ボックス•イン•ザ•ラヴ
結城彩咲
◇
『あの時は、ごめん……でも俺、やっぱりお前のことが好きなんだ!』
「……っ! 嬉しい。あなたから、そう言ってもらえて……!」
私たちは昨日、喧嘩した。何度目か分からない、罵り合うような激しい喧嘩を。
昔は周りから羨ましがられるほどのラブラブカップルだったのに、結婚をして一緒に暮らし始めてからは些細なすれ違いから何度も喧嘩をして。
でも、毎回決まって彼の方から謝って、その度に愛を伝えてくれた。たとえ私が圧倒的に悪いような時でも関係ない。意地を張って大人になれない私を、彼はそうやってずっと好いて……愛してくれ続けていたのだ。
そしてそれは、今も。彼が会社の同僚と浮気したのではないかと、ひょんなことから私が疑ってしまって……言い争って。今回ばかりはもう我慢できないと彼は家を出て行ってしまったのに、一日経った今日、帰ってきて、今こうやって私の目の前にいてくれている。
(ああ、やっぱり私、この人のことが好きだ……何にも変えられないくらい、心の底から好きなんだ!)
こんな面倒くさい女を、ずっとずっと好きだと言い続けてくれて。何度も、何度も何度も何度も、そばにいてくれようとしてくれていた。
幼なじみとの浮気を疑った時も、隣の部屋の新妻との浮気を疑った時も、高校時代の後輩との浮気を疑った時も元カノとの浮気を疑った時もバイト先の先輩との浮気を疑った時も私の姉との浮気を疑った時も、そして会社の同僚との浮気を疑った今回も。
「私も、大好きだよ。ずっと、ずっと一緒にいようね」
もう、絶対に彼を疑わない。疑わなくて済むように、誰にも会わせない。
そうだ、私がお金を稼ごう。よく考えたら簡単なことだった。彼には会社を辞めてもらって、私が何時間でもパートで働いて頑張ればいい。家に帰った時に彼が迎えてくれるのなら、私は絶対頑張れる。
本当はずっと、片時だって離れたくはないけど、仕方ないよね。収入無しじゃこの国では生きていけないもん。家賃だって光熱費だって、あとは税金だって払わなきゃ。
だから、家も引っ越そう。今もそれほど大きな部屋を借りているわけじゃないけれど、もっと小さなアパートに。いずれ子供を作るなら貯金だってしなきゃいけないし、しばらくは狭い部屋で二人、肩を寄せ合って過ごそう。
パートの時間帯はご飯の時間とズラして、ちゃんと三食私が作ろっ。彼は器用なところはあるけど、料理だけは苦手だからなぁ。前に一度一緒に作った時、手元を滑らせて私の方に包丁が飛んできた時は流石に死んじゃうかと思ったもん。
きっとこの先、苦しいこともいっぱいあると思う。お義母さんは家に何度も押しかけてきては私たちの恋路を邪魔しようとするし、独身の姉さんはすごく悲しそうな顔をしながら、私を家に連れ戻そうとする。
でも、そんなことには屈しない。大家さんもちゃんと家賃を払っているのに私たちを出ていかせようとする意地悪な人だけど、引越し先まで来たりはしないもんね。誰の邪魔も入らない静かなアパートで、私が絶対に彼を幸せにして見せる。彼の想いに、答えるんだ。
「あはは。あははははっ」
楽しみすぎて、笑みが止まらない。不思議と目からも涙が伝ってきて、私は顔を見せられなくなって咄嗟に目を逸らした。
彼は私を心配してあたふたしているし、私も早くこの涙を止めたいんだけど。でも、何故か止まらない。嬉しさが溢れて、止まらない。
(私、こんなに幸せでいいのかな……)
初恋相手と結ばれて、一生を共に過ごせる。こんなに幸せなことはきっと他にない。
彼の頭をなでなでして、照れ臭そうにしているのを見ながら湿らせたハンカチでそっと拭いてあげる。その間もずっと私の心は好きで満たされていて、その気持ちが消えることは絶対にない。
好き。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。大好き。
「……って、そろそろ夜ご飯の時間だね。今日はとびっきりのご馳走作るから、楽しみにしてて。愛してるわ、あなた♡」
もう何度目か分からない、彼の真っ白な可愛いおでこへのキスをして。私は箱を、閉じた。
ボックス•イン•ザ•ラヴ 結城彩咲 @yuki10271227
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