イスバス 〜オレ達の軌跡〜
風羽
ニューヒーロー誕生!
「
テレビの中でアナウンサーが泣き叫ぶ。
2032年。オーストラリアで行われているブリスベンオリンピック。
テレビ画面に何度も映し出されるのは今大会のヒーロー、
若干17歳の高校三年生。彼がこの大会でこれ程の活躍をするなんて誰が予想しただろうか。
予選リーグでは殆ど出番が無くベンチを温めていた。トーナメント一回戦で日本がピンチに陥った時にいちかばちか作戦のように昴が登場した。そこから日本チームの雰囲気はガラッと変わった。昴はゲームを通してグングン成長し、三位決定戦はスタメンでフル出場。
圧倒的なスピードとトリッキーな動き、抜群のボールさばきは観る者を釘付けにした。
日本のエース、
フェイントをかけてとんでもない所に繰り出す正確なパスは相手チームが騙されるだけでなく、チーム員でさえ騙されてミスをしてしまう事もしばしば。昴の怒鳴り声が響く。
「どこに目付けてる! それくらい取れよ!」
プレー中の鋭い眼差しと罵声は、一見チームの和を崩しそうに思えたが、実際には真逆だった。昴がこのオリンピックでのゲームを通して変貌を遂げ、それを追従するかのように日本チームは変貌を遂げた。
昴はコートから離れると、まだあどけなさが残る高校生の顔になるが、その言動は小生意気だ。小学校を卒業するとバスケ留学をし、中学高校時代をアメリカで過ごしている彼は、敬語など知らないようで、日本語はあまり得意ではないのだろう。
「歴史を変えた? オレ、歴史なんて分かんねえし。対戦相手のいいプレーに負けたくなくて、オレのバスケは向上したと思うけど、まだオレのプレーに味方が付いてこれてない。オレはもっと凄いバスケをしたいんだ。四年後とか興味ねえけど、本場でギャインギャインにやりたいんだ」
生意気だ。試合後のインタビューでは、多くの選手が感謝の気持ちを真っ先に述べる中、昴はそんな言葉を一切口にしない。
「いい気になりやがって」
昴の事をよく思わない人もいたけれど、大多数の人達は彼のプレーに魅了され、口は悪くても彼の純粋な向上心と輝く目を見て、ついつい応援してしまうのだった。
日本ではちょっとした宇川昴フィーバーが起きていた。特に女子高校生達の間で、このやんちゃなイケメンはいつも話題の中心だ。
「ねぇ、観た? あのもの凄いスピードでの切り込みからのパス。自分でシュートするかと思ったら、後ろにいたノーマークの選手にパスだもんね。スバルって後ろにも目が付いてるみたい」
「プレー中の目、怖いよね。でも痺れる〜」
「何かさ、歳上とかに全然遠慮しないで、ビシバシ言っちゃってさ。ちょっと言葉、汚いけどカッコいいよね〜」
「コート離れると、まだ子供っぽい顔で何か可愛い。言う事は結構エグいけど。そのギャップが何かいい」
「たま〜にさ〜。ちょっと寂しそうな顔するよね。いい子いい子してあげたくなっちゃう。スバルって彼女いないのかな〜?」
「いないわけないじゃん。ねえ」
彼女達の持つスマホにはみんなお揃いのストラップが付いている。
赤いノースリーブのユニフォーム。背面にはゼッケン0《ゼロ》、その上には「SUBARU」の文字。
あの日から、昴は多くの日本の取材を受けるようになった。そんな事に時間を取られるのは嫌だったが、テレビや雑誌に取り上げられるのは気分が良かった。だから出来るだけ嫌がらずに対応するように心掛けていた。
「スバル選手がバスケを始めた原点は何ですか?」
そんな質問を何回も受けた。
「小四の時にテレビで観たパリ五輪。涼元凪のプレーに魅せられた。オレもあんな風になりたくて、すぐにミニバスチームに入った。そこからオレの生活はバスケ一色になった」
いつもそう答えていた。何回同じ事を言っただろう。もう十回を越えるかもしれない。いや、ちょうど十回目だったかもしれない。昴はそう答えた後、下を向いた。そして小さな声で呟いた。
「そう言い聞かせてきた。でも実際は‥‥‥」
「は?」
記者が首を傾げたが、昴はごまかした。
「何でもない。五体満足なオレらは、あれ位のプレーが出来て当然なんだ」
そう言って、昴はさっさと立ち去っていった。小四の時からずっと封印してきた物を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます