純潔絶頂聖女外伝 超聖水のまわりでは
沖石絃三
繰り上げ聖女とディルド修道女の百合聖水
私の名はジョエル・シャリエ。サルーム大神殿の聖水担当神官だ。
サルーム大神殿のある、ここ聖都ヨルサルームでは、話題の新人聖女フランソワーズ・モレルのつくる聖水が評判を呼んでいた。
フランソワーズ・モレルといえば聖女候補学生時代の評判は芳しくなかった。卒業後の判定の際にも聖女候補らしからぬ体の線を強調した扇情的な服装であらわれたが、世間の評判を覆す高い魔力での聖女判定が下された。逆に大神殿での聖女職に内定していた主席卒業のセリーヌ・フォーレがまさかの聖女判定がされず、大神殿では調薬担当の修道女となっている。
聖女フランソワーズが聖女を結婚退職した元聖女オレリーの治療院を継いでフラン治療院をオープンさせた頃から、聖水についての問い合わせや相談が増えた。
相談の多くは聖水の品質についてだった。聖水はその効果に多少のばらつきはあるが、無色透明で色などでの違いは判らない。過去に魔族や霊族との争いが頻発していた頃は、魔道具で判定した等級に従って色分けした容器に入れていたが、現在では聖水としての基準をクリアすればよく、等級分けはない。
しかし効能に明らかな違いがあるものが同じ値段で売られているので困るとの苦情が多く寄せられた。数年前、個人治療院が販売する聖水には聖力が不十分な準聖水が出回ったこともある。聖水担当神官としてすぐに調査に乗り出した。
公式品でもある神殿製の聖水について各聖女の聖水を魔道具にて判定したところ、きちんと聖水を示す黄色が表示された。聖水の材料となる純水は青色判定され、聖水には不十分な準聖水は黄緑色となる。
次に冒険者ギルドが契約した聖女から仕入れている聖水を無差別に選んで判定器にかけたところ、不合格の準聖水は無かったが品質の高さを示す檸檬色に判定された上聖水が一つだけあった。
そして治療よりも聖水販売で冒険者たちに評判のフラン治療院の聖水を判定したところ驚きの結果となった。普通の聖水として標準価格で売られていたものが全て檸檬色の上聖水、上級品として小さな容器で同一価格で売られていたものがなんと金色の超聖水と判定されたのだ。金色の判定は初めて見た。
かつて勇者アルフォンスが霊魔王スペクターを倒した際の伝説の聖水を作ったと言われる大聖女ロザリー様にお伺いを立てると、スペクタークラスを倒すことができるレベルの聖水に間違いないと認められた。
それからの私は多忙を極めた。過去制度を参考に聖水価格を三段階として標準品、上聖水、超聖水に再編し、神殿とギルド以外の販売所には判定器を設置することを義務付け、神殿による判定器のレンタルも開始した。新制度の浸透により聖水相談騒ぎはようやく沈静化した。
標準的な聖水に対して価格を五倍、十倍としたにもかかわらず上聖水や超聖水は高ランクの冒険者や入院設備のある大規模治療院に需要がありそこそこ売れていた。しかしサルーム神殿所属の聖女で上聖水を聖成できるのはわずか二名で、それも標準聖水にたいして十倍以上の魔力を同じ時間に集約する集中力が必要だったため、効率が悪かった。魔力があっても集約できずに失敗することが多かったのだ。膨大な魔力量を誇る大聖女ロザリー様もかつてのように魔力を瞬間的に集約して高めることができないとおっしゃっていた。
ロザリー様に再度お伺いを立てるとフランソワーズはおそらく聖水を効率的に聖成しているだろうから、納入できるか打診せよとのことだった。連絡を取るとすぐに持参して納入された。聖女資格喪失からずっと荒れている修道女セリーヌとのトラブルはあったが、ロザリー様のお出ましにより事態は収まった。お二人の会話によると、どうやら聖女フランソワーズは大聖女ロザリー様と同様の素質をもつらしい。秘匿されている聖水聖成の一端でもなんとか引き出せないものか、と思っていたらなんとフランソワーズからの提案があった。
聖女の魔力や集中力を高めるため他のものが補助してはどうかと言うことだ。しかし聖水は単一の聖女の魔力でないと聖成されないというのは常識だ。
フランソワーズが言うには聖女に対して魔力を与えることによって聖女の聖力を高めるのこと。なんとそんな方法が!
大聖女ロザリー様全盛期の頃、当時若き神官であった大神官エドモン様が超聖水聖成にお力添えをしたとの噂もある。戦乱時代には行われていたことが太平の世に失伝してしまったのかもしれない。
風評と違い聖女フランソワーズは大聖女ロザリーと共通の素質を持ち、聖水聖成に関する研究心旺盛な未来の大聖女なのかもしれない。
聖女を補助できるのは聖女が心から信頼できる魔力の強いものだ。純潔な聖女が信頼できる者でないと難しいとフランソワーズも言っていた。
聖女付きの修道女は秘書兼侍女のような存在であるから、彼女たちから事情を聴いてみよう。彼女らで魔力の大きな者がいれば話は早いのだが、魔力の高い修道女は調薬付きか治療院付きになってしまい、聖女付きになる修道女は魔力よりも実務力なので、やはり情報収集からだ。
独力で上聖水を聖成できた二名からはじめよう。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆
私の名はアンナ・グラッセ。サルーム大聖堂所属の新人聖女です。
王立学校の聖女科を出て大聖堂に所属しています。聖女として認定されると大きな治療院などで研修を兼ねた仕事をして魔力を安定させて成長させてから大聖堂の試験を受けて所属するのが普通で、卒業してすぐに大聖堂に所属できるのは毎年一人いるかいないかです。
なぜ成績も魔力量もトップじゃなかった私が大聖堂に所属しているのかというと、大聖堂に内定していた親友の代わりなのです。親友は聖女科で委員長を務め、成績も毎回首席で魔力量も多く、大聖堂に内定していました。
ところがなんと親友は聖女資格喪失で聖女に認定されませんでした。親友は首席で居続けること聖女候補らしくあることのプレッシャーから、
彼女は先輩聖女達が委員会に残した日誌に巧みに隠されてしたためられた情報を読み解き、ゆっくりと徐々に広げるやり方で、膜を破って出血することなく、慰めていたのです。ところがその
彼女、セリーヌ・フォーレは大神殿の修道女となり、副委員長の私が大神殿所属の新卒聖女となりました。
聖女になって先輩方と一緒に治療や道具の祝福、聖水の聖成などを実地で学びながら聖女の務めを果たしていると、世にいう聖水騒動が起こりました。
ランクの違う聖水が混在して売られているということでした。担当の神官様が古来の聖水ランク制度を簡略化して復活し、騒動は収まりました。聖水は聖成後に必ず魔道具の判定器によって判定することとなり、私たちは判定色が檸檬色で表示される上聖水にチャレンジすることになりました。大聖女様の魔術レシピに従った魔力量を集中して高めて一定時間に注ぐやり方でチャレンジした結果、三度目で上聖水を聖成することができましたが、翌日は寝込んでしまいました。
私は魔力量がそんなに多くなかったのですが、学生時代に親友のトレーニングに付き合ったり、親友に教えられて練習して魔力量が増え、集中力も上がりました。限界まで頑張ったあと親友に抱きしめられて頭を撫でられると魔力量が増えた気がします。
一部の修道女からの要望があり希望する修道女が聖水聖成体験をしましたがどんなに大きな魔力を集中させても、判定色が緑色か黄緑色の準聖水にしかならなかったとのことです。聖成はポーションの錬成とは違い、分担することができません。聖水は聖女が一人で魔力を込めないと完成しないため、ポーションなどにも転用できない準聖水は無駄になってしまうのです。
私と同期の『奔放聖女』と呼ばれている聖女フランソワーズが上級聖水を納品に来た際、セリーヌが絡んで騒動を起こしたようです。セリーヌはとらわれて反省房に一日入りました。フランソワーズが例の
聖水聖成にて、新たな試みが行われました。聖女が信頼するパートナーのサポートを受けて聖水聖成する試みです。聖水には聖女が一人で魔力を込めるのですが、その聖女に聖力をサポートして魔力の高まりと集中化を助けるものです。
なかなか試みが始まらないのは『心から信頼できる強い魔力のパートナー』がネックとなってるようですが、私に迷いはありません、セリーヌです。ただ、彼女が了承してくれるかどうか一抹の不安があります。
修道女は一人部屋ではないので、私の部屋に彼女を呼んで試みについて話しました。
今の私があるのは彼女と共に過ごしたおかげだし、いつも彼女が引っ張ってくれたから。聖水聖成の時も学生の時のように彼女に励まされながら彼女と一つになって聖成したいと説得し、彼女はうなずいてくれました。
セリーヌのサポートによる聖水聖成の試みが行われることになりました。神官さまが立ち会う予定だったのですが、大聖女ロザリー様が『そんなことをしては成功するものも成功しない。鍵も掛けて完全に安心できる環境で行わなければならない』とそれはそれは強硬におっしゃられたそうなので、二人きりとなりました。
いつものように聖成の準備を始めます。今日は魔力の浸透がいいように小さめのサイズの容器です
「ねえアンナ、どういう風な体勢でサポートしたらいいかしら」
「じゃあ、ま、まず、後ろから支えてもらおうかな」
セリーヌの両手が私の腰に添えられます。徐々に魔力を高め聖水容器に集中します。
「私はあなたに集中すればいいのね」
ドキドキします。
でも、なかなかセリーヌを感じられません。セリーヌが上着をまくって私の肌に直接触れます。
腰が温かい……。
心臓の鼓動と魔力が高まりました
「ドキドキしてる……セリーヌの温かさを感じるわ」
「アンナ、頑張って」
セリーヌの腕がおなかに巻き付いてきました
「この方がアンナを感じられるわ……頑張って、今はあなたが委員長の立場よ…」
「えっ?」
「私が聖女のあなたをサポートしているのだもの……」
「そんな!」
「ちがうの?」
「ちがうわ。サポートいう試みだけれど、わたしはセリーヌと一つになって聖水を作りたい!」
「一つに?」
「そう、もっと一つに!」
「じゃあ……」
セリーヌが片手ずつ離すと私の上着をもっとまくり上げ、背中に密着してきた。
「セリーヌ!」
「どうかしら?」
「あなたを……あなたを感じるわ!」
やわらかいものがわたしの背中に密着している
「もっと強く抱きしめて」
魔力がたかまって来る。セリーヌの魔力の高まりも感じる。
でも、何かもどかしい。もっと上を抱きしめてほしい、包んでほしい。
けれど、そんなことは言えないわ
……そうだ!
「お願い、心臓を、心臓を包むように抱きしめて!」
セリーヌの手が邪魔なものをずり上げ心臓を包み込むように私を包んだ。
そして手が何かをつかむように動いた。その瞬間魔力が急激に高まり、容器の中の水が煌いたように見えた
私は容器を掴み、セリーヌは私の心臓の上をつかみ、二人とも小刻みに震えていた。
震えが止み、息を整えて、身支度をして外にいる神官様を呼ぶと、神官ジョエル様と、大聖女ロザリー様が部屋に入ってきた。
「ロザリー様!」
セリーヌの目がまん丸になっている。
神官ジョエル様が容器からスポイトで聖水を取り、判定器にたらした。
金色だ!
「超聖水ね。セリーヌ・フォーレ、素晴らしいサポートでしたね」
「ロザリー様、セリーヌのサポートではなく、セリーヌと私はひとつになって聖成したのですわ」
「そうです、アンナと一つになって同時に魔力が
「そう、ひとつになったのね」
ロザリー様は目を細めていらっしゃいました。
私とセリーヌは、神殿の超聖水担当になりました。
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