット、パソコンが形として出てきそうですね。
とりあえずスマホの扱いは慣れたものですので、さっさと電源を入れて確認してみましょう。
====================
名前:
性別:女性
年齢:15歳
種族:ダンジョンマスターLv.1 《亜神》
属性:光
状態:飢餓
カルマ: 《悪性》
ダンジョン機能
《不完全創造》《不完全知識》《把握》《拡張》《配置》《回収》《吸収》《合成》《改造》《同化》
――※その他ロックされている機能があります。
基本技能
《日本語》《英語》
《数学》《暗算》《高度計算》《義務教育》《不完全科学知識》《不完全化学知識》《不完全倫理》
《ストレス耐性》《苦痛耐性》《空腹耐性》《睡眠耐性》《不眠耐性》《火傷耐性》《電流耐性》《疾病耐性》《痛覚鈍化》
《息止め》《料理》
《敵意感知》《悪意感知》《視線感知》
特有技能
《魂魄眼》
権能
《ダンジョンマスターLv.1》《■■■■■》
称号
《異世界人》《転移者》《迷宮の主》《人殺し》《親殺し》《狂人》《被虐待児》《契約者》
加護
《地球神の加護》《■■との契約》
====================
【知ってるか? 神の正式な許可を得た者か、悪魔の覗き見でないとステータスという魂の最奥は見れねぇんだぜ?】
色々と意味不明な部分が多い私のステータスにこめかみを抑えていると、アークの呑気な声が上から降り注いできます。
ちらっと上目遣いで確認してみれば、それはもう見事なドヤ顔で……スルーしておきましょうか。
【あ、そうそう。この《ダンジョンマスターLv.1》っていうのが俺様からお前へのギフトだ。残りの一つはまだロックされてるがな】
「……」
スマホの画面を指差しながら言われた言葉に首を傾げながらも、その《ダンジョンマスターLv.1》とやらを指でなぞってみます。
====================
《ダンジョンマスターLv.1》
星の理から脱却し、捻じ曲げる■■の権能。
Lv.1: 《不完全創造》《不完全知識》《把握》《拡張》《配置》《回収》《吸収》《合成》《同化》
====================
……説明を読んでもまだよく分かりませんね。
【今はまだ基本的な事しか出来ないが、これからお前がダンジョンマスターとして成長していけばやれる事が増えていくだろう】
「……へぇ」
なるほど、この《不完全知識》から流れ込んでくる情報によると沢山の生物をダンジョン領域内で殺して大量の
【それはそれとして、そろそろその身なりを何とかしたらどうだ?】
そう言われて示された、玉座のすぐ隣にあった鏡に映る私は――酷く不格好でした。
首にはコードで締め付けられた痣が……制服に隠れていますが手首や背中に、身体中に切創や薬品で焼かれた跡があります。
それらを隠している制服だって、母親とその彼氏の返り血などで見るに堪えない有様です。
そんな、見苦しい自分の姿に微妙な気持ちになるしかないのですが……これをどうすると言うのでしょうか?
【ダンジョン機能の回収と合成を使え、一旦お前の衣服をダンジョンの資産として登録し、その後に衣服を素材として合成し直す事で綺麗になる。……これ、裏技だぜ?】
「……へぇ、なるほど」
【身体に付いた返り血は吸収しちまえ……回収じゃないから間違えるなよ】
とりあえず言われた通りに制服を《回収》して下着と靴下と靴だけの格好になったまま身体中の汚れを《吸収》で消し去り、《合成》の機能を使ってみます。
そうすると、すぐ目の前に新品同様に綺麗になった制服が畳まれた状態で落ちてきます。
それを手に取り、スカートを履いてから上を着込んでいく。
【いつまでも血を被ったままっていうのはなぁ……ついでにあれらも捕食して
言われるまでもなく、今まで放置されていた母親とその彼氏の遺体をダンジョンとして吸収します。
そうする事で、自分の中で何かが少しだけ満たされた気がしました。
回収と違うのは全てをダンジョンへと還元するところでしょうか。
【さぁ、今のうちに他の機能も試してみろ】
「そうですね」
目を閉じ、自分を中心としてダンジョン内の空間全体へと意識を飛ばす……まるで監視カメラの様に360°を俯瞰して見れますね。
高画質なんてものじゃない、普通に私の本体がその場に居て肉眼で見ているかの様な鮮明さで把握できて便利です。
これが《把握》の一端ですか……自分の領域内でなら自由に視点を動かす事も、何なら目を増やす事も出来そうですね……まぁ私の処理能力の範囲内で、という注意書きが必要ですが。
【問題ないか?】
「……えぇ、そうですね。後は休眠状態のこのダンジョンを本格的に動かす必要がありそうです」
ダンジョンとしての知識が教えてくれるのは、このダンジョンが世界との間に『相互不干渉』の契約を結ぶ事で自らの存在を保障している事です。
その為、休眠状態と言える今の状態では《拡張》や《創造》などが使えません。
しかしながら世界との契約を破棄するという事は、今の無防備な状態で女神の使徒やアークの同類の侵入を許すという事でもあります。
「さて、肝心のDPの総量は……」
手元のスマホを操作し、現在のDPを確認してみますが……そのあまりの現状に押し黙ってしまいます。
「あの、アーク?」
【……お前を、ここに喚ぶのに使い切った】
「……」
そう、ですか……そう、ですよね……人間を世界を跨いで連れて来るのですから、相応のリソースは使いますよね。
なぜもっと早く気づかなかったのか……今さら悔やんでも仕方ありません。
「なぜ世界を跨いでまで私を……って、言うまでもありませんでしたね」
【この世界とは相互不干渉の契約を結んでるからな……あと単純に
「とりあえず契約を破棄しない事には始まりませんね」
どうせDPだって今のままでは地脈とやらから微々たる量しか得られないのですから、動く事ができません。
「目覚める準備はよろしいですか?」
【あぁ、問題ねぇ】
このダンジョンが何処にあるのか、周辺の地理すら判然としませんが……どうか女神の使徒とやらがいきなり来ない事を祈りましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます