原点

東京パラリンピック

「すげー、はえー!」

「うぉっ! ころびながらシュートきめたよ! あのゼッケン2、すげー!」

 時はさかのぼり、小学一年生の宇川昴は自宅で両親と一緒にテレビに釘付けになっていた。

 2021年、一年延期になった東京パラリンピック、車いすバスケットボールの決勝戦が行われていた。


「カイト君はこの村のヒーローなんだよ」

 母親が言った。

「え? ちかくにすんでるの? かあちゃんのともだちなの?」

 母親は笑っている。

「向こうは母ちゃんの事なんか知らないけど、村の人達はみんなカイト君の事を応援してるんだよ」


「わっ! すごいパスしたよ。かっこいいな〜。ぼくもやりたいな。おしえてもらえるかな?」

 昴の目はキラキラしている。そんな昴を見て両親は複雑な顔をしていた。


 決勝戦は負けてしまったが、ゲームが終わってからも昴はずっとゲームの話と海斗かいとの話ばかりしていた。

「ねぇ、ぼくもやりたい。やらせてよ。どうやったらできるの?」

 最初のうちは適当に受け答えしていた両親も、昴があまりにもしつこく話してくるのでちゃんと話す事にした。

「なあ、スバル」

 父親が真面目な顔を向けてきた。

「あれはな、身体が不自由な人達がやるスポーツなんだよ。スバルみたいに走る事が出来ない人達だから車椅子に乗ってるんだ。足だけじゃなくて体とか手とかも不自由な人も一緒にやってるんだよ。スバルには出来ないんだ」


 昴は驚いた。

「え? ちっともふじゆうじゃないじゃないか。ぼくだってできるのに、なんでやっちゃいけないの? ねえ、なんで! なんで!」

 そんなのは不公平だ。

「足がちゃんとしてるからダメなの? そんなら足なんて切ってやる!」

 それを聞いていた母親が怒鳴った。

「スバル! なんて事言うの! 足が無い事がどんなに辛い事なのか、考えてみなさい!」

 昴は膨れっ面をしている。

「だって、やりて〜んだもん」

 しゅんとなって、黙ってしまった。


 両親もそれ以上の事は言えなくなってしまった。昴に向かってあんな風に言ってしまったものの、あんな風に言ってしまった事が気になって、車いすバスケの事を色々調べてみた。


「ねえ、あなた。イスバスって言うんだって。正式名称じゃないみたいだけど、イスバスって言った方が何かカッコよくない? 障害の程度によって選手達に1.0から4.5までポイントが付けられていて、健常者も参加が許されている大会もあるらしいわ。流石にパラリンピックとかは出れないみたいだけど」


 父親が顔を向けた。

「そうか。なるほどな〜。けど、スバルには立派な足があるのに、何でイスバスなんだろうな。バスケやればいいだろ? それならオリンピックだって目指せるんだし」


「そうね、何がスバルの心を動かしたのかしらね。でも、もしどうしてもやりたいのなら、一度あそこに行ってみるのもいいかもね。ほら、あそこのリハビリセンター、「ドゥーリハ」って言ったかしら。あそこにチームがあって、カイト君も普段はあそこで練習してるって聞いた事あるし」


「そうだな。まぁ、スバルの熱もすぐ冷めるかもしれないし。またスバルの方から何か言ってきたら、一度見学にでも連れてってもいいかもな」

 両親は自分達が色々調べている事が、取り越し苦労で終わる事を何となく願っていた。


 翌朝、昴はニコニコしながら朝食を食べていた。

「ねえ、しらべたんだ。ぼくもできるかもしれない。ほら、この村にある体育かんで、カイト君もれんしゅうしてるんだよ。見にきていいって」

「スバル、どうやって調べたの? そんな事」

 両親はびっくりした顔をしている。

「いくつかでんわしてみた。カイト君がれんしゅうしてる体育かんのおばちゃんが見にきていいって言ってくれた。カイト君もあさってくるんだって。ねえ、行っていいでしょ? つれてってよ」


 両親は困った顔で顔を見合わせた。父親が言った。

「よく調べたな。勉強もそれ位熱心にやってくれたらいいんだけどな。あさってか。父さんは会社があるから行けないけど、母さんに連れてってもらえ。大丈夫だろ?」

 母親は渋々頷いた。

「仕方ないわね」


「やった〜! やった〜!」

 昴は立ち上がるとスプーンを持ったまま台所を駆け回った。


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