【第九回文フリ大阪】The Next Week's Hero(試読)

風早れる

prologue


「お疲れ様でした」

 そう定型的な挨拶をしてデスクを出ると、また今日が無意味に終わっていった。会社というものは退屈だ。時間通りに起きて、やっているのは誰かの代わり。自分がいなくたって、代わりなら唸る程いる。誰も進んではやりたがらない退屈な事をやって、お金をもらう。それが社会の仕組みである。ただ、その退屈さも今は気が紛れるし体にはいいのかもしれない。


 気がつけば俺は、通勤ラッシュ時間帯にも関わらず、人の影が生まれる気配の全くない汽車に揺られていた。

『次は~青谷~運賃は整理券と一緒に、運賃箱にお入れください』

 ワンマン列車の車内には、顔も見たこともない女の人の声が、いつもと同じく無機質に流れている。外を覗いてみると、いつの間にか直視できるくらいに赤く焼け切った太陽が、列車の窓を焼いている。そんな夕日が海をライトアップする、美しい意外の言葉では形容できないありきたりな景色を、今日も一枚の仕切り越しに眺めていた。

段々と、夕日は水平線と同化し、明るさを絶やして夜をもたらしていく。彼が永遠と輝きを保てないお陰で、月や星達が輝くことが出来るのだと思うと、空は俺の人生の縮図のようだ。


頼むから、「君」の事を忘れさせて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る