救助者ギルドを首にされた俺は【思念収集】の加護で無敵になる~冤罪から始まる快適な囚人生活~
名無し
第一話 残留思念
「あの人は、あなたのことを最後の最後まで大事に思っていました……」
「そうなんですね……。どうもありがとうございました……ぐすっ……」
迷宮で散った冒険者の最期について、俺はその帰還を待ち望んでいた少女に打ち明けたところだった。
俺の名前はテッド・シールス。七大迷宮都市の一つ、アセンドラの都で暮らしている16歳の少年だ。
迷宮に潜れる15歳に達して以降、幼馴染たちと故郷の村ファインズを発ち、アセンドラの救助者ギルドに入って一年の月日が流れた。
救助者ギルドっていうのは、迷宮で遭難した冒険者パーティーを救出するための組織だ。
現場がどんな状況かを調べる調査係、モンスターを駆除する火力係、迷って二次被害を出さないための道案内係、さらには死体や遺品、場所から冒険者の最期とその意思を汲み取り、伝えるための遺言伝達係なんてのもあって、それが俺の仕事なんだ。
この世界では、誰もが10歳になると神の天啓を受け、加護を受け取る。
例えると、【タフ】という加護だったら他人より体が大きくなり、丈夫になりやすくなるし、【魔術師】という加護なら、魔法能力が格段に成長する。
もちろん、修行によって体を大きくしたり、魔法能力を鍛えたりすることはできるが、加護があるとないのでは天と地ほどの差があるため、加護を生かした仕事に就く人がほとんどで、俺もその一人だった。
自分が貰った加護は【思念収集】といって、残留思念を集めることで死に際の思いや光景を追体験することができるので、遺言伝達係はまさに適職といってよかった。
ただ、魔法職に適した加護を持つような魔力の高い人でも、大雑把にではあるものの代用できるらしくて、それが原因なのかは知らないが、最近はギルドメンバーの一部から冷たい視線を向けられることも増えてきている。
魔力が高い人なら、戦闘面で俺よりずっと役に立てるわけだからな。感動の押し売り、楽をしているだけ、なんて冷ややかな声も耳に入るようになってきた。さすがに幼馴染たちからは何も言われてないものの、それでも壁みたいなものを感じ始めていることは確かだ。
そんな不穏な空気が漂い始める中、俺はギルドマスターのいる部屋に呼び出されている。
まさか、役立たずとしてクビにされてしまうんだろうか? 今や立場が変わって軽く挨拶し合う程度の関係になってしまったとはいえ、かつては親友といえるほど仲が良かった間柄だったんだ。そんなはずはないと思いたいが……。
「テッドです。失礼します」
「やあ、テッド。よく来たね」
煌びやかな椅子に座っていたギルドマスター、ライル・スタートンが微笑みを浮かべながら立ち上がった。【カリスマ】とかいう、人の心を支配しやすくなる効果の加護を貰ってから、どんどん出世し始めた男だ。意志の強いタイプの人間にはあまり効かないらしいが……。
「どうも、ギルドマスター、なんの御用でしょうか」
「ライルでいいよ、テッド。敬語もなしだ。僕たちの仲じゃないか」
「…………」
ライルは随分前から偉そうにふんぞり返ることが多くなってて、こっちが挨拶しても普通にスルーされてたのに、今日はなんだか不気味なくらい優しいと感じた。
「ここにテッドを呼んだのは、理由があるんだ。最近、メンバーから君に対して苦情が幾つも入っていてね……」
「苦情?」
「そうさ。弱い上に楽ばかりして、最後に美味しいところだけ持っていくテッドが憎たらしいってね……」
「……そっか」
各自に主な役割があるとはいえ、戦闘に関しては迷宮に潜る以上誰であっても強制参加で、俺も弱いなりに頑張ってきたつもりだったが、やっぱりそういう風に思われてたんだな。でも【思念収集】っていう加護自体、戦いには向いてないから仕方ないか。
「ライルもそう思ってる?」
「いや、誤解しないでくれ。僕はそんな風には思ってない。君の加護が戦闘向きではなく、迷宮で残留思念を収集するとき、追体験で苦しい思いをしなきゃいけないことは重々承知している。でも、今回の件ばかりは庇い切れない……」
「今回の件……?」
「実はね、テッド。前々回に潜った迷宮の件ついては覚えているかい? ほら、指輪のやつ」
「あ……」
それは今でも克明に覚えてる。現場には遺品の指輪だけが遺されていて、そこから収集できた思念は、一瞬で体が焼け付くほど熱くなり、視界が真っ白になるというものだった。
おそらく強大な威力の火魔法によって、断末魔の悲鳴すら上げることもできずに焼き尽くされたんだと思うけど、指輪だけは高価な魔鉱石で作られたものだから無事だったんだ。それについて被害者の家族に報告するとき、凄く申し訳なかったのを覚えている。
「あのあと、その指輪がなくなったみたいでねえ。この件に関わったメンバー全員、調べることになっているんだ。悪く思わないでくれよ……」
「え……?」
「そういうわけだ、この男の体を調べたまえ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
「はっ……!?」
四方から一斉に出てきた兵士たちによって、俺は槍を突き付けられていた。隠れていたのか……。
「――ありました、例の指輪であります!」
「なっ……?」
兵士の一人が俺の体をまさぐり始めたかと思うと、指輪を取り出した。そんなバカな、確かに被害者の遺族に渡したのに……。
「テッド、失望したよ。君が犯人だったとはね……」
「ち、違うっ! ライル、これは何かの間違いだ! 俺は盗んでなんかいないっ!」
「もういい、犯罪者のテッド・シールス、君を除名処分にする。本当に最低な男だね……」
「ライル、違うんだ、本当に……」
「証拠があるのに、言い逃れができるとでも思っているのか? 家族にとっては大切な形見なわけで、それを情け容赦なく奪った挙句、冤罪を主張するとは鬼畜にも劣る行為だ。これから君は、どんな屈強な囚人でも脱獄が不可能と言われる、異次元の監獄行きになる……」
「…………」
ライルの冷たい視線と台詞が俺の胸に突き刺さった直後、すぐ背後に誰かが立って首元に強い衝撃を感じるとともに、意識が薄れていくのがわかった……。
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