第9話 ショタワンコの英雄への第一歩

俺は再び、まだ壊れてない的に対して

手を前に突き出して唱えた。



「炎魔法『フレイムバースト』」



自分の身長ほどのデカい火の玉が放たれる。

その火の玉は的に当たって大爆発をした。



ど、どうだ!!



ミリアさんとゲルドさんは驚愕を通り越して

青ざめていた。


それとは対象的にドヤ顔をするエリスお嬢様とココさん。


そして、これがどんだけすごいのかピンと来ていない俺。


3つの世界が入り交じっているかのような微妙な空気だ。


な、なんなんだこの状況は?


そんな中、最初に口を開いたのはギルマスのゲルドさんだった。



「し、信じられない…まだ子供なのに中級魔法を無詠唱で放つとは…」



うん、イマイチわからないからちょっと誰か説明して。



「中級魔法を無詠唱で発動できるなんてA級冒険者以上の魔導士だけですよ! こんな天才がいるなんて聞いたことがありません!」



ミリアさんの言葉で少し分かった。

つまり、俺は新人冒険者として登録しに来たのだが一流魔導士でココさんと同格ランクの冒険者ということか。


期待の新人かと思いきや規格外レベルか。



「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。

君の名前はなんて言うのかな」



ミリアさんが如何にもお姉さんが子供に聞くような感じで聞いてきた。


すると俺が答える前にココさんが答えた。



「クズイチ…ゲフンゲフン!

ウェル・ベルクと言うそうです」



今クズイチって言った!?

クセが取れない!?


俺はさっきクズイチという名前とお別れしたばっかなのに!!!!


おかえり、クズイチ。




そういえばこれは実力を計るテストなんだよな。

実は俺は魔力も撃てる魔法の種類もまだ余力がある。


目立つのは良くないが

この二人なら言い広めないだろうし

せっかくだから俺の実力を全部見てもらおう。


ということで残りの的を全部落としてみるか。



「雷魔法『サンダーボルト』

氷魔法『コールドランス』

風魔法『ウィンドウジャベリン』

毒魔法『ヴェノム』

光魔法『フォトンショット』

闇魔法『ダークショット』」



俺は次々と初級から中級の色んな属性の魔法を使って的を落とした。


これで2人に見せた属性は9つになるのだが、



「…」


「…」



ちょ! ミリアさん! ゲルドさん!


息してない!?


生気を感じない!?




「…俺は夢でも見ているのだろうか…。

歴史上でもこんな天才は聞いたことがない」



「世界一の英雄になるのも夢じゃありませんね!」



英雄?

この世界の英雄って何を意味しているんだろうか?




「ふっふっふ、まだこんなもんじゃありませんよ。

ゲルドさん、ウェルくんと剣で戦ってみませんか?」



え? ちょっと待ってココさん!?



「…ふ…はっはっは! 面白い!

剣も使えるのか! 俺自ら実力を確かめてやる!」



ま、待って!

俺はココさんに


「執事足るもの強くて当然」


と言われて半ば強制的に木刀で剣術を学んでいたけど、ボコボコにされたことしかないよ!?



と頭で思っている間にゲルドさんが

やる気マンマンマンゴープリン(?)と言わんばかりに

木刀を持って準備を始めた。


すると俺にも子供の身長に合った木刀を渡されたので仕方なく構えた。



「さぁ! どっからでもかかって来い!」



あぁ、やるしかないのか。


まぁ、やるだけやってみるか。


ココさんがそう言ったんだから何か糸があるはずだ。



そのとき、固有魔法『ラーニング』の効果で

ココさんから受けた剣術が発動した。


わかる。わかるぞ。


この木刀をどう振り回せばいいのか。

頭でわかり、身体でわかってくる実感がある。




縮地。




俺は一瞬でゲルドさんの懐に飛び込んだ。



「うぉ!?」



驚いた様子のゲルドさんであったが完璧に反応して俺の攻撃を防いだ。


そして、ここからお互いに拮抗した攻防が続く。


いや、やはりゲルドさんの方が上手か?



「く!?」



「はっはっは!

最初は驚いたがまだまだ俺を倒すには足りんぞ!」



ちょっと大人気ない!?

いや、一人前と認めてくれているのか?



「ココ、ゲルドとやらはどのくらい強いのじゃ?」



「簡単にいうと私より強いですね。

私と手合わせして2勝8敗といったところです。

ウェルくんがゲルドさんを剣だけで倒すのは

かなり難しいと言えます。剣だけでは…ね」



激しい攻防戦から次第に防戦一方になる。

くっ、やはり経験の差か!


いくら他人の経験が頭の中に流れ込んできても

俺自身がついてこれなければ宝の持ち腐れだ!


そうでなくてもやはりゲルドさんはココさんより強い!


ココさんの剣術ではゲルドさんの剣術に勝てない!


よし、ずるだがまだ見せてない魔法を使おう!

これはテストだしな!



「空間魔法『テレポート』」



空間魔法『テレポート』。

一瞬で別の場所へ移動する魔法。

移動距離は最大50mだ。


俺はこの魔法でゲルドさんの後ろに瞬間移動した。



「な、何!? 消えた!?」



ぴと



俺はゲルドさんの首元に木刀を当てた。



そう、俺はゲルドさんに勝ってしまった。




「……ふ……はっはっは!

参った! 俺の負けだ!」



剣ではゲルドさんの方が一枚上手だが

魔法を使えばゲルドさんより強いというのは

明らかである。


本日披露した魔法の種類は10。


つまり全属性の魔法を扱えて

更に剣術もココさんレベルに一流ということ。



「す、凄すぎです!」



驚きと興奮で思わず叫んでしまうミリアさん。



ここでテストが終了。


その結果。

期待の新人ウェル・ベルクはA級冒険者に任命。

ここのギルド初となる特例が出される歴史的瞬間である。


しかし、これが英雄となる第一歩と同時に

波乱の幕開けというのは、まだ誰も知らない。

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