トリ娘プリティコンテスト ゲイルライダー
采目景
プロローグ
バサッ、バサッ。
耳のすぐそばから聞こえる羽音に、ハッと我にかえる。
目下の湖面に自分の影が映っていた。
真っ直ぐ伸びた身体と、その両脇に大きく広げられた翼のシルエット。それが、前から後ろへと流れていく波面の上で揺れている。
ということは、アタシはまだ琵琶湖の上を飛んでいるようだ。よかった。まだ落ちていない。どうも一瞬だけ意識が飛んでいたらしい。
素早く周りに目を配る。
前方にはおぼろげな水平線と島影。横目に見える自分の両腕には、光を受けて青白く輝く翼。それらが規則正しく上下運動をしていた。さっきの羽音は、もちろん自分のものだ。
そして右腕の向こう、少し離れた湖面に自分と並行して走るボートが見える。アタシのトレーナー、青葉さんの乗っているボートだ。
「少し高度下がったけど大丈夫?」
インカムからその青葉さんの声が聞こえる。
「大っ、丈っ、夫でっ、すっ」
答える自分の声が、どうしても途切れ途切れになる。それはそうだ。だってかれこれ一時間以上もこうして飛び続けているのだから。
バサッ、バサッ。
前へ、前へ。
1秒でも長く、1メートルでも遠くへ、飛び続ける。それが、この「トリ娘コンテスト」でのアタシの使命。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
肺が苦しい。吐く息に微かに鉄の味がした。二の腕から先の感覚が無くなっていることに今さら気付く。
バサッ、バサッ。
不意に横から殴りつけてきた風を叩き伏せるように、両腕の翼を大きく
――そう思った瞬間。
「うああああぁぁぁあっ!」
左腕に雷でも通ったかのような激痛が走った。不規則な風の中、予定以上に長く翼を強めに
「どうしたの?!」
すかさず青葉さんからのインカムが入る。
「腕がっ!腕がっ!」
息切れと痛みでまともに返答もできない。
それでもまだ、翼は動いている。まるで自分のものでは無いみたいに。
感覚が無くなってるから、一瞬でも気を抜いたら今にも止まりそうだ。
「動けっ!動けっ!動けぇぁっ!!」
ふと目の前に、地元のみんなの顔が浮かんだ。
涙が浮かぶ。
みんな、見てて。
「アタシは!風を!」
乗りこなしてみせるんだ。
叫んで、両翼を大きく風に叩きつけた。
◆
青葉は、走るボートの上から飛んでいる彼女をじっと見ていた。
本調子ではない。体もかなり悲鳴をあげているだろう。でも、彼女のフライトを止めることはできない。したくなかった。
叫びながら飛ぶ彼女の姿をみながら、青葉は彼女と初めて会ったときのことを思い出していた。
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