第二三話 砲弾


「テッド、看守さんを連れてきたぞい!」


「ボスッ、キルキルを連れてきたぞおおおっ!」


「なんだいなんだい、食事中だったってのに。もし喧嘩が発生しなかったら、二人ともズタズタにしてぶっ殺してやるから覚悟しなっ!」


「「ひいっ……!」」


「…………」


 アントンとスティングが看守と一緒にやってきたわけだが、キルキルが二人を脇に抱えてる状態で、彼女のほうが連れてきてるような状態だった。


 とにかく、眼帯の女ダーナがもうすぐ食事を終わろうとしていたので、いよいよ喧嘩ができるってわけだ。


「テッドよ、戦うと決めた以上、絶対に勝つのじゃ! やつの加護は、じゃぞ!」


「砲弾のようなものか……」


 アントンのことだから多分今回も微妙に間違えてそうだが、それでも参考にはなる。彼女にはこっちの戦い方を知られてるはずだから、アントンが敵の加護を教えてくれると頼もしい。


「ボスッ! 応援してるじぇえええええっ!」


「おい、私の耳元で大声を上げるな、このワニ野郎――囚人番号84!」


「イデッ!?」


 スティングの応援も、キルキルにぶん殴られるくらい声が響くので勇気が出る。


「――ふう、食べ終わったよ。テッドとかいったか、後悔しないようにね。いや、悔やむ前に死ぬか」


 食事が済んだダーナが立ち上がり、クールに言い放つ。もう、いつ喧嘩をしてもいい状況だが、俺としてはもう少し時間を置きたかった。食事中とか、食べてすぐのところをいきなり襲うなんていかにも小物っぽいしな。


「一つ忠告しとく! おめーら、食堂ぶっ壊したら当分食事抜きだから、暴れすぎないようにしろよっ!」


 キルキルの警告は、ある意味少しなら壊してもいいってことだ。ダーナは手加減できない性分と言ったし、それならこっちも最初から本気を出してやる。


 というわけで俺は早速、この喧嘩を短時間で終わらせるつもりで三つの思念を纏う。


【灼熱の記憶】【鋼鉄の意思】【破壊願望】という、今所持している全ての思念だ。三つも使うってことで気力の消耗は激しいが、このセットなら身体能力そこそこで精神は安定する上、防御力も高い。


「――行くぞっ!」


 俺はダーナに向かって飛び掛かっていく。


「せいっ、はあっ!」


「……遅い」


「え……」


 俺の攻撃は、ことごとくかわされてしまった。【鋼鉄の意思】を使ってるから遅くなってるとはいえ、それでもかなりのスピードのはずなんだが……。


「今度はこっちから行かせてもらうよ――!」


「――っ!?」


 ダーナがそう言ったと思ったときには、俺の体に強い衝撃が走っていた。


「ぐはあっ……!」


 そのまま背中から壁に激突したわけだが、【鋼鉄の意思】を纏ってるのに凄く痛かった。


 な、なんだ今の……例の砲弾攻撃だろうか? あまりにも速すぎてまったく見えなかった……。


「ほらほら、どうした、テッド。さっきまでの威勢の良さはどこに消えたんだい!?」


「ぐっ……!?」


 とにかく避けようとして動くも、その途端に脇腹に強い痛みが走り、俺は椅子やテーブルを巻き添えにして床を転がる。


 ダ、ダメだ……。相手の攻撃が見えないので避けようがない。こっちから攻撃しようにも、例の攻撃ほどじゃないが素早く回避されてしまう始末。


 ここまでスピードに差があると、最早どうにもできないな。ただの的だ。


「ほらほら、もういっちょ行くぞ――!」


「――ぐはああぁぁっ!」


 断末魔の悲鳴が響き渡る。


 それは俺のものではなく、食事中だった巨躯の囚人が巻き込まれ、胴体に穴が開いたことから生じたものだった。な、なんて凄まじい威力だ……。


「あーあ、一人やっちまったか……っていうか、どうした、テッド? 口先だけで、逃げ回ってばかりじゃないか。あたいが喧嘩を買ったからには、死ぬまでやってやるから、覚えときな……」


「…………」


 眼帯女の片方の目は本気だった。俺はこの喧嘩で負ければ間違いなく死ぬってわけだ。


 だが、こういうピンチのときこそ逆に冷静にならなきゃいけない。現在の状況を俯瞰するんだ。


 ダーナは例の砲弾のような加護を使ってくるわけだが、それが滅茶苦茶邪魔なんだ。なんせ、その速度と威力が尋常じゃない。【鋼鉄の意思】を纏っていなければ即死級のダメージを食らうからな。外したらかわせるかもしれないが、もし当たったらと思うと決断できないし、それくらいのスピードなんだ。


 こっちが反撃しようにも、彼女は身体能力も極めて高いのか素早く回避されてしまう。


 それでも、隙がまったくないわけじゃない。やつは余裕っぽい態度と言葉でごまかしてるが、砲弾の連打ができないのはバレバレだ。本気で殺す気ならとっくにやってるに決まってる。さらに、砲弾をやっている間、反動によるものなのか、やつはまったく動いてないのがわかる。


 だから、ダーナがそれをしてくるタイミングさえわかれば、こっちも反撃できると思うんだ。俺は痛みに耐えつつ、そのチャンスがやってくるのを注意深く待つことにした。


 ――今だ! 俺はやつが加護を使ってくるタイミングを予測し、その直後に屈みこむようにして避けると同時に走った。


 よし、一か八かだったが上手く回避できた。ここでノーガード状態のダーナに攻撃すれば勝てるぞ……!

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