ワーキング・ヴァンパイア ~強すぎて世界が滅んでしまうので、極力戦わないことに決めました。~

シマリス

第1話 現状把握①

さっきまで俺は確かに人間で、システムトラブルが多発している開発中のプログラムの復旧作業にあたっていた。


ファンタジー系アクションゲームとして世界的に人気のある「リバティハンティング」。

ハントできるのはモンスターだけに留まらず人でも国でも様々なものが対象になる。正悪どちらでも自分の思い通りに行動できる自由度の高い世界観が人気だ。

日本発祥ということもあり国内にもファンが多く、三回目となる今回の大型アップデートでは革新的なVR技術も実装されるため注目を集めていた。


このゲームの製作会社に勤務する俺(相馬健吾)は、日々発生するシステムトラブルの復旧を担当しているエンジニアだ。


膨大な数のプレーヤーがいるこのゲームでは、些細な不具合が大問題に発展する場合もある。日頃から細心の注意を払い、開発は順調に進んでいた。


国内先行リリースを翌日に控え、全ユーザーのアクセスが停止された二十時間のシステム更新メンテナンス中のこのタイミングで、重大トラブル発生との情報が入った。


なんでもゲーム内のデータが次々消失しているという。俺はいつものように原因究明と復旧作業に駆り出された。


今まで多少のエラーはあっても、データが消失していくなんていう現象は初めてだ。


俺が原因の特定を進めている間も、強力なモンスターや国までもが次々と消えていく。


なんとか最悪の事態を避けようと奮闘している中、俺はある法則に気が付いた。


そして、俺はようやくデータの消失を食い止め、復旧作業も大詰めを迎えた。


よし!これで終わりだ!


俺は原因と思われるバグを発見。やっと家に帰ってゆっくり寝れる、、、

そう思っていた。


と、


思っていたところまでは覚えているのだが、今はコウモリになっている。


目はほぼ見えない。

何か話そうにも頭の中にギーギーと不快な声が響く。


あの時。


無事に任務を完了したと安堵した瞬間の激しい光の明滅。

俺は気を失ってしまったのだろうか?!


なぜコウモリに?

一体どうなっているんだ。

もしかして転生◯◯的なパターンなんてことはないだろうな?!


仕事はハードで孤独な作業だったが、システムトラブルの対応要員とはいえ、世界的にも多くのファンを持つゲーム製作の一翼を担えていることに誇りを感じていた。


考えて分かるはずもないが、俺の頭の中は完全に真っ白だ。 何もやる気が起きない。


辺りの雰囲気から察するにここは洞窟のようだ。苔のようなカビのような菌糸系の香り。生暖かい風が時折、俺の羽根を揺らす。


なんだか天地も逆転している。まさに漫画や映画なんかによく出てくるコウモリの佇まいなのであろう。


俺は死んだのか?!


人は死ぬ前に一番思い入れの強い場所に魂が残るとかいう、あの地縛霊の類なんだろうか。

ここ数年の大半はこのゲームと一緒に過ごしてきたとはいえ、思い入れとはちょっと違うんだが。


俺は幼い頃、両親が事故で他界。

施設に預けられ今に至る。

小さな時は寂しいこともあったが、今となっては全く不幸などと思ってはいない。それが当たり前になっていた。

大人になってからは普通に就職し、人並みの生活を送っている平凡な彼女なし独身二十五歳。


奥さんや子供と幸せな家庭を築く。

家族というものを知らない俺は、たまにビールとつまみで晩酌しながら、そんな普通の生活を夢見ていた。

人生とは無情なものだ。


今回はさすがに疲れた。ようやく作業も完了したのだから、もう少し休んでも構わないだろう。


すぐにこの現状を認識することができなかった俺は、目が覚めたら息を吹き替えし、元の世界に戻っているかもしれないという淡い期待を胸に一旦思考を停止した。

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