昴の話
「オレさ。イスバスを極められない事が凄く悔しかったんだよな。カイトみたいになりたいって思って、イスバス初めて、でもオレの居場所じゃないって気づいて。
弟が生まれたけど、死にそうで、でもあんな小さい身体で必死に生きようとしてたから、オレが絶対守ってやるんだって思った。カイトと同じように足が無かった。頑張ればカイトみたいになれるから絶対頑張れって思ってた。
だけど、イスバスがオレの居場所じゃないって思い始めた時に、急に弟に嫉妬みたいな物を感じたんだ。足の無い弟はイスバスを思い切りやって極める事が出来る。カイトと同じ道を歩む事が出来る。弟にカイトを取られてしまうんだと思った。
両親が買ってくれて、家でも毎日乗り回していたスポーツ車椅子に弟が興味を持ち始めて、オレはそれを手放して弟にあげた。
オレは無理矢理、健常者のバスケにのめり込もうとし、実際にのめり込んだ。
オレの心が引き戻されない環境を求めて、イスバスと弟から逃げたくて、アメリカ留学した。
オレ、家を出る時、母さんと弟に酷い事を言っちまったんだ。
『母ちゃん、何でオレをシュウトのように産んでくれなかったんだよ。こんな足、いらなかったのに』
『シュウト、お前はいいよな。カイトと同じ道を極められて』って。
とんでもない事を言っちまって、もう一生会う事は出来ないって思ってた。それでも仕方ないって思ってた。
そこまでしただけあって、あっちではバスケに没頭出来た。イスバスやカイトやシュウトの事を一度だって思い浮かべる事なく、オリンピック出場まで漕ぎ着ける事が出来た。
オリンピックでメダルが獲れて、オレも活躍出来て、何度も同じインタビューを受けた。バスケの原点を何度も聞かれて、オレの本当のバスケの原点が蘇ってしまったんだ。
その後、偶然にテレビでカイトのプレーを見た。オレは知らず知らずのうちに引き込まれて、椅子に座ったままカイトの動きに合わせて動いていた。オレがドゥーリハ体育館で初めて"なまカイト"のプレーを観た時と同じだった。
カイトはそんな手で、思うようなプレーが出来ない中で、仲間を生かすプレーと、今自分が出来るプレーをやり切った。自分が今持っている物を使い切る姿に胸を打たれた。オレももっと自分が持っている物を使い切りたいと思った。オレにはちゃんとした足があって、思い切り走れるんだから、イスバスじゃなくてやっぱりバスケなんだって、心からバスケを極めたいって気持ちに初めてなった。
もうイスバスを封印しなくていい。やっとちゃんと折り合いを付けられた。カイトや弟のシュウト、イスバスの仲間達を応援したい。そしてオレ自身はバスケを極める、そう思えた。
もう、右足首もほぼ治った。左足もちゃんと力が入るようになった。色んな検査されちまったけど、こうやってカイトと話も出来たし、家族にも会えたし、自分の中でモヤモヤしてた物がスッキリして、日本の病院に来て良かった。オレはすぐにアメリカに戻って頑張るよ。カイト、ありがとう」
海斗に顔を向けた昴は驚いた。海斗は涙を流していた。海斗の涙なんて初めて見た。
「え? 何だよ、カイト。オレ、何か変な事言っちゃったか?」
「ごめん」
海斗は暫くうつむいたまま、次の言葉を出す事が出来なかった。
涙を手で拭って大きく息を吐いた。
「オレが言わなきゃならなかった事、言えなくなっちまったじゃないか。わりい、ちょっと待っててな。トイレ行ってくるから」
海斗は病室から出ていった。
昴に嘘はつけない。本当の事を言わなくちゃ。でもどこまで言えばいい? オレが聞いた事、全て言うべきなのか? こんなタイミングで何て
そう思った。
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